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Creepy Nutsがメジャーデビュー作に込めた“意匠と回答” 高木 “JET” 晋一郎が紐解く

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 飛ぶ鳥を落とす勢いのCreepy Nuts(R-指定&DJ松永)(以下、Creepy Nuts)が『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』でついに8月2日にメジャーデビュー!!

 ……と、ここで上記の日付を確認していただきたい。すでにかなり過去である。本来ならば8月にニューシングルのタイトル通り、華々しくメジャーデビューを果たし、リリースイベントやライブも行うはずだった彼らだが、そのリリースは“ヒップホップ過ぎる”諸事情によりしっかりと延期、仕切り直しを余儀なくさせられ、11月8日に改めて正式リリースとなった。その意味でも、失敗とは言わないまでも、なんだか微妙にモヤっとする形でメジャー進出を果たすことになった彼ら。これが「メジャーデビューも結局失敗すんのかい!」というツッコミ待ちな一連のネタだとすれば、フリとオチが効きすぎている展開なのだが、この原稿もTシャツ日和の7月にオファーをもらった3日後に「発売延期になりました! 執筆を止めて下さい!」という痺れる指示があり、「改めて執筆を!」となったのはコートを着だす10月であることを考えると、仕込みやネタではなく、リアルに色々大変だった模様だ。

 しかし、そんな状況もどこ吹く風、渡辺直美がオーガナイザーを務めたイベント『J-WAVE AVALON NIGHT ~NAOMI WATANABE EDITION~』への出演や、各地の学園祭にフェス、そしてハロウィンイベントにも参加し、その鬱憤を晴らすかのような活躍を見せているCreepy Nuts。メジャーデビューに加えて、大学デビューどころか学祭の主役としての招聘や、有名芸能人の企画するイベントへの出演と、完全にアーティストとしての“勝ち”の方向にしっかりと突っ走り、さぞかし日々は乱痴気騒ぎ、パンツを上げる暇もないほどの状況なのであろう(DJ松永に関しては童貞を捨てていればの話だが)。

 <イケてない><“使えない奴ら”><陰キャ><自意識過剰>……Creepy Nutsの作品群は全部では勿論ないが、そういった“ネガティブ強めの人間性”が作品のテーマになる場合が多く見られ、彼らのもうひとつの主戦場とも言えるラジオや、数々のインタビューでも、その部分について語られることが多い。そういった彼らの内面性も、ファンからシンパシーを集める理由だったわけだが、状況だけを見れば、彼らの躍進はどう考えても順風満帆。「“助演男優賞”どころか主演じゃねえか!」と勝手な恨み言の一つも言いたくなる。……そう思ってしまう自分の性格の捻れも同時に嫌になってくるが。

 しかし、ニューシングルがそういった疑問や、やっかみに対する回答編といった部分を持っているのが、今回の作品作りの見事さだろう。

 ダブルリード(両A面)作品のエンディングを飾る「だがそれでいい」。この曲でCreepyは、“使えない奴ら”であり“トレンチコートマフィア”であり、“たりないふたり”であったことを、「だがそれでいい」と肯定し、過去は現在によって塗り替えられるとメッセージする。シングルの構成上も、この曲の前に挿入される「“悩む”相談室メジャーデビュー特別編(構成:佐藤満春)」の中でも、過去の“イタさ”を募集し、自分たちのイタさも開陳しつつ、それらを笑い飛ばした後に、「だがそれでいい」と繋げるのは、そこに意味と説得力を持たせた構成だろう。そしてその肯定は、成功や勝利といった条件込みの肯定ではなく、“単純に今を肯定する”形である事に注目したい。「だがそれでいい」の肯定性は、そういった無条件な肯定であるがゆえに、過去や現在進行系の“イタさ”(しかしそれは「その人ならではのオリジナリティ」なのだ)をも、「だがそれでいい」と肯定できるという構造を持っている。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / だがそれでいい【MV】

 「だがそれでいい」とメッセージを送り、そこに説得力をもたせるのはことができるのは、彼らが「ヒーロー」だからであるだろうし、この注目度を考えれば、そこに異論はないはずだ。例えばDJ松永は本戦優勝こそ果たせていないものの、世界最大のDJ大会『DMC』で好成績を収める敏腕のターンテーブリストであり、R-指定は「フリースタイルダンジョン」や「UMB(MCバトルの大会)三連覇」を例に挙げるまでもなく、フリースタイル巧者として様々なメディアに取り上げられている。同時にCreepy Nutsも快調に進んでいるわけで、承前のように「勝ってる側」と思われることもむべなるかな。しかし興味深いのは、この曲で彼らは自分たちがそういった事実を基に、「勝った」とは言っていない。例えばZEEBRAの「Street Dreams」が“勝ち上がることで過去を肯定する”というファイトミュージックだとしたら、「だがそれでいい」は、そういった勝ち負けを越えた形でリスナーを肯定する。その意味では「Street Dreams」が父性的な文脈でリスナーを肯定しているとしたら、「だがそれでいい」は母性的とも言える肯定であり、その肯定の表現も、彼らのオリジナリティであるだろうし、新たなファン層の開拓や、非ヒップホップリスナーからも支持を集める理由でもあるだろう。

 しかし「Street Dreams」と「だがそれでいい」は、肯定の表現は違えども、どちらも「ヒップホップの中」から生まれている。それが彼らをヒップホップたらしめる理由でもある。

      

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