オスカー俳優ケヴィン・スペイシー、『メン・イン・キャット』で見せた渾身の“猫演技”
ここ数年、国内では『猫侍』『先生と迷い猫』『猫なんかよんでもこない。』『世界から猫が消えたなら』『ルドルフとイッパイアッテナ』などの“猫映画”が立て続けに公開され、改めて“猫”に注目が集まっている。そんな中、オスカー俳優ケヴィン・スペイシーが、なんと“猫”に変身してしまう傑作コメディ映画『メン・イン・キャット』が堂々お目見えする。本作は、家庭を顧みずに仕事を最優先する、大企業の超ワンマン社長トムが、ひょんなことから猫に変身してしまったことから始まる珍騒動を、『メン・イン・ブラック』シリーズのバリー・ソネンフェルド監督がハイテンションで描き出す。
ケヴィン・スペイシーと言えば、『ユージュアル・サスペクツ』『アメリカン・ビューティー』で2度のアカデミー賞に輝いた演技派俳優として知られている。『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』などのダークな役柄はもとより、『ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~』では主演・監督・脚本・製作の四役をこなし、甘い歌声と華麗なステップを披露するという芸達者ぶりも見せつけた。最近は、自身が主演と製作総指揮を担当するアメリカのドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』も好評で、役者としてノリにノッている。元祖ちょい悪オヤジといった雰囲気を身にまとうケヴィンだが、2011年公開の『モンスター上司』では鬼のようなパワハラ上司を怪演し、コメディセンスも天下一品だということもすでに証明済みだ。
そんな彼が今回は、オスカー俳優の威信を賭けて猫役に初挑戦する。食えないおっさんから、もふもふのブルーの瞳が美しい長毛種“Mr.もこもこパンツ”に変身してしまったケヴィンが、猫人間ならではの大活躍をみせる様子は爆笑必至。いきなり猫に変身してしまった現実を受け止められず、ヤケ酒を飲もうにも愛用のスコッチの瓶は頭上はるか遠くに……。そこであきらめないのがオレ様男・トム(が変身したMr.もこもこパンツ)のいいところ。一計を案じて見事スコッチをゲットし、ぐでんぐでんに酔っぱらってしまうあたりはさすがだ。字を書いて家族にピンチを伝えようとすれば、書いた文字はみみずのようで意味不明、スマホをタップするも肉球では押せないわ、トイレに入ろうにもプライバシーなんてもってのほかで、出されるごはんはゲロのよう……。
Mr.もこもこパンツことトムの窮状を知り抜いているのが、クリストファー・ウォーケン演じるペットショップの店主パーキンスだ。そもそも彼の店でトムが娘の誕生日プレゼントにと、Mr.もこもこパンツを譲り受けたことから悲劇が幕を開けたのだから。唯一猫になったトムと会話出来るパーキンスが自宅に現れ、この危機的状況が夢ではないと改めて思い知らされるトム。彼は超自己中ではあっても、決して愚か者ではなく、にっちもさっちもいかない状況を打破するためには、自分が家族にふさわしい夫、そして父親にならなければならないと悟るだけの賢さは持ち合わせている。これまで忙し過ぎて見えなかった家族との絆や、人生で本当に大切なものを再発見し、必死に人間に戻ろうとする猛烈ながんばりぶりが笑いを誘うのだからたまらない。
73歳にして現役俳優のクリストファー・ウォーケンと、ケヴィン・スペイシーは共に悪役顔で、演技力もバツグンのオスカー俳優であり、歌も踊りもプロ級の腕前と共通点も多い。そんな二人の演技派俳優の演技バトルも本作の見どころのひとつだ。クリストファーは本気なのかふざけているのか見分けのつかない、アヤシげなペットショップオーナーをひょうひょうと演じ、ケヴィンは中身はおっさん、外見はキュートな猫の主人公を熱演し、お互いに人間VS猫として、丁々発止の掛け合いをみせてくれるのもうれしい。