>  >  > 高畑勲の音楽家としての側面

高畑勲は“音楽の演出”も抜きん出ていた 監督作品などから功績を辿る

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 日本を代表するアニメ作家であり映画監督の高畑勲が、去る4月5日に82歳で亡くなった。彼の偉業は言うまでもなく、素晴らしいものであるが、ここで注目したいのが彼の音楽センスだ。映像に対する美的感覚と同じくらい、彼は音楽に対しても非常に大きなこだわりを持っていた。ここでは高畑監督作品を追いながら、その音楽の重要性に迫ってみたい。

 高畑勲は、アニメ作家としてスタートする何年も前に、音楽と重要な関わりがあった。それは、東京大学文学仏文科在学中に出会ったジャック・プレヴェールの作品である。プレヴェールは、詩人であり作家であったが、シャンソンの作詞家としても活躍した。有名な「枯葉」や「バルバラ」、「美しい星へ」といったシャンソンの名曲群が、高畑に与えた影響は多大だという。後に彼はプレヴェールの詩を訳した書籍も出版しているほどだ。

 アニメ作家となって最初の本格的な高畑作品は、1968年公開の『太陽の王子 ホルスの大冒険』である。興行的には失敗作、子ども向けにしては退屈だと言われがちで、それほど評価も高くない。しかし、コーラスもしくはソロで歌われる劇中歌は素晴らしく、映像の中で効果的に使われていることは誰もが認めるはずだ。音楽を担当したのは、現代音楽の作曲家としても活躍した間宮芳生。高畑と間宮の邂逅は非常に重要で、その後も宮沢賢治の名作を取り上げた『セロ弾きのゴーシュ』(1982年)、『風の谷のナウシカ』のヒットによる資金で制作された実写ドキュメンタリー作品『柳川堀割物語』(1987年)、野坂昭如の直木賞受賞作をアニメ化した高畑の最高傑作のひとつ『火垂るの墓』(1988年)と、2人のコラボレーションは続いた。

 高畑の音楽へのこだわりは、同胞でありライバルだった後輩の宮崎駿も認めていたようだ。宮崎の監督作『魔女の宅急便』(1989年)で、高畑は「音楽演出」の担当者としてクレジットされている。高畑が起用された理由は、宮崎の製作スケジュールがあまりにもタイトであったためだそうだが、あえて「音楽演出」に指名されるのは、それだけ信頼を得ていたからだろう。

 監督や演出家として音楽にこだわることはよくある話だが、高畑はそこにとどまらず主題歌や挿入歌の作詞や訳詞も行っている。最初期のものとしては、1976年に放映されたテレビシリーズ『母をたずねて三千里』で、エンディングテーマ「かあさんおはよう」の作詞を手がけている。また、『おもひでぽろぽろ』(1991年)ではベット・ミドラーの「The Rose」を翻訳し、「愛は花、君はその種子」とタイトルを付けて都はるみに歌わせた。翌年の宮崎駿監督作『紅の豚』では、シャンソンの名曲「さくらんぼの実る頃」の訳詞も手がけ、こちらは加藤登紀子が歌って話題になっている。そして、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)では、ドリス・デイがヒッチコック映画で歌った「ケ・セラ・セラ」の訳詞も行い、朝丘雪路をはじめとする声優たちにカバーさせて映画を盛り上げた。いずれの歌詞も言葉の選び方がユニークで、シャンソンの翻訳で鍛えただけのことはあるなあと感心させられる。

 高畑の音楽へのこだわりは、作詞や訳詞にとどまらず、作曲も手がけている。最初にクレジットされたのは、テレビアニメ『じゃりン子チエ』(1981年)の挿入歌である「バケツのおひさんつかまえた」だが、こちらはあくまでも作曲家の惣領泰則との共作だ。本格的に作曲家として携わったのは、実質的な遺作となった『かぐや姫の物語』(2013年)である。意外にも初タッグとなった久石譲が音楽を手がけ、主題歌には二階堂和美が抜擢された本作だが、重要なシーンで流れる劇中歌の「わらべ唄」と「天女の歌」は高畑が作詞作曲を手がけた(作詞は脚本を担当した坂口理子との共作)。しかも、初音ミクに歌わせてデモ作りを行い、久石に聴かせていたというから驚かされる。いかに高畑が音楽を重要視していたかが伝わるエピソードだ。

 矢野顕子や上々颱風など、高畑が指名したミュージシャンの話を上げていくとキリがないが、いずれにしても流行りに流されず、固定観念にもとらわれず、独自の感性で音楽の演出を行っていたことは、残された作品を観ればわかるはず。高畑勲の名作群はこれからも上映される機会が多々あるだろう。その際にはぜひ音楽にも注目しながらご覧になっていただきたい。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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