バンドマンによる“体調コントロール”の実態は? ベテラン勢がタフに活動する今、兵庫慎司が考える

バンドマンによる“体調コントロール”の実態は?

 で。健康面が重要、というのは、今や40代50代だけの問題ではない。

 10年前20年前に比べると、ライブの数が増えている。昔はせいぜい年間50本くらいだったライブの本数、今は100本超えはもはや普通、中には150本とか180本とかやっているバンドもいる。となると当然、10年前や20年前の若いバンドよりも、肉体の負担も増えることになる。

 これ、3~4年前から気になっていたのだが、ライブ終了後の関係者あいさつで、楽屋をたずねた時、氷嚢で腕を冷やしながら客に応対しているミュージシャン、あきらかに増えた。昔はあれ、長年己の肉体に負担をかけてきたおっさんミュージシャン(しかもわりと激しめのプレイをする人)特有の肉体ケアだったが、今は30代前半、下手すると20代のバンドマンでもやっている。あれを見るたびに、こんな若いうちから大丈夫かなあ、10年後20年後もツアーやれてるかなあ、と、心配になったりもする。

 東洋医学とかヨガ方面とかでは、身体に左右均等でない負担をかけるとバランスが崩れて体調が悪化する、という説がある。右腕でばかりボールを投げる野球とか、右足でばかりボールを蹴るサッカーとかはよくない、陸上みたいに比較的左右の差が少ないスポーツの方が望ましい、子供の頃にそう習った記憶がある。

 それが本当だとするなら、ギターやベース、あんな重いものを(多くの場合)左肩にだけ負担がかかる形で、サウンドチェックも合わせると3時間とか弾く日が、1年のうち100日以上もあるわけですよね。

 いわんやネックを握りっぱなしの左手をや。弦を激しくストロークする右手をや。ヘッドをアタックした時の衝撃がそのまま腕にくるドラムも、言うまでもなく負担大きいし。と考えると、身体の左右のバランス以前に、そもそも肉体に負担がかかることを日々やっている、とも言える。

 ただし。さっき、今の若いバンドが心配になる、と書いたが、いや、そんなことない、今の若いバンドは上の世代よりもクレバーだ、という声もある。

 典型的な「その上の世代」で年間100本ペースのライブバンド、フラワーカンパニーズのボーカル、鈴木圭介と話した時、そのようなことを言っていた。曰く、時代の変化に振り回されて体調管理に躍起になっているのは、若い頃はライブは年に数十本だったが、今は100本とかやっている自分たちみたいな中年バンドであって、最初から「100本あたりまえ」でこの世界に入ってきている若いバンドマンたちは、長くやるために実にさまざまなことに気を配っている、と。

 自宅でもホテルの部屋でも加湿器を欠かさなかったり。打ち上げはツアーファイナル時しか参加しなかったり。ノドを守るために普段からワーワーしゃべることを避けるとか(彼曰く、飲み屋とかでワーワーしゃべると直でノドに影響が出るそうです)。

 何よりも違うのは、体調を損ねてからケアをするようになる上の世代と違って、若い世代は今んとこどこも悪くなくてもそう務めている、つまり「将来的に損ねないように」ケアを始めている人も多いそうだ。さっき僕が例に出した「20代の頃から氷嚢で腕を冷やしているミュージシャン」も、今腕が痛いからそうしているのではなく、将来痛くならないように、予防としてそれを行っている人もいるわけだ。

 しかし、なんかもうアスリートのようだなあとも思うが、まさに、現実にアスリート要素が強い職業になりつつあるのだろう、ミュージシャンが。で、新しい世代は、ちゃんとそれに対応しているということだ。

 ただし。上の世代でも、例外はあるという。

 前述の鈴木圭介、バカでかくバカ高い声を張り上げまくる絶唱タイプのボーカリストであるが、ファンもみんなそのことを重々知っているくらい、ノドが弱い。身体も弱くて風邪ばかりひいている。なので人一倍、いや人10倍くらいケアに気をつけているのだが、それでもやっぱり風邪で声が出なくなったりする(幸い、というかめずらしく、2016年はそれがなかったが)。

 そんな彼に言わせると、「強い人しか生き残ってない」という側面もあるそうだ。

「(奥田)民生さんも斉藤(和義)くんも、酒すげえ飲むじゃん。次の日ライブでも平気で飲んでるし、タバコもやめないし、どう見ても普段ノドのケアなんかしてない。でもあのでっかい声が出る。声域も広いまんまで、弱らない。倉持さん(YO-KING)もそうだよね。だからさ、そういうふうにノドが強い人が生き残ってるってことなんだよ。その中に混じって、俺みたいにノド弱いのになんか残っちゃった奴は、苦労することになるんだよね」

 そういえば奥田民生と斉藤和義とYO-KING、もうひとつ共通点がある。ワンウェイでない活動をしている、複数の方法を同時進行でライブ活動や制作活動をやっている、ということだ。

 奥田民生はソロとユニコーンとサンフジンズ。斉藤和義はソロとMANNISH BOYS。YO-KINGは最近はソロあんまりやってないが、ちょっと前までは真心ブラザーズと並行で活動していた。で、ソロのリリースとツアーが終わったら次はMANNISH BOYSとか、ソロのツアーが終わった瞬間にユニコーンでレコーディングに突入とか、しかもユニコーンのツアーの合間にサンフジンズもやるとか、そういう動き方をしている。

 そういうふうにしている理由はそれぞれ違うのだろうが、「アルバム・リリースは2年か3年にいっぺん、それで長いツアー1本やってフェスとかに出て一区切り」というだけでは全然動き足りない、だから複数いっぺんにやっている、というふうにも見えなくもない。

 あんまり望ましくない結論になってしまった。ヒロト&マーシー、奥田民生、斉藤和義。加齢とか体力とか関係ない規格外の存在が結局いちばん強い、という。

 でも、もういかんともしがたいので、そのままつっ走っていただければと思います。こっちも身体が動く限りはついていくので。

 かく言う自分だって、オールスタンディングのライブを週に何本も観たり、下北沢や渋谷の小さなライブハウスに頻繁に足を運んだりするような生活を、50近くになっても続けているとは思わなかったし。
 
■兵庫慎司(ひょうご・しんじ)
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

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