RADWIMPSの楽曲はどう“開花”したのかーー『SONGS』出演を機に柴那典が考察

RADWIMPSの楽曲はどう“開花”した?

 RADWIMPSが今年の『第67回紅白歌合戦』(NHK総合)への初出場を発表し、本日11月24日午後10時50分より放送の『SONGS』(NHK総合)に初出演を果たす。ここまで露出をしてこなかった彼らに何が起きたのか? 今までのRADWIMPSの活動を知るリスナーであれば、誰もが抱く疑問だろう。

 昨年末には、正直、2016年にRADWIMPSがここまで「時代のもの」になるなんて全く予期していなかった。8月に映画『君の名は。』を最初に試写で観たときにも「これは音楽と映画の新しい蜜月だ」と興奮して当サイトに原稿を書いたのだけれど(参考:RADWIMPSが『君の名は。』で発揮した、映画と音楽の領域を越えた作家性)、それでも、ここまでの現象を巻き起こすとは思っていなかった。映画の記録的な成功は、それまでのファンを軽く超えたスケールの認知度の空間に彼らを連れていった。

 先日、小学生の集団が「♪君の前前前世から僕は~」と「前前前世」のサビのフレーズを楽しそうに歌いながら走っていくのを見かけたとき、ようやく腑に落ちた。RADWIMPSというバンドは、世の中に対して「開いた」存在になることを選んだのだと思う。

 メジャーデビューから10年、バンドは、ファンとの深く強い結びつきをとても大事にしてきた。シングル曲にドラマやCMのタイアップがつくことはほとんどなく、地上波テレビへの出演も行ってこなかった。だからこそ聴き手と「一対一」で結びつきあう関係を築いてきたわけなのだが、それも、去年までのことだった。今の彼らは、自分たちとファンとの外側に波紋のように曲が広がっていくことを、むしろ肯定的に捉えている。そういうスタンスの変化がある。

 野田洋次郎は、バンドを次に進めるために、新しい場所に踏み出すことを選んでいた。その決断が、ニューアルバムの最初の布石になっている。山口智史が無期限休養に入るというキャリア最大の危機にバンドが歩みを止めなかった理由もそこにあるのだろう。昨年10月には初の対バンツアーを開催。12月に幕張メッセで開催されたワンマンライブのタイトルは「10th ANNIVERSARY LIVE TOUR FINAL RADWIMPSのはじまりはじまり」だった。

 今思うと、その時すでに彼らは『君の名は。』の音楽の制作を進めていたはずだ。だからこそ、10周年を記念するライブに冠した言葉は「はじまりはじまり」だった。それは今思えば、次の場所に向かい、臆することなく「開いた」存在へと足を踏み出す宣言だった。シングル曲「‘I’ Novel」が「東京メトロ」CMソングとして書き下ろされたことも、『君の名は。』の公開直前に『Mステ』に初出演したことも、すべて一つの統一した意志に基づく選択だったはずだ。

 そして11月23日。11年目のデビュー記念日に届いたニューアルバムのタイトルが『人間開花』だった。英語で言い表すなら「human bloom」。この言葉が、いわばバンドが歩んできた前作『×と○と罪と』からの約3年間の全ての「解」となっている。

 『人間開花』は、バンドが新しい扉を開けたと痛感するアルバムだ。まるで脱皮したてのような解放感と自由とフレッシュさを感じさせる一枚になっている。

人間開花 ダイジェスト

 まずオープニングの「Lights go out」から「光」の流れが素晴らしい。「Lights go out」は、アコースティックギターとシンプルなビートから始まる一曲。そこにピアノや手拍子やギターリフがどんどんと重なり、スリリングなアンサンブルや加工された声が風景を切り拓いていく。これまでもメンバー4人はギター、ベース、ドラムというパートを超えた役割をサウンドの中で果たしていたが、山口智史が制作の現場から居なくなったこと、劇伴の経験を得たこともあり、より作曲がソフトウェアの編集作業に近いものになっていったことを伺わせる。

 そして、そこから間を開けずに飛び込むのが2曲目の「光」だ。

RADWIMPS「光」

 イントロから全開のドラムとギターリフが鳴り響く。8ビートの高揚感とみずみずしい喜びが全開になったような曲調の中で<私たちは光った 意味なんてなくなって>と歌う。直球のロックアンセムである。力強いバンドサウンドが印象的なのだけれど、実はサビのところで鳴っているグロッケンシュピールの音色が大事な役割を果たしている。

 続く「AADAAKOODAA」はトラップやベース・ミュージックのつんのめるようなビートを形にした攻撃的なヒップホップ・ナンバー。『絶体絶命』収録の「G行為」などヒップホップの要素を持つ曲は過去にもあるが、そのフォーミュラも今に更新している。野田洋次郎は先日2ndアルバム『P.Y.L』をリリースしたソロプロジェクト・illionのインタビューにて、「Max/MSP」というソフトウェアを手にしたことで音楽制作の手法が革新的にアップデートされたということを語っていた。よくあるシーケンスソフトやDAWソフトとは全く違い、プログラミング言語的な方法論で音を組み立てていくのが「Max/MSP」というソフトウェアだ。詳しい仕組みや使い方は筆者もよくわからないのだが、電子音の響きそのものをゼロから作っていくことができるのがこのソフトの特徴。実際にRADWIMPSでもこれを使っているかどうかは定かでないが、野田洋次郎のトラックメイキングの発想が大きく変わったのは事実だろう。

 こうしてアルバムの序盤には「ソフトウェアによる編集作業で加工されたトラック」と「直球のバンドサウンド」がかわるがわる配置されているのだが、続く4曲目「トアルハルノヒ」は再びバンドサウンド。しかも歌詞のテーマもロックバンドについてである。武田祐介のどっしりしたベース、桑原彰らしい高音域のギターリフと共に<ロックバンドなんてもんを やってきてよかった>なんて言葉を歌う。

 ここまでの4曲があって「前前前世 [original ver.]」「‘I’ Novel」が続くのが、アルバム前半の流れだ。

RADWIMPS「前前前世(movie ver.)」

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