高田漣は、ルーツミュージックを現代の歌へと結ぶ 日本の大衆音楽の豊かさ内包したステージ
12月24日付の朝日新聞『書評委員が選ぶ「今年の3点」』のなかで細野晴臣は「今年も僕の書評は音楽にかかわる本になったが、どれも時の流れに埋もれがちなポップ・ミュージックを再確認し、記憶にとどめようとする手助けになる記録だったともいえる」と記していたが、この日のライブからも筆者は、同じようなことを感じた。ブルース、カントリー、フォークなど、ポップミュージックの根底に流れる音楽をもう一度丁寧に掬い上げ、それを現代の歌へと結びつける。それこそが高田漣というミュージシャンのもっとも大きな魅力であり、役割なのだと。
高田漣がニューアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』のリリースパーティを東京・青山CAYで開催した。ブルース、カントリー、ソウルミュージック、フォークなどのルーツミュージックを色濃く反映した楽曲、伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、野村卓史(Key)を交えた質の高い演奏、そして、日常のなかにある“ブルース”を投影した歌。クリスマスイブの夜、高田漣は日本の大衆音楽の豊かさを内包した、素晴らしいステージを見せてくれた。ライブのスタートは、アルバム『ナイトライダーズ・ブルース』の収録曲「ナイトライダー」「Ready To Go 〜涙の特急券〜」。“オーセンティックなブルース、ロックンロールをもとにしながら、新しい手触りの音楽として提示する”という「ナイトライダーズ・ブルース」のテーマが、ライブ冒頭から生々しく体現される。高田、伊藤、伊賀、野村は、約10年に渡り細野晴臣のツアーメンバーをつとめている。もともと卓越したプレイヤーである4人が、細野との活動を通し、バンドとしての一体感を獲得しているのだから、演奏の質の高さは折り紙付き。有機的な響きをたたえたサウンドも心地いい。
さらに大瀧詠一の「びんぼう」をカバーした後、高田によるアコギの弾き語りコーナーへ。ゆったりと穏やかな週末を描いた「ハレノヒ」、父親であり、伝説的フォークシンガーである高田渡の「コーヒーブルース」、そして、詩人・金子光晴が作詞、佐久間順平が作曲を手がけ、やはり高田渡が歌った「猿股の唄」(父と息子の深いつながりを描いた楽曲)。「父のトリビュートアルバム(『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』)を作って、その後の2年近く、いろんなところでライブをやったことが大きくて。音楽的な体力、筋力が付いた感じがあった」と語っていた高田だが、その成果はこの日のライブでも存分に発揮されていた。歌詞に込められた機微を自然に伝える表現力は、ここにきてさらに成熟しているようだ。
アコギのボトルネック奏法を取り入れた「フィッシング・オン・サンデー」を披露した後、バンドメンバーが再びステージに登場し、アルバム『アンサンブル』(2013年)の楽曲を演奏。〈座敷童は夜になると/いつも独りで泣いてます〉という童話的な世界観の歌とサイケデリックな音像がひとつになった「鯵」、穏やかなメロディラインが広がる「熱の中」(星野源主演映画『箱入り息子の恋』主題歌。作詞を辻村豪文、歌唱を細野晴臣が担当)、洗練されたコード進行、まるでミュージカルのように場面が変わる構成が印象的だった「絵空事」。「昔の曲はコードが多い。久しぶりにやったら“いまは作れない曲だな”と思ったし、勉強になりました」と語っていたが、高田漣というソングライターの変遷が実感できたことも、このライブの大きな収穫だった。さらにバクバクドキン(YUI、NAOKOのよるガールズユニット)がコーラスで参加したロックンロール・ナンバー「ハニートラップ」。かわいい女の子に騙される哀れな男の姿をコミカルに描いた歌詞、伊藤大地の口笛が響き渡る。
列車がガタゴト走るようなリズム、ホンキートンクなオルガンが絡み合う「ラッシュアワー」、古典落語の演目“文違い”をモチーフにした「文違い」の後は、アルバム『ナイトライダーズ・ブルース』唯一のバラードナンバー「思惑」。ソウルミュージックの濃密に取り込んだアンサンブルと日本語の叙情的な響きを活かした歌が共存するこの曲からは、シンガー高田漣の魅力が強く伝わってきた。本編の最後はタイトル通り、バックビートを聴かせたロックナンバー「バックビート・マドモワゼル」。さらにアンコールでスティールギターをフィーチャーしたノスタルジックなナンバー「Little Hawaii」を披露し、ライブは終了した。
終演後「アルバムはライブ映えする曲が多かったから、やりやすかったですよ。逆に昔の曲のほうが新鮮に感じました」と語った高田漣。2018年2月から3月にかけて札幌、金沢、名古屋、岡山、京都、新潟、仙台、福岡をまわる弾き語りツアーを開催(出演は高田、ハタヤテツヤ/Key)。4月14日には東京・日本橋三井ホールでバンド編成(ゲスト:長岡亮介/Gt)によるデビュー15周年記念特別公演を行う。ルーツミュージックと日々の感情を綴った歌を豊かなサウンドとともに表現した『ナイトライダーズ・ブルース』の楽曲が、ライブのなかでどのように成熟されるのか? いまから楽しみでしょうがない。
(文=森朋之/写真=沼田学)