いしわたり淳治が考える、Mayday対訳詞の面白さと難しさ

いしわたり淳治が考える“対訳詞の面白さ”

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日本語は、文末を省略すると意味が通じなくなってしまう

ーー彼らの訳詞を手がけたことで、ご自身の他の作品にも何か影響がありましたか?

いしわたり:きっとあると思います。Maydayの訳詞をすると、いつも何かしらの発見があるんですよ。とにかく視点がユニークじゃないですか。そこはすごく勉強になりますし、あと思ったのは、日本語って歌詞の中に2人までしか登場させづらいんですよ。3人目の登場人物を出すと、誰のことを歌っているのか分からなくなってしまうことが多くて。「君と僕」についての歌詞が多いのは、そのせいもあるのかもしれない。

ーーそれは面白い着眼点ですね。

いしわたり:英語だと、“he”でも“she”でも1音の中に収まるじゃないですか。でも、日本語の場合は呼び方によって、1音で収まらなかったりする。そうすると、「あれ、“彼”って誰のことだっけ?」ってなってしまって中弛みしちゃうんですよね。Maydayの歌詞には、色んな登場人物が出てくる。例えば「Cコードは...」なんて、“先輩から後輩になった自分=僕”と“後輩”、それから“後輩の女の子=君”まで登場するんです。それでもキレイにまとまっていますよね。でも、それをこうやって上手く対訳できたのだから、日本語の歌詞でも出来なくはないのかもしれないですね(笑)。

ーー対訳だけでなく、「YOUR LEGEND 〜燃ゆる命〜」では「日本語詞」も手がけています。

いしわたり:対訳よりもさらに難しい作業でした。原文の意味を損ねることなく、メロディに乗せられる日本語を選ばなければならないわけですから。ただ、日本語詞を書くこと自体は僕、大好きなんですよ。なんか、パズルをやっているような気持ちになるんです。例えば、1Aで歌っていることが、日本語だと入りきれないから他の場所に入れるとか、そういうことも対訳よりしやすいし、言葉を並べ替えながら「あーでもない、こーでもない」と考えるのが大好きで。もしかしたら、仕事の中でも一番好きかもしれない。

ーーへえ!

いしわたり:A面をクリアしたから次はB面! みたいな。原文と対訳文の、文字数の違いを見ていただけばわかると思うんですけど、同じ内容・情報量でも、中国語より日本語の方が、圧倒的に文字数が多いわけです。これを全て、日本語詞として詰め込むなんて「絶対無理!」って最初は思うんですよ(笑)。でも、そこから攻略していくのが楽しかったりして。

ーー制約が多い中で、達成していく満足感が強くあるとか。

いしわたり:まさにそうですね。僕、「制約」とかすごく好きなんですよ。制約がある中で、内容を過不足なく伝えられ、言葉も綺麗にメロディに乗せたものを、何とか工夫しつつ作り上げていくことに、大きな喜びを感じる。うまくいったときは本当に嬉しくなって、しばらく歌詞を眺めてしまいますね(笑)。おそらく、ゴールが決まっているから結果も目に見えてわかりやすいんだと思います。逆に、「なんでも好きなように作ってください」って言われると、何から始めたらいいのか分からなくなりますね。

ーー以前のインタビューで、「日本語というのは、音楽との相性がとても良くない」とおっしゃっていたのが印象的でした。

いしわたり:そうなんです。例えば「手に入れる」という表現も、現在形なのか過去形の「手に入れた」なのか、あるいは願望を表す「手に入れたい」なのか、日本語の場合は全てが文末で決まる。でも、英語や中国語の場合は動詞や助動詞が前に来るので、文章の最初の方でわかる。そうすると文末を省略できるわけです。日本語は、文末を省略すると意味が通じなくなってしまうんですよね。

ーーああ、なるほど。

いしわたり:あと、日本語は1音ごとに母音があるのも厄介です。歌い方をだいぶ崩さないと、英語っぽく聞こえない。

ーー英語のような抑揚も出しにくいですよね。

いしわたり:ああ、確かにそうですね。今、話しながら思い出しましたけど、以前は日本語の「抑揚のなさ」をどう克服して歌詞にするか、一生懸命考えていました。最近は無意識でできるようになってきましたけど。

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ーー普段の作詞家としての仕事以外にも、プロデューサーとして他人の歌詞を監修するなど、様々な活動をされていますが、他に「楽しい」と感じるのはどんなときですか?

いしわたり:誰かと一緒に歌詞を書くのも結構好きですね。ちょっと訳詞に近いというか、その人の言いたいことが明確にあって、書きたい内容があって、それをメロディの中にどう落とし込むのか、一緒に作戦を練っていく。それもやはりゲームを攻略していくような気持ちになる……って、個人的にはほとんどゲームやらないんですけどね(笑)。根が理数系なので、そういうパズル的なものが好きなのかもしれません。「自由に歌詞を書いていい」だと、ちょっと文系の匂いが出てくるじゃないですか。

ーーエゴとか、作家性とか、それこそオリジナリティとか。

いしわたり:そうです。そういうことを排して、あくまでもテクニカルに作業をしていくことも好きなのかもしれない。

ーー他アーティストに歌詞を提供する場合、相手のことはリサーチしますか?

いしわたり:とことんしますね。最初の打ち合わせの段階で、相手と「こういうテーマはどう?」とか、「こういう書き方はどう?」とか、どんどん提案しながらイメージを共有していく。最終的に、「何でもいいからとにかく歌詞を書いて」っていう丸投げ状態にならないよう、ちゃんと打ち合わせをしてから歌詞を書き始めますね。

ーー実際に歌詞を書くときは、最初に書きたいことを全て書き出してから、メロディに合わせて不必要な言葉を削っていくのでしょうか。

いしわたり:いえ、削るというよりは、まず「これは絶対に使いたい」というフレーズだけを並べて、それだと意味の通じない箇所に言葉を補足していくというイメージですね。そこで、言いたいことがメロディの中に上手く収まった時には、やはりパズルを解いた時のような、ゲームを攻略した時のような達成感がありますし。それは今回、「YOUR LEGEND 〜燃ゆる命〜」の日本語詞を書くときも同じプロセスでした。

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ーー最後にMaydayの話に戻りますが、テクニカルな意味での「対訳」をする楽しさ以外で、彼らを手がける上でのいしわたりさんの最大のモチベーションはどこにありますか?

いしわたり:それはもう、一つしかないですね。Maydayの素晴らしい歌詞を、一人でも多くの日本人に届けたいという使命感でやっています。多くの人たちは、まず彼らのサウンドに惹かれてこの対訳を読んでくれると思うんですけど、そのことで楽曲の世界観により深く触れることができて、その魅力をさらに感じてもらえたら、それが一番の喜びですね。これから東京オリンピックに向けて、国内外の音楽交流がさらに活発になっていく中、もし“言語の壁”というものが存在するとしたら、僕が対訳を手がけることで、その壁を壊す一助を担えたら光栄だと思っています。

(取材・文=黒田隆憲/写真=三橋優美子)

■番組情報
『Mayday Special LIVE特集 第2弾』
AbemaTV
1月29日(日) 21時〜

■リリース情報
『自伝 History of Tomorrow』
発売:2月1日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥3,500+税
通常盤(CD)¥2,800+税
<収録曲>
1. もしも出会わなければ / 如果我們不曾相遇
2. 成功間近 / 成名在望
3. 素敵だから (君を歌にしたい) / 好好 (想把你寫成一首歌)
4. 兄弟 / 兄弟
5. 人生有限会社 / 人生有限公司
6. あれから僕ら /後來的我們
7. 頑固 / 頑固
8. Party Animal / 派對動物
9. 最高の一日 / 最好的一天
10. 少年漂流記 / 少年他的奇幻漂流
11. 終わりの始まり / 終於結束的起點
12. どこでもドア / 任意門
13. あっという間 / 轉眼
14. What's Your Story
15. Cコードは... / 你說那C和弦就是...
16. Song for you
17. Buzzin’
18. YOUR LEGEND 〜燃ゆる命〜
19. Do You Ever Shine?

<初回限定盤DVD収録内容>
1. Do You Ever Shine? [ Just Rock It @日本武道館 ]
2. Dancin’ Dancin’ [ Just Rock It @ 日本武道館 ]
3. OAOA [ Just Rock It @ 日本武道館 ]
4. YOUR LEGEND ~燃ゆる命~ [ Just Rock It @ 日本武道館 ]
5. Party Animal / 派對動物 [ Just Rock It @ 香港コロシアム ]
6. 頑固 [ Just Rock It @高雄スタジアム ]
7. YOUR LEGEND ~燃ゆる命~ [ Music Video ]
8. Dancin’ Dancin’ feat. TERU (GLAY) [ Music Video ]
9. あれから僕ら /後來的我們 [ Music Video ]
10. 頑固 [ Music Video ]

<CDショップ先着予約購入特典>
対象のCDショップにて予約・購入者に、先着でオリジナル特典をプレゼント
タワーレコード、アスマート:「オリジナルポスター」(B2サイズ)
TSUTAYA RECORDS、AMAZON、HMV:「オリジナルポストカード」(2枚セット)

※初回限定盤/通常盤共に対象。
※特典数量に限りあり。無くなり次第終了。
※2月3日、4日の日本武道館公演では武道館限定の先着購入特典あり。

■ライブ情報
『Mayday『Re:DNA ~2017 復刻版~』at 日本武道館』
日程:2月3日(金)、2月4日(土)
会場:日本武道館
開場・開演:18:00開場 19:00開演/16:00開場 17:00開演
チケット料金:指定席 ¥8,800(税込)
※3歳以上チケット必要/枚数制限6枚
チケット一般発売日:2016年12月17日(土)

Mayday Japanese Official Website
Mayday Japanese Twitter
Mayday『自伝 History of Tomorrow』スペシャルページ
ポルノグラフィティ Official Website

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