『聲の形』山田尚子監督が語る、アニメ表現の作法「作品の世界を身近なものに感じてもらいたい」

『聲の形』山田監督インタビュー

吉田さんのシナリオはその瞬間の匂いや色まで感じさせてくる

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ーー全7巻の原作を約2時間にまとめるのは難しいことだと思います。脚本の吉田玲子さんとはどのようにエピソードを絞っていったのですか?

山田:視点の多い作品なので、吉田さんとはどこに主軸を置くのかをまず話し合いました。具体的なシーンを選ぶのではなく、作品全体から本質を見つけ出して抽出していくような感覚です。ここを削ってほしいなど、具体的な指示をすることはありませんでしたが、同級生同士の青春群像劇も家族の話も全部やりたいと伝えていたので、吉田さんはすごく大変だったと思います。

ーーネタバレになるので伏せますが、原作では重要に思えるエピソードも削っていましたよね。

山田:吉田さんは、いろいろ考えたうえで初めからそのエピソードを削ると決めていたみたいです。ただ、原作をそのまま描いてしまうと、あるものとないものが目立ってしまうので、観ている人に削った部分を感じさせないような作りになっているとは思います。削ったパートに気づかれて、観ている人をがっかりさせてしまったら負けだと思っています。

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ーー『映画けいおん!』『たまこラブストーリー』など、山田監督の監督作品の脚本はすべて吉田さんが担当しています。やはり相性が良いのでしょうか?

山田:『けいおん!』で初めて監督を任された時は、本当に右も左もわからないような状態でしたが、そんな状況で初めて吉田さんのシナリオを読んだ時に、めちゃくちゃ感動したことを覚えてます。シナリオに描かれている世界が、とにかく瑞々しいしキラキラ輝いていて、唯たちが走り回る様子まで目に浮かんできたんですよ。きっとその時に受けた感動が今もずっと続いているんだと思います。なんというか、吉田さんのシナリオは言葉や景色だけでなく、その瞬間の匂いや色まで感じさせてくれます。今では吉田さんが選ぶ言葉や行間、使用しているフォントまですごく好きです(笑)。

ーー本作では、友達との関係と同じくらい、家族の描写が丁寧に描かれていると感じました。『たまこまーけっと』でも、主人公の両親の物語を丁寧に描くエピソードがありました。

山田:どんな作品でも、キャラクターのことを深掘りする上で、そのキャラの人格を形成した原因や経験をつかさどる人たちは丁寧に描くようにしています。キャラクターの行動や言葉の意味には、その人を産んだ人や育ててくれた環境が必ず関係してくるので、家族を描くことは大事だと思っています。家族は無条件に愛情を交換できる唯一の相手で、その関係性にすごく惹かれますね。それに“家族愛”の大切さを行動で表せるキャラクターたちにも強い憧れを持っているのかもしれません。私は、「家族を大事にしてます」とはストレートに言えないタイプなので(笑)。

(取材・文=泉夏音)

■公開情報
映画『聲の形』
公開中
出演:入野自由(石田将也役)、早見沙織(西宮硝子役)、悠木碧(西宮結絃役)、小野賢章(永束友宏役)、金子有希(植野直花役)、石川由依(佐原みよこ役)、潘めぐみ(川井みき役)、豊永利行(真柴智役)、松岡茉優(石田将也役)
原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
設定:秋竹斉一
撮影監督:髙尾一也
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
主題歌:aiko「恋をしたのは」
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:映画聲の形製作委員会(京都アニメーション/ポニーキャニオン/朝日放送/クオラス/松竹/講談社)
配給:松竹
(c)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
公式サイト:http://koenokatachi-movie.com

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