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U2が『Songs Of Experience』に込めたメッセージーー歌詞やライナーから小野島大が紐解く

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 発表されたばかりのU2の新作『Songs Of Experience』は、前作『Songs of Innocence』と対になる作品として、前作リリース時から予告されていた。その『Songs of Innocence』が、AppleのiTunes Storeを通じて同サービスの利用者5億人に対して、ある日突然「強制配信」され、大きな反響と批判を巻き起こしたことは記憶に新しいだろう。ボノは後に「自分の心血を注いできたアルバムが誰にも聴かれないかもという恐れがあったので、5億人に直接届けるというアイデアに夢中になってしまった」と語っている。

U2『Songs Of Experience』

 これは「世界中の人々とコミュニケーションしたい」「繋がっていたい」という彼らの欲望が引き起こした事件だろう。より多くの人々に聴いてもらいたい、自分たちのメッセージを届けたい、そのメッセージで人々の心を震わせ、一体となりたい、という強い欲望。それは「自分の歌で、自分の音楽で世界を変えたい」という、いささか大言壮語めいた思いにも結び付く。だがそんな欲望の強さこそがU2を支え、突き動かしてきた。

 しばらく前、U2『ヨシュア・トゥリー 30周年ツアー』の前座として共にヨーロッパを回ったノエル・ギャラガーが、ボノの度外れた酒豪ぶりに辟易としたという記事が出回ったことがあった。連日連夜朝まで飲み明かした翌日に、アイルランドの大統領を招いた昼食会でホストをつとめ、フランスの総理大臣と共にテレビに出てアフリカの難民や貧困問題についてステートメントを発する。夜になればライブで24歳の若者のようなエネルギッシュな歌をうたう。そんなボノを見て「こいつは人間じゃない」とノエルは呟くわけだが、なるほどこれぐらいのバイタリティとエネルギーがあってこそ、ライブで何万人もの人々を相手にパフォーマンスし、その音楽で世界中の人々の心を揺さぶり、その一方でノーベル平和賞候補に3度ノミネートされるほどの社会的アクティビストとして精力的に活動できるのだと納得させられた。

 だがその一方で、彼らは既に50代の半ばを超えている。2014年秋にボノはニューヨークのセントラルパークを自転車で走行中に転倒し、数カ月入院する大ケガを負ったと伝えられている。結果的に回復はしたものの、もしかしたら二度とギターが弾けなくなるかもしれない、パフォーマーとして二度とステージに立てなくなるかもしれないという恐れを抱きながら過ごした数カ月の間、ボノはいずれ訪れる自分の「ミュージシャンとしての死」を明確に意識したはずだ。年を重ねたミュージシャン(に限らないだろうが)は、残りの人生で何ができるか、何枚の作品を残せるか考えるという。

 またジ・エッジによれば、ボノは本作の制作中に「死に向き合うような困難」に見舞われたという。ボノの書いた『Songs Of Experience』のライナーノートにも、その体験を仄めかす箇所がある。そこでボノは「僕は自らの恐れと、不安自体を恐れる気持ちと向き合わねばならなかったのだ」と言う。それが具体的に何であるのかは明らかにされていないが、いずれにしろボノは、自分の残り時間が無限ではないことに気づいてしまった。では自分が今為すべきことは何か。自分たちが今歌うべきこと、残すべき音は何なのか。その答えが『Songs Of Experience』なのだ。

 彼らの伝えようとするメッセージは単純にして明快だ。煎じ詰めて言えば、彼らはたった2つのことしか言っていない。

 憎しみよりも愛を。恐れよりも希望を。

 ジャケットで手を繋ぐ少年少女はボノの息子とジ・エッジの娘。前作『Songs of Innocence』では、ラリー・マレン・ジュニアと、彼の息子がジャケに登場した。U2が本作でやろうとしたのは、親や先人たち、敬愛する先輩アーティストたちから受け継いだ英知、経験、情愛、勇気、思想、そして伝統、希望や夢を、次代を担う若者たちに引き継いでいくことだ。次の新しい歌を歌うのは君たちなのだと、U2は歌っている。ボノは、U2は、自分たちが長い歴史の中で「繋ぐ者」に過ぎないと自覚した。U2という巨大なハブが、過去と未来を、分断された世界を繋いでいく。

 すべての曲がボノの家族やボノ自身を含む彼の身近な人、親しかった人、世話になった人、要は彼らのオーディエンスへの手紙という形式をとっている。つまり歌詞にはボノのパーソナルな体験や心情が率直で詩的な言葉で綴られている。だがそれは普遍化され決して過剰なセンチメントやノスタルジーに回収されない。同時にトランプ以降変転していった世界のあり方、<レイシズムという精神的な病い>への違和も語られ、それは間違いなくポリティカルな表明だが同時にパーソナルな心情吐露でもあるのだ。

【書くことによって物書きが自らを曝け出してこそ、作品は面白い地点に辿り着く。そして僕はこれらの”経験の歌(Songs of Experience)”に、裸で飛び込みたかった。愛する者達と共に素っ裸で泳ぐだけではなく、自らの皮を脱ぎ捨てたかったのだ】(本作ブックレット記載のボノ執筆のライナーより:訳:今井スミ)

 瑞々しく美しいメロディと丁寧に積み重ねられた温かみのあるサウンドは、エクスペリメンタルな試みやエレクトロニックなアレンジは控えめで、目新しさや奇抜さや過激さを求めるというより、シンプルでオーソドックスなアレンジで、「歌を聴かせたい」という意図は明白だ。ブライアン・イーノやダニエル・ラノアの名は前作に引き続きクレジットにない。彼らの実験性は必要なかったのだ。「25年後も聞かれるような名曲にしたかった」とはジ・エッジの言葉だが、前作『Songs of Innocence』を作っている間に感じていた、長い制作期間の間に自分たちが時代から取り残されてしまうのではないかという危機感のようなものはとうに克服されている。10年後、25年後、100年後も聞き継がれ、歌い継がれていく歌のために、あえてオーソドックスな王道のU2を目指したのだ。それは正解だった。

      

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