SEKAI NO OWARI『INSOMNIA TRAIN』、バンドとしての進化の過程を見た

SEKAI NO OWARI野外ツアーを見て

 もともと次から次へと新しい曲を作って矢継ぎ早に作品をリリースしていく、というタイプのバンドではまったくなかったが、SEKAI NO OWARIが現時点で最後のアルバム『Tree』をリリースしてから約3年半の年月が経過している。シングルのリリースも2016年以降は年に1枚のペース(小沢健二との「フクロウの声が聞こえる」は除く)。今年も2月に「サザンカ」を出したきりで、今のところ次のシングルのアナウンスもない。とはいえ、2016年のアリーナツアー『The Dinner』、2017年のドーム・スタジアムツアー『タルカス』と足を運んできたファンならば、彼らの表現がその都度アップデートされてきたこと、そしてアップデートだけではなく毎回新たなフェーズを提示してきたことを知っているはずだ。

 2018年4月から6月にかけて、全国6会場12公演でおこなわれたSEKAI NO OWARIの野外ツアー『INSOMNIA TRAIN』。自分が足を運んだのは5月25日、2週にわたって6公演がおこなわれた富士急ハイランドコニファーフォレストでのライブの初日だった。横幅だけで80メートルにも及ぶというステージセット(スタジアム公演やドームツアーを経た彼らが現在やりたかったことの一つは、このスタジアムにもドームにも収まりきらないセットで演奏することだったのだろう)が設置できる広大な野外のスペースを要する今回のツアー。2013年の『炎と森のカーニバル』公演以来、SEKAI NO OWARIにとって「ホーム」でもあるコニファーフォレストを筆頭に、必然的にその会場は各地とも都市部から離れた交通の便の決して良くない場所ばかりとなったわけだが、全12公演がおこなわれた今回のツアーの総動員は実に23万人。「CDの時代からライブの時代へ」というのを言葉にするのは容易いが、実際に丸一日かけて現場に足を運び、そこに詰め掛けたたくさんのオーディエンスの達成感に満ちた表情を目にすると、SEKAI NO OWARIのような「2010年代のバンド」にとっては作品化された音源ではなく、ツアーこそがその表現の中核にあるものだという事実を改めて痛感させられる。

 SEKAI NO OWARIの野外ライブといえば、これまではステージ中央に鎮座してきた巨大樹に代表される、自然やファンタジーの世界が主なモチーフとされてきたが、「INSOMNIA TRAIN」(=不眠症列車)と名付けられた今回のツアーはまったくその様相が異なっていた。ステージに展開されていたのは、色彩はアジア的ながらネオンのビルボードには英語やスペイン語も混じり合う、時代も場所も定かではないどこかの都市の歓楽街。各会場、ライブは夕暮れから夜にかけておこなわれたが(周到にも、各公演の曲順もライブ当日の日の長さに応じて細かく入れ替えられていた)、特に周囲が暗くなってからすべてのネオンが発光したセットは壮観の一言。ただ美しいだけでなく、簡単には飲み込めない異物感のようなものが常にどこかにつきまとう悪夢のような光景だった。

 まだ彼らが「世界の終わり」と名乗っていた頃の初期曲「白昼の夢」。ライブ本編の終盤に入ってから、ツアーのセットリストに久々に組み込まれたこの弾き語りで始まる曲には、まさにFukaseの原風景とも言うべき、毎日部屋で夕方過ぎに起きて、日が昇って朝が来ることを怖れる「INSOMNIAな日々」の穏やかな狂気が刻印されている。ステージを見上げると、邪悪な表情をした巨大ピエロが、大きく左右に揺れながらビルボードを手にしている。そこに書かれているメッセージは「NICE PEOPLE MAKE THE WORLD BORING」(=善良な人々が世の中を退屈にしている)。

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 SEKAI NO OWARIは、まだ楽器もろくにできない、曲もろくに作れない時代から、地下室に秘密基地を作って、夜な夜な世界を引っくり返すことを夢見てきた。「眠れない世界」を生きていた彼らの活動は、一貫して退屈な「昼の世界」への抵抗だった。匿名という影に隠れ、借り物の善意を振りかざし、世間の常識から少しでも外れた者たちを集団で排除していく現在の日本社会に、彼らが強い危機感を覚えているのも頷ける。

 アリーナツアー『The Dinner』で初めて演奏されて以来、ツアーの定番曲となっているオリエンタルテイストのラップ&ダンスチューン「Monsoon Night」。その「Monsoon Night」や「ANTI-HERO」を経たことで、Fukaseのラップスキルがさらに磨かれていることがよくわかる「Re:set」。そして、過去のステージでDJ LOVEが踊った時のように半ばネタとして披露するはずだったFukaseのダンスが、もはやネタの域を超えていた(振付は振付師・ダンサーのTAKAHIROが担当)、中近東的な旋律が耳に残るアッパーなダンスチューン「ラフレシア」。

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 今回の『INSOMNIA TRAIN』では、現時点で音源化されていないその3つの新曲が披露された。一方、タイアップ曲として発表済の近作シングルの表題曲である「RAIN」と「サザンカ」は、日によって入れ替えで序盤にどちらか1曲だけ演奏されるというスタイルが取られた。ライブでしか聴けない新曲とCDでリリースされてきた最近の曲、どちらに「SEKAI NO OWARIの今」が色濃く反映されているかは言うまでもないだろう。

 Saoriの出産をはじめとするメンバーの充実した人生の一方で、マスメディアへの露出という点では一時期ほどの派手な展開が減っているSEKAI NO OWARIだが、『INSOMNIA TRAIN』を目撃した人ならば、彼らが今なおバンドとして音楽的にもパフォーマンス的にも目を見張るような進化の過程にあることがよくわかったはず。新しい曲ができたらすぐにストリーミングで発表して、そこでリスナーからのフィードバックを得て次のアクションへと備える。そんな海外の音楽シーンのスタンダードに慣れ親しんでいると、アジアを中心に海外にも多くの熱狂的ファンのいるSEKAI NO OWARIの現在の動きが少々もどかしく思えるのが正直なところだが、今回のツアー『INSOMNIA TRAIN』は彼らの未来に引き続き大きな期待と確信を抱かせてくれる、興奮と刺激に満ちたものだった。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

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■写真
太田好治(yoshiharu ota)、アミタマリ(mari amita) 、立脇卓(taku tatewaki)

SEKAI NO OWARI オフィシャルサイト

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