バンドマンによる“体調コントロール”の実態は? ベテラン勢がタフに活動する今、兵庫慎司が考える

バンドマンによる“体調コントロール”の実態は?

 少し前の話になるが、『ROCKIN’ON JAPAN』2016年12月号で、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトと真島昌利のインタビューをさせていただいた。

 このインタビューの最後で、僕は、ヒロト&マーシーに「おふたりももういい歳ですよね。おふたりより若いミュージシャンでも、走ったりジムに行ったりして身体の維持に務めている人、多いですが」みたいな話を振っている。

 「バンドマンは走る必要ねえよ。スポーツマンじゃないんだから。バンドマンはレコード聴いたり、おもしろい映画観たり、人のライヴ観たりしたほうがいいよ」というのがヒロトの答えだったので、「いや、でも、2時間なり2時間半なりのライブを全力でやるためには、そうやって体力をつけないと無理だって人、多いみたいですよ」と言ったところ、彼はこう答えた。

「1時間半にすればいいんだよ」

「30分ぐらいにすればいいんじゃないの? ビートルズ、30分だもんね。セックス・ピストルズとかも」

 これはマーシー。僕は自分が週3ペースで走っていることもあって、そして同世代の(つまり中年以上の歳の)ミュージシャンにとって体力及び体調の維持がとても大事であることを日々身近で思い知る機会が多いこともあって、基本的に走るミュージシャン肯定派なのだが、それでも思わず笑ってしまった。「ヒロト&マーシーらしいなあ」と。

 言われてみれば確かに、クロマニヨンズのライブの尺、短いし。アンコール合わせて23曲とかそれくらい、というのは決して少ない曲数ではないけど、1曲1曲がとても短いので毎回1時間半くらいになるし。

「ミック・ジャガーはあの歳であんなにムキムキですけど」と言葉を足したところ、ヒロトに「あれはミックのエゴなんですよ。で、今日兵庫くんは僕らにインタビューに来たんだから、僕らのエゴを浴びて帰ればいいんだ(笑)」ときれいに返された。で、さらにもう一発足そうかと思ったが、やめたことがある。それは、

「清志郎さんの自転車、体力のためっていうのもあったと思いません?」

 というひとことだった。告別式の時に弔事を読んでいたヒロトにそれを訊いたらどう返すか興味があったが、そこまで食い下がるこたあないか、と思ってひっこめたのだった。

 忌野清志郎が2000年頃から自転車にはまり、LSD(Long Slow Distance)というツーリングチームを作って乗りまくっていたのはご存知だろう。東京から鹿児島までロング・ツーリングに出かけたり、フジロックの苗場まで自転車で行ったりしていたのはよく知られている。僕も日比谷野音のステージに自転車で現れた瞬間を目撃したことがある。

 なぜ自転車に乗るようになったかは公式サイト「地味変」に記されているし、そこに「ライブ時に必要な体力を維持するため」なんて記述はないが、50歳にさしかかるあたりから乗り始めたことを鑑みるに、体力のことをまったく意識していなかったとは考えにくい。

 清志郎は30代の頃、体調がかんばしくなかった時期がある。もともと肝臓が丈夫でなかった上に長年の不摂生がたたって医者にもサジを投げられる状態にまで陥ったが、東洋医学の有名な先生にかかり、自分でも本を読むなどして勉強し、治療と生活改善に努めた結果、1年後にそのサジを投げた医者に診せに行ったら「治ってるよ! 奇跡だ」と驚かれたという(以上、連野城太郎著『GOTTA!忌野清志郎』/角川文庫より)。という人が、健康のことを意識しないとは、まあ、考えづらいでしょうと。

 ミュージシャンの平均年齢が上がっている。新しい若い世代も増えているが、それに伴って先人たちが退場していくかというとそうでもなくて、こんなにも40代50代のミュージシャンたちが第一線でがんばっている時代はかつてなかった、そう言っていい状況になっている。しかも、大御所とかならまだわかるが、日々日本中のライブハウスをワゴンで回っているようなバンドもそうだ。

 僕は2015年4月からフリーの音楽ライターになったのだが、2016年の3月に、自分がこの1年でインタビューをしてきたミュージシャンの平均年齢を出してみてびっくりした。その歳47歳になった自分よりも上だったのだ。僕がキャリアが長いせいで、つまり「昔から知ってるでしょ」というわけで、新人よりもベテランの取材の仕事が来ることが多い、というのもあるが、僕が新人の頃から仕事で接してきたミュージシャンたちの多くがまだフェイドアウトしていない、ということでもある。

 となると、健康面というのはどうしたって重要なファクターになってくる。クロマニヨンズみたいに昔からライブが短いバンドはいいが、「歳とって体力ないからライブの尺を縮めます」ではお客さんが収まらない。

 って、今さら気がついたが、クロマニヨンズはまた別枠ですね。ライブの尺が短いから大丈夫とかじゃなくて、そもそも50代半ばになっても20代の頃とまったく同じガリガリのパンク体型で、本当に実在の人間なのか? モンキー・パンチのマンガなんじゃないか? と言いたくなるヒロト&マーシーは、なんかもう年齢とか肉体とかを超越しちゃってる存在であるとも思うので。

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