山﨑賢人ら“S男子”と菅田将暉ら“M男子”、物語におけるそれぞれの役割と魅力

 恋愛をテーマとした映画やドラマにおけるヒーローは昨今、SもしくはM、どちらかの傾向を持って描かれるケースが目立っている。

 たとえば、『オオカミ少女と黒王子』における山﨑賢人や、『黒崎くんの言いなりになんてならない』の中島健人、『クローバー』の大倉忠義などは、現実ではありえないほどの圧倒的な“ドS”として描かれていた。一方で『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の高良健吾や『ラヴソング』の菅田将暉、『百瀬こっちを向いて』の向井理などは、どちらかというとM的な要素が強かった。それぞれどんなところが魅力となり、物語を彩っているのか、作品から探っていきたい。

 まずはS男子から。少女漫画では、少し不良っぽい男の子に主人公の女の子が惹かれるという構図は定番で、80年代では『ホットロード』(紡木たく著)の春山洋志、90年代では『天使なんかじゃない』(矢沢あい著)の須藤晃などが、いまにつながる“S男子像”を築き上げてきたのではないだろうか。彼らはともに、16歳前後の年齢ながらひとり暮らしをしているバイク好きの一匹狼タイプで、どこか寂しそうな影があるのだが、実は心優しい一面があり、主人公の女の子は彼らのそんなところに恋をする。主人公に対しては、軽く憎まれ口を叩いたり、ちょっと頭を小突いてみたりするところも共通している。

 このヒーロー像が拡大解釈されたのが、昨今の“S男子像”だろう。その後、テレビドラマにおいて近年、そのキャラクター像を完成させたのは、2004年に放送された『花より男子』のヒーロー・道明寺司を演じた松本潤ではないだろうか。セレブの息子として学園内で権力を振るう“F4”のリーダーである道明寺は、まさに“ドS”と呼ぶにふさわしい横暴な振る舞いが特徴で、井上真央演じる主人公・牧野つくしと対立しながらも仲を深めていくところに、物語の醍醐味があった。

 近年はS男子的な振る舞いの定番として、“壁ドン”や“顎クイ”といった用語も生まれているが、こうした所作は主人公とヒーローの間に、当初は対立的な関係があるからこそ描かれてきたものだろう。少々強引な振る舞いは、お互いが惹かれ合うものの、素直に向き合うことができないふたりが距離を縮める手段であり、そこに多くの女性読者は惹かれてきたはずだ。そうしたポイントをさらに拡大し、映像化しているのが昨今の『オオカミ少女と黒王子』や『黒崎くんの言いなりになんてならない』といった映画作品で、両作についてはタイトルからも主人公とヒーローの対立が見て取れる。

 つまり、男女関係における衝突と緊張、そして絆を結ぶまでをドラマティックに描くのに適しているキャラクターが、ドS男子なのではないだろうか。山﨑賢人や中島健人といった、どちらかというと中性的な顔立ちの俳優がドS役となるのは、原作との兼ね合いもあるだろうが、むしろ少女漫画的なファンタジーを成立させるため、との意味合いもありそうだ。もしもドS男子があまりにもマッチョな男性だと、彼らの漫画的な振る舞いは成立しないのかもしれない。

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