ねごとが突き詰めた、妥協のないダンスミュージック「ハッとした歌やメロディーを最優先にしたい」

ねごとが突き詰めたダンスミュージック

 ねごとの4枚目のフルアルバム『ETERNALBEAT』が完成。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とROVOの益子樹をプロデューサーに迎え、「ダンサブルなねごと」という方向性を明示した『アシンメトリ e.p.』の延長線上で、生まれ変わったバンドの姿を克明に刻んだ、素晴らしい作品である。ライブと制作の日々で「ねごとらしさ」をもう一度見つめ直し、音・メロディー・言葉の一つ一つを精査して、核心だけをギュッと凝縮した、結晶のような11の曲たち。末永く愛して行ける作品に、またひとつ出会うことができた。(金子厚武)

「ねごととしてのフックはちゃんとどの曲にもある」(沙田瑞紀)

ーー『ETERNALBEAT』、素晴らしいアルバムだと思います。まずはシンプルに、作品に対する手応えを話していただけますか?

澤村小夜子(以下、澤村):今までと全然違う雰囲気のアルバムができて、レコーディングでもいろんな録り方をしたし、新しい挑戦がそれぞれいっぱいあったんですけど、「こういうのを作ろう」って思って、そこに向かって作っていった曲たちなので、わりとやりやすかったというか、楽しみながら作れて、いいアルバムになったと思います。

蒼山幸子(以下、蒼山):ねごと史上一番コンセプチュアルだし、新しいことはもちろんしてるんですけど、でもすごく自然体だとも思うし、無理をしてる感じはまったくなくて。今までの積み重ねが飛ぶための準備だったとしたら、やっと飛び立つアルバムができた感じです。

沙田瑞紀(以下、沙田):今までは曲調のバラエティで飽きのこないアルバムを作りたいと思ってたんですけど、今回は一曲一曲に時間をかけて、統一感がありつつも飽きのこないアルバムにできたと思っていて、そこが一番自分の中で達成感があります。

藤咲佑(以下、藤咲):ライブを軸に置いて、今の自分たちが一番いい状態で鳴らせる、素直に楽しめる音楽を探す過程で作られていったアルバムなので、ホントにリアルが詰まってるし、聴いた人もそれを感じられる作品なんじゃないかと思います。

ーー『アシンメトリ e.p.』の取材でも話してもらったように、今回は「踊る」がテーマになっていて、ダンサブルな曲が多く収録されているわけですが、とはいえ、ビートだけをとっても生のバンドサウンドもあればトラック寄りのものもあるし、BPMも速いものから遅いものまであって、特定のジャンルで語れるものではないですよね。「ねごとらしいダンスミュージック」を構築する上では、どんな部分がポイントになりましたか?

蒼山:ダンスミュージックだからって、パーティーっぽいかというと、ねごとは全然そういう感じじゃないと思うんです。色だったら赤より青だし、でもちゃんと内側に燃えてるものがあるっていうか、エモさはあって、だから自然と体が揺れるし、気持ちが解放できるのかなって。構えて聴くわけでもなく、フッと懐に入り込んで、日常の背景になるような、そういうものを作れたんじゃないかと思います。

ーー確かに、ねごとは「アゲアゲ」って感じではないですよね(笑)。もちろん、フィジカルなビートの気持ちよさもあるんだけど、内側からジワジワと高揚する感じがある。

蒼山:汗感はないですよね(笑)。表面的に汗をかいてるっていうよりも、寒い日で体は冷えてるんだけど、気持ちは温かいとか、そういう感じに近い。

ーー瑞紀さんはどうお考えですか?

沙田:中野さんにプロデュースしてもらった「シグナル」の原型ができたときに、この曲はサビのメロディーを小夜子が作っていて、これまでのねごとにはなかったびっくりするようなメロディーが乗ったなって思ったんですね。なので、そこを一番に聴かせたかったので、中野さんにサビでビートが止まるデモを聴いてもらったら、「ダンスミュージックでこれはありえない」って言われたんです。ジャンルで考えると、これは法則にないから、自分はどうすればいいかわからないって。でも、それでも私はそのままいきたいと思って、自分が思っている以上に、曲に対するこだわりがあるんだなって感じて。

ーージャンル的なこだわりではなく、自分の中の理想に対するこだわりですよね。

沙田:そうですね。「ナシ」が少ないっていうか、ジャンルの定義よりも、そのときにハッとした歌やメロディーを最優先にしたいんです。なので、今回は一曲一曲突き詰めた分、シンセベースだったりエレキベースだったり、打ち込みだったり生だったり、曲によって形は変わってるんですけど、ねごととしてのフックはちゃんとどの曲にもあると思ってて。このアルバムを聴いて、「ロックバンドじゃなくなった感じなんですか?」とか言われることもあるんですけど、別にそういうことじゃないっていうか、ロックバンドとして聴いてもらってもいいし、楽曲を通じて自由に感じてもらえればと思いますね。

ーーそれぞれがどんなインプットを得て、ねごとなりのダンスミュージックを構築して行ったのかをお伺いしたいです。まず、制作期間中に4人が共有していた音楽はありましたか?

沙田:皆無ですね(笑)。

澤村:電気グルーヴ先輩のライブに行ったくらい?

沙田:みんなで行ったのはそれくらいかも。

ーーねごとは個人の趣向はわりとバラバラですよね。じゃあ、一人一人だとどうですか?

澤村:私はJ-POPばっかり聴いてたかな。ナオト・インティライミさんとか、平井堅さんとか。ペンタトニックスみたいな、コーラスがきれいな曲が好きで、そういう感じのをよく聴いてましたね。参考にするとかではなく、単純に聴いてて気持ちいいっていうだけなんですけど。

ーーコーラスのバリエーションは今回もかなり豊富だし、その背景にはなってるのかもしれないですね。佑さんはどうですか?

藤咲:やっぱり、BOOM BOOM SATELLITESはかなり聴きました。中野さんはベーシストでもあるので、「いい音とは?」みたいな話をずっとしてくださって、ベースの立ち位置を考えながら聴いてました。さっき話に出た「シグナル」は最初指弾きで行こうと思ってたんですけど、中野さんが「この曲はピックで弾くべきだ」って指摘してくれて、やっぱり、粒立ちやスピード感が全然変わってくるので、そこからは「この曲はどっちの弾き方がいいだろう」って、一曲一曲考えるようになりましたね。

蒼山:私は前の取材のときにも話したヒッキー(宇多田ヒカル)のアルバムと、あとはもともと好きだったスーパーカーをもう一回聴き直して、歌詞とかもやっぱりすごいなって思いました。この前ナカコー(Koji Nakamura)さんとROVOが一緒にやったライブを観に行って、「KISETSU」っていう曲がすごくいいなって思って、ナカコーさんのアルバム(『Masterpeace』)も聴きました。

ーー宇多田さんのアルバムに関しては、どんな部分に惹かれたのでしょうか?

蒼山:すごくシンプルで、普遍的なことを歌っていて、でもちゃんと彼女らしいというか。やっぱり、普遍的な歌詞を書きたいっていうのは前から思っていることで、具体的な日記みたいな感じではないけど、でも「わかるなあ」って気持ちになるし、あとはポジティブな面だけじゃないというか、ちゃんと光と影の両方があるのも好きで、それって逆にポジティブだと思うんです。切なさだったり、痛みがあるのって、現実を見てるってことだと思うから、私もそういう曲を書きたいなって。

ーー瑞紀さんはどうですか?

沙田:キングとか、アリアナ・グランデとか、シーアとか、この一年は女性が中心の洋楽を意識して聴いてました。キングはホントにハーモニーが最高で、ヘビロテって感じなんですけど(笑)、基本的には芯のある歌い手さんの曲を聴いていて、その中で思ったのが、洋楽のメロディーって、全然上がらないんですよね。でも、息遣いとか、ちょっとしたコーラスで厚みを出したり、気の利いたアレンジメントが多くて、全然媚びてない。アリアナ・グランデとかはすごくキュートな感じで売り出してるけど、楽曲を聴くとすごくクールで、ちょっとミステリアスな感じもするし、ああいう佇まいはすごく参考になるなって。

ーーなるほど。

沙田:メロディーが上がってたり、エモーショナルになっていなくても、楽曲自体のセンスで気持ちって上がるんですよね。そういう曲にすごく励まされたというか、自分は上げたりするのが苦手で、EDM的な曲もたくさん聴いたんですけど、あんまり入ってこなかったんです。そういう中で、「いいんだよ。この方向で大丈夫だよ」って、曲を聴くことで後押しされたような感覚もあったんですよね。

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