新『ゴーストバスターズ』が娯楽映画として成功した理由 性別を乗り越えたリブートの真価を読む

『ゴーストバスターズ』の革新性

 いまアメリカの娯楽映画界が、大きな変化のときを迎えている。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に代表されるように、予算をかけた大作で、女性が活劇の主人公となったり、むしろ男性キャラクターを守り戦うというケースがどんどん増えてきているのだ。80年代を代表する大ヒット作を新しくリブート(再起動)した本作『ゴーストバスターズ』も、ビル・マーレイやダン・エイクロイドなどが演じた男性の主役四人組を、今回全て女性の第一線コメディアンにキャスティングし直している。

 だがこの作品、公開される前からネットを中心に批判が殺到したのだ。その原因の一つは、オリジナル版の監督と脚本家が再度本作を手掛けるという、当初発表されていた企画が変更されてしまったところにある。それは、出演者でもあり脚本も手掛けていたハロルド・ライミスが亡くなったことから起因した事態なのだが、このためオリジナル版に強い思い入れがあるファンから反発を受けることになった。

 本作のプロデューサーに就任したオリジナル版の監督、アイヴァン・ライトマンは、「批判者はオリジナル公開当時、8歳か9歳位だった年代が多く、彼らにとって最初の映画体験の美しい思い出をいじられたくなかったのだろう」と述べている。この問題については、オリジナル版のスタッフ、キャストを集めた『ゴーストバスターズ2』の内容が、いまいち思わしくなかったことを見ても、必ずしもオリジナルを信奉する姿勢が最高の結果を生み出すとは限らないということは述べておきたい。

 もう一つの原因は、主要キャストを女性に変更したことへの、一部男性による反発である。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』にも、確かに似たような文句は出ていた。しかし、今回はとくに激烈なのである。 年齢や容姿、または人種を揶揄するような差別的なメッセージを、出演者に直接SNS上でぶつける者も現れ、大きな問題となった。

 こうなった経緯には、本作がコメディー映画であることが大きく影響しているように思われる。ある女性のコメディアン、サラ・シェーファーは、ネット上でこのような意見を訴えている。

「男性のコメディアンはただ面白ければいい。でも女性は、若くて魅力的で、下ネタを言わず、男性を批判せず、男性のウケを狙い、さらに地球温暖化問題まで解決しなければならない」

 お笑いやメディア業界は基本的に男の業界であり、女性であるというだけで、いろいろ無理な要求をされるという、ユーモアも含まれた指摘である。このような偏見が、前述したようなオリジナル版への根強い人気と組み合わさったことで、今回の反発に結び付いたように考えられるのである。

 それら批判を踏まえ本作を鑑賞すると、なんのことはない、オリジナル版への尊敬にあふれ、ファンも十分楽しめる娯楽作品に出来上がっていた。何よりも、メリッサ・マッカーシー、クリステン・ウィグ、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズら出演者がそれぞれに魅力的なのだ。これが素晴らしいのは、この「魅力」が、男性へのセックスアピールなどを意識せず、オリジナル版同様に自然なコメディー演技からきているということだ。

 本作の監督は、『デンジャラス・バディ』や『SPY/スパイ』など、女性を主人公としたコメディー映画を撮ってきたポール・フェイグである。本職の女性コメディアンを主演させ、シナリオのなかに単発的なギャグやアドリブを次々に放り込んで笑いを取っていく作風の監督だ。

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