Netflixオリジナルフィルム、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の衝撃

 2009年の長編デビュー作『闇の列車、光の旅』が、サンダンス映画祭劇映画部門で監督賞を獲得するなど、世界中で熱狂的な賞賛を受けたキャリー・ジョージ・フクナガ監督。続く2011年には、シャーロット・ブロンテの原作『ジェーン・エア』を映画化。マイケル・ファスベンダーとミア・ワシコウスカを一躍トップスターへと押し上げることとなる。

 そんなフクナガ監督がTVドラマを手掛けると聞いた時、驚いた方は多いだろう。だが、先輩の映画監督であるデヴィッド・フィンチャーの『ハウス・オブ・カード』やスティーブン・ソダーバーグの"The Knick"に続き、フクナガ監督が生み出した『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』は、TVドラマ史を塗りかえる作品と激賞を受けた。マシュー・マコノヒー&ウディ・ハレルソンの熱演、ニック・ピゾラットの巧みな脚本もさることながら、例えば4話ラストの長回しなど、フクナガ監督の卓越した演出自体も大いに話題となった。

 次の動向に注目が集まる中、フクナガ監督が選んだ舞台はネット配信だった。彼はNetflixとタッグを組み、10月16日、最新作を世界同時配信することを決定する。『ビースト・オブ・ノー・ネーション』、それがフクナガ監督の新作の名であり、劇場でも同じタイミングで上映される初のNetflixオリジナル長編作品の名であり、今までのシステムをぶっ壊す映画の名だ。

 耳に届くのはサッカーで遊ぶ子供たちの楽しそうな声、この物語はそんな日常から幕を開ける。主人公は少年アグー(エイブラハム・アタ)。彼は友達と遊びつづける日々を送っている。というのも、紛争の影響で村の学校が閉鎖されているからだ。だが、そんな日々もアグーには楽しい。だって、ずっと遊んでいられるんだから! 家に帰れば、元教師で今は難民の救済に忙しくしている父、髪型と筋肉にこだわる思春期真っ盛りの兄、生まれたばかりの小さな妹、いつも家族を優しさで包み込んでくれる母が待っている。確かに紛争を身近に感じてはいる、だけど……フクナガ監督は何気ない日常の描写にも手抜かりはない。この日常がいかに大切なものか分かっているからだ。笑いと喜びに溢れた日々、かけがえのない輝き、しかし崩れ去るのは余りに容易い。

 紛争が激化するごとに、中間地帯であるはずの村にも戦いの魔の手が迫ってくる。そして、その時は訪れる。政府の軍隊は村を蹂躙し、銃による虐殺を繰り広げる。一瞬にして奪われていく人々の命。アグーは涙をこらえながら村を逃げ出し、密林へと身を隠す。アグーの中に政府軍への憎しみが芽生える頃、彼の前に現れたのが"指揮官"(『パシフィック・リム』のイドリス・エルバ)率いる少年兵部隊だった。

 "指揮官"はアグーに語る。自分をこんな目に合わせた連中に怒りを感じはしないか。復讐を遂げたくはないか。彼の言葉は禍々しいリズムを伴いながらアグーの憎しみを煽る。そして少年兵たちは忠誠の轟音を響かせる。「最高なるは! 指揮官!」「最高なるは! 指揮官!」。そんな轟音の中で腕を振り上げる“指揮官”。イドリス・エルバが圧倒的な存在感でもってカリスマ性を発露させるその姿は、"指揮官"でありながら"指揮者"のようであり、そして暴力という名のコロスを従えた軍神のようでもある。ここにおいて洗脳とは音の熱狂だ。音楽がアグーを暴力の道へと引きずりこんでいく。

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