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『シン・ゴジラ』は“コントロールルーム映画”だった? 速水健朗が庵野監督の意図を読み解く

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 皆『シン・ゴジラ』について語りすぎである。こちらが語ることがなくなるのでやめて欲しい。危機管理にまつわる行政組織論、右から左からの日本人論、震災、原発事故との関連した議論などはもちろん、鉄道に関する知識、上陸経路に関する考察、建築物からの視点などおもしろい議論がネットからいち早く出そろった感があり、うかうか後出しじゃんけんなんてできやしない。とはいえ、それでもまだ語り尽されてないのが『シン・ゴジラ』なのである。ここでは、僕が好きな本作の細部の話をしよう。本論は、“中央制御室映画”としての『シン・ゴジラ』である。

 告白するとセンターコントロールルームが出てくる映画が好きだ。中央制御室、またはオペレーションルーム。呼び方は、何でもいいが、情報を一元化して集積し分析官、オペレーターたちが見守る空間が登場する映画というジャンル分けが可能である。ちなみにコントロールルーム映画の代表に『アポロ13』がある。この映画は、打ち上げられた宇宙船の話だが、それを見守る中央制御室(ヒューストン管制センター)の話でもある。事件は、アポロ13号内部で起こっているが、それに対処するのはむしろ管制室のオペレーターたち。オペレーターが酸素圧力の数値を読み上げ「まさか…あり得ない」とつぶやくからこそサスペンス映画たり得るのである。

 『シン・ゴジラ』とのつながりでいえば、『新幹線大爆破』も新幹線の運行を見守るコントロールルームがふんだんに描かれた映画だった。爆弾が仕掛けられた新幹線がどこを走っているのかは、運行の管理を行う制御室の巨大モニターに表示されている。これは、国鉄の許可がもらえなかった映画なので、架空の制御室である。

 近年であれば『ジュラシック・ワールド』も素晴らしいコントロールルーム映画だった。恐竜たちのいるテーマパーク全体の情報管理が、この中央制御室のコンピューターで一元管理されている。『アポロ13』が乗組員の心拍数をモニターしていたのと同様に、ここではパーク内のガードマンたちの心拍数をモニターしている。恐竜に襲われた彼らがばたばたと殺されていくのが、モニタリングされている。本作のオペレーターは、主人公たちよりも気になる奴だ。恐竜マニアで『ジュラシック・パーク』のTシャツをこっそり着て、いつもコーラを飲んでいる。

 さて本題。『シン・ゴジラ』では、長谷川博己演じる官房副長官が、東京湾での海底での異変を受け、まずは情報を得るために首相官邸地下へと向かう。この官邸地下には、一元的に情報が集まる「危機管理センター」が設置されている。いわゆるコントロールルームである。オペレーター、分析官たちが集まり、危機管理の体制が整いつつあるという場面だ。主人公が最初に登場するシークエンスで、コントロールルームが登場する。これは、この映画がコントロールルーム映画であることの何よりの証拠である。

 『シン・ゴジラ』は“会議映画”だという声があるが、会議の場面と交互に描かれるのが、このコントロールルームである。会議は、メンバーが対峙する形で、全員が互いに顔を向け合って行われるものだ。だがコントロールルームは違う。基本的には、皆が正面のモニターを向いている。『シン・ゴジラ』の官邸執務室での会議の場面では、意思決定のための手続きのもどかしさが描かれるが、すでに目的が共有されているオペレーションルームの場面では、作戦の運用やそれにまつわる決断の場面が描かれる。会議は民主主義的手続きの場所だが、後者は決定に基づいて動く運用のための場所である。

 「危機管理センター」のオペレーションルーム(緊急災害対策本部)は、巨大な部屋にスクエアにデスクが並べられ、正面に巨大モニターがあり、その両脇に、4X4の小モニターが並んでいる。ちなみに調べてみると、実際の撮影場所はすぐに見つかった。ここは、湾岸の有明にある内閣府が管理する防災施設“東京臨海広域防災公園”のオペレーションルーム。約960㎡、座席数186の本格的なコントロールルームで、娯楽映画などの撮影にも有償で貸し出しが行われるという。あまりハイテクではない印象だが、『シン・ゴジラ』は、怪獣の存在以外はリアリティ重視で制作されていることもあるからリアリティ重視なのだろう。ここは、実際に災害発生時には首都圏広域の現地対策本部として使われる可能性があるオペレーションルームなのだ。

 この部屋のプロジェクションモニターのサイズは、300インチ(参考:東京臨海広域防災公園公式サイト)。この巨大モニターが4分割されて、上陸予想の地図、現地映像などが表示されている。ちなみに、映画の中ではオペレーションルーム以上に、これに付属する座席数52の「本部会議室」の方が多く登場していた。余貴美子演じる防衛大臣が、再上陸したゴジラへの攻撃の命令確認を首相から取る場面がこの本部会議室だった。

 この場面で思い出すのは、ビンラディン襲撃を題材にした キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』である。ビンラディン邸を突き止めたCIAが、数ヶ月かけて偵察を行うが、そのオペレーション・ルームはもっとハイテクな制御室として描かれていた(これも素晴らしいコントロールルーム映画! なんといっても世界最高峰のコントロールルームは、ホワイトハウスのそれだ)。ビンラディンが実際にそこにいる確実性はさほど高くはなかった。CIAの会議では、攻撃の判断をくだすかどうかを議論する会議の場面が描かれる。

 ビンラディン襲撃の場合、現実の作戦実行に許可を出すのは大統領である。「アメリカは大統領が決める、あなたの国は誰が決めるの?」のカヨコ・アン・パタースンの台詞のとおり。そして、実際の作戦は、オバマ大統領以下、安全保障会議のメンバーが、ホワイトハウスの「シチュエーションルーム」に集合し、そこにリアルタイムに送られてくる作戦の映像を見守りながら行われたらしい。もちろん、詳細はシークレットである。とはいえ、2011年、米海軍の特殊部隊がビンラディンを襲撃した際、その“シチュエーションルーム”の様子を映した写真は、ホワイトハウスによって公開されて話題になった。(参考:flickr掲載写真

 この実際のシチュエーションルームを見ると、まったくハイテクではなくて笑ってしまう。白い壁紙がださ過ぎる。現実は、ハリウッド映画とは違うのだ。各自がノートPCを開いているし、今は懐かしいLANケーブルでインターネットにつなげている。紙コップで持ち込まれた飲み物が生々しい。映画だと気を遣うところだ。紙コップはない。ところで、この写真は、『シン・ゴジラ』における立川の対策本部の画を彷彿させる。

 物語の中盤、ゴジラの首都襲撃を受けて、官邸地下の「危機管理センター」は放棄される。放棄しなくてはいけないコントロールルーム。皆が慌てて撤退する場面が描かれる。そのあとにガランとしたオペレーションルームのカットがある。“中央制御室映画”ファンにとっては、もっとも切ない場面だ。

 そして、官邸機能は立川の広域防災基地に移管される。長谷川博己率いる“巨大不明生物災害対策本部”も、この立川の予備施設内に急ごしらえの本部機能を設置される。ここには、巨大モニターの代わりに小さな液晶テレビが置かれている。ここが、ホワイトハウスの“シチュエーションルーム”の生き写しである。個々の長机には、ノートPCが開いたまま置かれているが、まんまLANケーブルがつながれている。いまどき見ない。ちなみに、皆大好き泉補佐官の前に置かれたPCだけはずっと閉じている。泉はずっと政局や出世についてしゃべっているが、まったく仕事をする気配は見せない。

      

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