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成馬零一の直球ドラマ評論『いつ恋』第四話

東京はもう“夢のある街”じゃない? 『いつ恋』登場人物たちのリアリティ

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いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう
ドラマ
成馬零一
有村架純
森川葵
高畑充希
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 「夢って大変なものなんだよ。めんどくさいし鬱陶しいし、捨てようとしても捨てられない。もつれた糸みたいに心に絡んで取れなくなる。それが夢」

 『いつ恋』第四話で、伊吹朝陽(西島隆弘)が杉原音(有村架純)に言う台詞だが、ここで語られる夢は、恋愛のことのようにも聞こえる。

 かつて、中條晴太(坂口健太郎)は「東京は夢が叶わなかったことに気づかずにいられる場所」だと言った。逆にいうと東京で暮らすということは「夢の中で生きているようなものだ」と、いうことなのかもしれない。東京生まれ東京育ちの人から見たら違和感のある考え方かもしれないが、地方出身者から見た東京が夢の街であるというのは、日本人なら共有可能なイメージではないかと思う。だからこそ、トレンディドラマの時代から、東京を舞台に恋と仕事の物語は繰り広げられてきた。

 だが、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)で描かれる東京は、かなり幻想が崩れかけている。小夏(森川葵)のように「どこにでもいる子になりたくない」からと、必死でしがみつこうとする者もいるが、多くの人々は、そんな幻想は信じていない。曽田練(高良健吾)の職場の先輩で、ことあるごとに「小室哲哉のブレーンだった」と言う佐引穣治(高橋一生)の痛々しい姿は、東京に夢を見た若者たちの、なれの果ての姿だ。

 そんな中、最後に残されたささやかな夢は、やはり恋愛なのだろうか?第四話では、もつれた糸が絡み合うかのように、今まで点と点のつながりだった登場人物の人間関係が小さな塊となってきている。

 中でも気になるのは、小夏と晴太の関係だろう。前回、小夏に「お金持ちの社長とカラオケするだけで10万円がもらえるアルバイト」を紹介したあたりから、何を考えているのかわからない不気味さを見せはじめた晴太だが、今回は逆に、モデルの仕事を餌にマンションの契約をさせられそうになった小夏を、助け出す。
 
 節々に登場する醒めた台詞を聴いていると、晴太はいち早く東京に絶望した小夏のような地方出身の女性を誘惑して堕落させる「東京の悪魔」みたいな存在なのかと思ったのだが、顔を殴られても助け出す姿は実に勇敢で、小夏を見守る魔法使いのようだ。「好きじゃなくていいからさ。僕と一緒に居て。その代わり、僕が小夏ちゃんの恋をかなえてあげる。練君を君のものにしてあげる」と言った後で「僕と契約しよ?」という晴太が、本当に小夏が好きで、献身的に尽くそうとしているのか、それとも何か別の目的があるのかは、まだわからない。

 一方、練は日向木穂子(高畑充希)との関係を大事にするために、音とは距離を置こうとしていた。今回も引き続き、音の置かれた劣悪な労働環境が描かれる。帰りのバスでは、ストレスがたまった人たちから心ない中傷を浴びせられる場面もあり、見ていて苦しいものがあるのだが、それ以上に苦しいのは、練が彼女を避け始めたことだ。

 バスの中で練が助けてくれたことがきっかけで、再び話すようになる二人。静恵おばあちゃん(八千草薫)の家で、練が作ったたこ焼きを食べながら、練のふるさとの話を音が聞く場面は、もっとも心が温まる場面だ。しかし、練が音に「あなたのことを好きになりました」「好きで好きで、どうしようもないくらいになりました。いつもあなたのことを思ってます。それを…そのことを諦めなきゃいけないのは苦しい」と言ったことで、もっとも残酷な場面に反転してしまう。

 この辺りになると、最初に練に感じた「誰にでも優しいがゆえに何を考えているのかわからない不気味さ」はなくなり、「不器用で優しい普通の青年なのだ」と、思えるようになってくる。しかし「ごめんなさい。好きでした」と謝る練の優しさこそが、作中で描かれた他人からの無自覚な悪意以上に、音を深く傷付けてしまうのだから、恋愛とは実に厄介なものである。実家から帰ってきた木穂子と練が抱き合う部屋には、音に渡すはずだった電気ストーブが箱に入ったまま置かれていた。その様子は、彼の中に残っている音への未練を連想させる。

     
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