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『聲の形』山田尚子監督が語る、アニメ表現の作法「作品の世界を身近なものに感じてもらいたい」

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 京都アニメーションが手掛ける長編アニメメーション『聲の形』が現在公開中だ。本作は、聴覚に障害を持つ少女・西宮硝子と、小学生時代に硝子をいじめていた青年・石田将也が再び出会い、再生していくまでを描いた青春群像劇。監督は、『映画けいおん!』『たまこラブストーリー』の山田尚子が務め、入野自由、早見沙織、松岡茉優らが声優として参加している。リアルサウンド映画部では、山田尚子監督にインタビューを行い、漫画をアニメ化する意味や制作時のエピソードなどを語ってもらった。

「人が“繋がりたい”と行動を起こす瞬間の熱量に惹かれた」

20160923-koenokatachi-yamada-th.jpg山田尚子監督

ーー主人公・石田将也とヒロイン・西宮硝子を中心に、友人や家族の人間関係がリアルに描かれているのが、本作の特徴だと感じました。原作を映像化するにあたって、なにかコンセプトやテーマはありましたか?

山田尚子監督(以下、山田監督):人が繋がりを求めた先にある具体的な形が、友達や家族といった人間関係だと思うのですが、人がなにかと繋がりたいと思った時の真心をしっかり描きたいと思っていました。誰しもがなにかしらの不安を抱えながら生きていて、そんな不安を人と繋がることで解消していくものだと思います。上手く繋がるコミュニケーションだけでなく、嫌いや拒絶のように上手くいかないコミュニケーションも描かれているのですが、不器用ながらも“繋がりたい”と行動を起こす瞬間の熱量に、すごく惹かれるものがありました。原作を初めて読んだ時に、これは“心と心のおはなし”だと感じたので、その時の初期衝動を作品に反映できていると思います。

ーー山田監督は登場人物を細かく深堀りしていく印象があるのですが、今回の作品はみんな個性的なキャラクターなので、設定を決めるのも難しかったのでは?

山田:キャラが濃いことに気づいたのは、実作業に入ってからでしたが、意外と普段の感覚で理解できたというか。良いところと悪いところを包み隠さず出してくる子たちだったのと、原作の人間描写が上手に描かれていたので、みんなの考えていることが手に取るようにわかりました。ネガティブなことを考えている時の感覚は、無理に考えなくても共感できたので(笑)。でも、あえて挙げるとするなら、将也が一番難しかったです。

ーーどんな点が難しかったのでしょう?

山田:将也は考え方には何層もレイヤーがあって、あっちこっちにいったりきたりしていて、それらが集まって将也という人間を形成しています。漫画の場合は、読み手の時間を遮らずに文字と絵で情報を詰め込むことができるし、疑問に思ったら読み返すこともできるけど、映像の場合は時間を無理にでも流さないといけないので、どうやったら誤解を招かず将也の人柄を伝えていけるのか、落としどころを見つけるまですごく悩みました。私は答えが見つかるまで作業ができないタイプなので、悩んでいた時期はすごくやきもきしていたし、暴れまわっていたと思います(笑)。

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ーーでは、硝子の方はどうでしたか? 聴覚障害を持つキャラクターを手掛けるは初めての経験だったと思いますが。

山田:硝子には、最初から“聴覚障害を持っている女の子”という意識は持っていなかったので、特別な気を使うことはありませんでした。上手く聞き取れない不自由はあると思いますが、硝子の本質を考えた時に、彼女はどのように音を摂取しているのかに目を向けることにしました。聞く以外にも音の捉え方はたくさんあると思うし、きっと硝子だけに見えている音や感じられる音があって、そこに落とし込んでしまえば特別扱いする必要はないな、と。それに、原作者の大今良時さんからは「天使のような女の子ではない」と教えていただいたので、彼女はすごく業の深い子なのかなって。引っ込み思案かと思えば、突然ダイナミックな行動を起こしたりするし、誰よりも人間くさくて、たまに動物みたいに直感を頼りに行動することもある。単純にひとりの人間として面白いと思っていたので、ほかのキャラクターと同じように向き合うことができました。

ーーさきほど、漫画と映像の違いをお話されていましたが、漫画を映像化する意味はどこにあると思いますか?

山田:映像化する意味は作品毎に変わりますが、原作ファンのいる作品に私たちが答えを出してもいいのだろうか、と考えることはよくあります。音や時間の流れが、映像化する人の感覚のみで付けられた作品を、ファンの方々に提示することはリスキーな行為だと思うので。でも、私自身がその作品のことを尊敬しているからこそ、映像作家である自分のフィールドで作品の魅力を表現してみたいと思ってしまいます。映像にしかできないことと言えば、時間の流れや音がつくことで実在感を出せることかなと思います。それによって、より作品の世界を身近なものに感じてもらえたらいいなと思います。たとえば、実在する何気ない道を見て、将也たちがあそこの道を歩いてそうって思ってもらえたら嬉しいですね。

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ーー物語自体はシリアスでありつつ、登場人物を囲む背景や色使いはとても綺麗でした。

山田:シリアスに思われがちなタイトルですが、観ている人の心が浄化される映画でありたいと思っていたので、背景などの絵作りには“心地よさ”を意識しました。画面の端っこに少しでも濁った色が入っていると、心に引っかかるものが生まれると思うのですが、それがしこりになって(観ている人の)テンションを下げてしまう感じにはしたくなかったので、とにかく色は綺麗に見せていきました。具体的に言うと、黄色やシアン、黄緑色といった心が和らぐような色を多めに使って、パッと見たときにネガティブな要素があれば、そこを修正していく作業を重ねていきましたね。

ーー主人公たちが集まる川の描写もすごく綺麗でした。

山田:取材させていただいた大垣市がすごく綺麗なところで、なんとかそこに近づけたいと思って頑張りました! 美術や色彩設計の方々と取材へ行ったのですが、湧き水が豊富な街だったのでその水の綺麗さはもちろん、街の片隅にある綺麗な色はみんなで共有していました。

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ーー絵作りという点では、キャラクターの立ち位置や寄り引きなどのカメラワークも特徴的でしたが、どのような意図があるのですか?

山田:この作品に限らず、登場人物だけでなくその場の空気を描きたいんですよね。その人がいる世界だけにとどめず、周りを囲む世界の端っこまで描くことを意識しています。『聲の形』で言えば、将也が悩んでいる間もまわりには綺麗な景色が溢れているわけで、それに気付かずにウジウジしているのはもったいないなって。そのほかにも目線の誘導による心理的な演出もありますが、詳しいところは内緒です(笑)。

ーー原作の線数が多かったので、アニメの絵として落とし込むの難しそうですよね。

山田:原作が持っている絵の熱量と同等のものを、映像として再現するのはなかなか難しいのですが、作画監督の西屋さんが試行錯誤の末に素敵に仕上げてくれました。実は、将也の黒目にもプロトタイプがたくさんあったんですよ。将也の顔は、どアップになった時にすごく情報量が少なくなるので、それをどう回避するのかなども悩みましたね。そのおかげで、もう黒目が小さいキャラも怖くなくなりました(笑)。

      

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