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『Mr.Robot/ミスター・ロボット』は現代版『タクシードライバー』 “格差社会”と“革命”の描き方はどう変化したか?

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 「タイム・トゥ・ゲット・アップ(さあ、目覚めよ)!」という声を受けて、機械仕掛けのようにムクリとベッドから起き上がる主人公、エリオット・オルダーソン(ラミ・マレック)。黒いパーカー姿に着替えた彼は、リビングのテレビに映し出されたニュース番組で、オバマ大統領が演説するのを耳にする。「FBIが首謀者を特定しました。タイレル・ウェリックと“f・ソサエティ”です。深刻な被害を与えた罪は償わせねばなりません」。

 『Mr.Robot/ミスター・ロボット』シーズン2の舞台となるのは、「シーズン1」のクライマックスとなった「5/9攻撃」から一ヶ月後の世界だ。アメリカをはじめ、世界中の国々を大混乱に陥れた大規模ハッキング攻撃、のちに「5/9攻撃」と呼ばれるようになった事件の首謀者である天才ハッカー=エリオットは現在、疎遠だったはずの母親と同居しながら、自ら「完璧なループ」と称する規則正しい毎日を送っている。彼のハッキングによって大混乱に陥った世界は、どんなふうに変わったのか? 彼が所属するハッキング集団「f・ソサエティ」の仲間たちは、どうなったのか? そして、彼の導き手である「ミスター・ロボット」と呼ばれる男(クリスチャン・スレーター)は、どこへ消えたのか?

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 「今回はアクセル全開です」という本作の企画・監督・脚本・制作総指揮を務めるサム・イスマイルの言葉通り、『Mr.Robot/ミスター・ロボット』シーズン2は、淡々と静かに物語が進行していった「シーズン1」とは打って変わって、冒頭からめくるめくスピード感でダイナミックに物語が展開してゆく。

 昨年、本国アメリカで評論家筋から高い評価を受け(「アンチヒーローの時代に、異なる視覚言語やストーリーを語るスタイルが可能だとクリエイターたちに示す、最も重要なテレビ番組のひとつと言えるだろう」)、今年1月に開催された第73回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)では、見事「作品賞」に輝いたUSAネットワーク制作の海外テレビ・ドラマ『Mr.Robot/ミスター・ロボット』(日本ではAmazonプライム・ビデオで独占配信中)。ほぼ無名に近かった監督サム・イスマイルが、同じくほぼ無名に近かった若手俳優ラミ・マレックを主演に擁して描き出した本作は、現代版の『タクシー・ドライバー』、あるいはハッカー版の『ファイト・クラブ』とも言うべき先鋭的なストーリーによって、多くの視聴者たちを虜にした。

 そして、今年7月13日、その待望の続編となる「シーズン2」が、本国アメリカでスタートした(日本では7月29日よりAmazonプライム・ビデオにて順次独占配信中)のだが、まずはその前に、「シーズン1」の物語を簡単に振り返りながら、それが射程する現代的な社会状況、ひいては批評家筋から高い評価を得るに至った理由について考えてみることにしよう。

 高度なハッキング技術を持った凄腕のエンジニアでありながら、社会不安障害を抱えており、人との関わりがうまく持てず、頭の中で想像上の友だちに語りかける癖を持った主人公エリオット。サイバーセキュリティ会社「オールセーフ」に勤務する彼のオフタイムの過ごし方は、他人のSNSアカウントや企業アカウントをハッキングすることだった。ある日、自社に向けられたハッキング攻撃の対処に追われた彼は、そのプログラムのなかに「f・ソサエティ」なる謎の組織の名前を発見し、後日そのリーダーと称する男「ミスター・ロボット」から組織への加入を促される。生粋の無政府主義者たる「ミスター・ロボット」。彼と仲間たちの標的は、世界有数の大企業であり、エリオットが働く「オールセーフ」最大のクライアントでもある「Eコープ」だった。その業務記録をすべてリセットすることによって、ありとあらゆる借金を帳消しにし、この「格差社会」に「革命」をもたらそうというのだ。

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 本作の背景にあるのは、トマ・ピケティの『21世紀の資本論』が明らかにした「富の分配」に関する不均衡の構図や、そこから派生した「ウォール街を占拠せよ(オキュパイ・ウォール・ストリート)」運動など、「格差」の是正を訴える一連の社会運動だ。そして、ジュリアン・アサンジ率いる「ウィキリークス」による内部告発や、エドワード・スノーデンによるアメリカ政府の情報収集の告発、あるいは「アノニマス」に代表されるような「ハクティビズム」の台頭。さらには、インターネットが一定の役割を果たしたアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」(監督イスマイルと主演のマレックは、いずれもエジプト系アメリカ人だ)など、非常に現代的な社会問題の数々である。「f・ソサエティ」の「f」は、言うまでもなく4レターワーズを意味しており、そのターゲットたる「Eコープ」のロゴは、大企業の粉飾決算発覚の端緒となった大企業「エンロン」を完全に意識している。

 一部の富裕層によって富と情報が完全に掌握された社会でありながら、依然としてSNSで個人情報をまき散らす大衆。その状況にやるせない怒りを持ちながらも、ひとり孤独に打ち震え、モルヒネの錠剤で理性を飛ばす日々を送っていた青年エリオットは、ハッカー集団「f・ソサエティ」との出会いを通じて、自らのハッキング能力を大胆に行使していくのだった。『ファイト・クラブ』の主人公である「僕」が、タイラー・ダーデンとの出会いを通じて覚醒してゆくように。そして、「シリーズ1」のラスト、エリオットは「爆薬」ではなく、「ハッキング」によって、社会を大混乱に陥れるのだった。

 しかし、いかなる混乱が起ころうとも、この社会は、そして一部の富裕層は、決して死に絶えることはなかった。「リーマン・ショック」に関与した重役たちが、いずれも罪に問われなかったように。そう、これが21世紀の現実なのだ。混乱はいずれ収束し、社会は再びもとの状態に戻るのだ。

      

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