ラブ・エロ・ピースが叫ぶ、ショウガイシャのリアル「伝えないと正直な思いは出てこない」

ラブ・エロ・ピースインタビュー

 世田谷区三軒茶屋にあるCafé「ゆうじ屋」の店主であり、生まれたときから重度のショウガイを抱えながらも、毎日一人電動車椅子でケーキを売り歩く実方裕二さんは、お邪魔ん裕二という名前でメンバーに重度ショウガイシャ三人を要するアウトサイダーフォークパンクバンド「ラブ・エロ・ピース」というバンド活動をしている。

 重度ショウガイシャで車椅子に乗りながら、言語障害のあるボーカルお邪魔ん裕二のシャウトは全身全霊を込めた凄まじいボーカルで、介助者の助けを受けながらではあるが、ライブで観客にメッセージを訴えかける。

 そのラブ・エロ・ピースのアルバムが、トータルプロデュースに<less than TV>の代表であるFUCKERこと谷ぐち順を迎え、8月8日に発売されることとなった。

 ライブを体験しこの作品を聴くことで、より伝わるものが深く刻まれるバンドであるが、まずはボーカルであるお邪魔ん裕二のインタビューで、ラブ・エロ・ピースを感じて欲しい。(ISHIYA)

ケーキ売りもバンドも、俺にとっては訴えかける運動

ーーなぜ、バンドをやろうと思ったのですか?

お邪魔ん裕二(以下、裕二):ロックとかファンクが好きだったことが大きいかな。昔もやってたんだよね。35~6年前に10人ぐらいの大人数で。あの頃は自分が言いたいことがはっきりしてなくて、歌もあんまり作れなかった。バンドはそのとき2年ぐらいやっただけ。やっぱメンバーが多すぎて(笑)。

ーーそれでまた、バンドをやりたいと思ったのはなぜですか?

裕二:ゆうじ屋ができたときに、今のバンドメンバーでもある女装飲んだくれオヤジ菅原ニョキが一人で歌ってくれてて、ニョキの歌が好きで彼がやるときはカウンターの中で一緒に歌ってた。うちのお店以外の会場で僕の企画でライブをやることになって、そのときにニョキに一緒にやらせてくれって言った。それからだね。ニョキが歌ってる歌が世の中を見つめた歌で「いいなぁ」と思ってて、一緒に歌いたいなと思っただけなんだ。でもそのライブで歌ったときは声が出なかったんだよね。

ーー人前で表現することはもともと好きだったんですか?

裕二:10年以上前からお笑いもやってて、その頃はお笑いをやってる介助士と一緒にカレーを作ったりしてたから、作りながら掛け合いみたいになっててね。ケーキをイベントとかでも売るんだけど、ただ売ってるだけより何かアピールした方が売れるし、一般的には僕みたいな重度ショウイガイシャは料理なんかできないんだろうと思われることが多いんです。だから、ショウイガイシャがこうやって料理もやれるんだ、そうじゃねぇんだよっていうことを伝えながらケーキが売れればいいかなと。よくショウイガイシャっていうと、聖人君子みたいなイメージってあるじゃん。冗談じゃない。スケベで嘘もつくし、ショウイガイシャで聖人君子なんていないよっていうことを伝えてやろうと思って。でもそのお笑いの一発目も声が出なかった。自分の言語障害に結構コンプレックスがあるからね。

ーーそれで今はバンドじゃないですか。伝えたいことがあっても諦める人が多いのに、重度のショウガイを持ちながらやるというモチベーションはなんですか?

裕二:ケーキを売りに養護学校にもよく行ってて、ショウガイの子どもたちが本当にかわいいんだよね。子どもたちが生き生きやりたいことをやれる世の中にしなきゃなって。今の世の中のままじゃ悪すぎるよね。だから僕たちができるところでやっていく責任があるんだろうなと。ケーキ売りもバンドも、俺にとっては訴えかける運動なんだよね。

ーーそこまで子どもたちを思っているのに、「かまわれたい」の歌詞では〈他人のことを思う癖がついていない〉と歌ってますよね?

裕二:そう、やっぱり自分のことが中心になってるよね。僕みたいな重度のショウイガイシャって、子どもの頃から構われるんだよ。親は普通の健常者だから、ショウイガイシャとの付き合い方がわからない。ショウガイがよくならないとわかったとき、この子を守らなきゃいけないと思っちゃうわけよ。だから何でもかんでもやってあげる。構われることが癖になる。

 そういうショウイガイシャの状態も伝えていかないとわかんないわけさ。自分の中で「もっと伝えなきゃな」っていう思いもあるしね。だから「かまわれたい」はね、ほかのショウイガイシャに頭にきてるときに書いたんだよ。僕もそうだけど、ショウイガイシャって被害者意識の塊みたいなところもあって、その辺も伝えないと健常者からも正直な思いは出てこない。だから、僕たちから伝えていかなきゃいけないっていうのがあるんだけど、ショウガイシャの中には周りの責任にして自分のことは棚にあげる人が多くて頭にきていて。「かまわれたい」の歌詞の二番は健常者に向けてだけじゃなくショウイガイシャにも向けている。〈困ってるのはお前だけじゃねぇだろ!生きてるのもお前だけじゃねぇだろ!〉って。

ーー「ラブ・エロ・ピース」という歌で〈自分の差別を許さない〉と歌っていますが、裕二さん自身も健常者を差別してしまっているという認識であってますか?

裕二:いや、ショウイガイシャに対しても差別してる。そういう差別意識があるから今の世の中は成り立ってるんだと思うし、それによって自分が差別されて屈辱的な思いも味わってるんです。だから「ふつう」っていう曲で〈じぶんと じぶんが ころしあう〉っていうのはそういう意味なんです。アルバムの1曲目が「かまわれたい」で、自分の嫌なところを構われたいっていう思いだけで、他人のことを思えないところが自分にもあるっていうことがわかって、他人のことを考える癖をつけようとゆうじ屋を始めた。だから2曲目が「ケーキ売り」なんだ。やまゆり園のこと(※2016年に起こった「相模原障害者殺傷事件」)があって、健常者が当たり前の世の中で、自分を肯定できずに健常者になりたがったり健常者に憧れたりしてしまうんです。だから他のショウガイシャとも付き合いたくないという気持ちも芽生えてしまう。そういう自分が改めてわかった「ふつう」。4曲目はそういう自分のことばっかり考えている間にも、仲間のショウイガイシャは山奥の施設に追いやられているんだという現状を歌った「同級生」なんです。

ーー「狼」という最後の曲は、裕二さんが書いている歌詞ではないですが〈Anti Japan〉という思いはありますか?

裕二:あるでしょう! やっぱり。これだけ悪いことばっかりやってる国なんだから、アンチと言わずになんて言う。

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