>  >  > ラブリーサマーちゃん、『LSC』分析

ラブリーサマーちゃんは、3年でどうメジャーデビューの扉開いた? 1stアルバムの音楽性を分析

関連タグ
JPOP
ROCK
シンガー
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 2013年に現在の名義で活動をはじめ、ネットを中心にバズを巻き起こしてきた21歳の宅録女子、ラブリーサマーちゃんのメジャー第一弾作品となるデビューアルバムが完成した。『LSC(=Lovely Song Collection)』と名付けられた本作は、選曲としてもこれまでのラブリーサマーちゃんのベスト・オブ・ベスト。ここではその魅力を紐解いてみたい。

 まず本作の大きなポイントは、初期音源から現在までの楽曲を集めたことで、彼女自身の音楽的進化のドキュメントになっていることだろう。「あなたは煙草 私はシャボン」や「魚の目シンパシー」がSoundcloudにアップされた13年当時の音楽性は、相対性理論からの影響をかすかに感じさせる歌や演奏の粗さを越えて胸の奥をぐっと掴む作曲能力に非凡なものを感じさせつつも、基本的にはまだ宅録系の弾き語りシンガーソングライター然としたものだった。しかし、その音楽性は楽曲ごとに大きく変化。「PART-TIME ROBOT」では90年代USインディ直系のギターポップ/パワーポップを鳴らし、「ベッドルームの夢」や「青い瞬きの途中で」では00年代後半以降の英米インディロック勢との共振を感じるドリーミーなギターノイズに接近。また、「私の好きなもの」では四つ打ちのエレクトロポップに変貌し、「202 feat. 泉まくら」ではアーバンなソウルミュージックまで手に入れている。だからこそ、本編ラストに収録された自身のルーツのひとつ=the brilliant greenを髣髴させる90年代UKロックマナーの「僕らなら」も、静謐でシンガーソングライター然とした「月の光り方」も「天国はまだ遠い」も、初期の楽曲とは大きく印象が変わっている。その多岐にわたる音楽性を結集したのが、今回の『LSC』である。

 そして、彼女の音楽性が広がっていった経緯には、活動を通して知り合った多くのアーティストの存在があったのだろう。筆者が最初にラブリーサマーちゃんを知ったのは13年のことだったが、その当時、彼女と音楽シーンのアーティストとの繋がりは、そう多くは見えてこなかった。けれどもその後、tofubeatsのTwitterでの募集をきっかけに、「ディスコの神様 feat. 藤井隆」にShiggy Jr.の池田智子と共にコーラスで参加すると、以降は彼と親交の深い〈Maltine Records〉のイベント『東京』に参加したり、『Redbull Music Academy Tokyo 2014』の企画『Lost In Karaoke』でMikeneko Homelessのライブに飛び入りしたりと、日本のネットレーベル周辺との交流を一気に深めていった。その雰囲気は芳川よしのとのエレクトロポップ作品『よしよし、サマー!』にも顕著。今回収録されることになった「水星 feat. オノマトペ大臣」のカバーには、こうした交流のきっかけを作ったtofubeatsへの感謝も含まれているのだろう。一方で、根っからの90年代インディ/USオルタナ好きでもある彼女は、海外インディとの親和性も高いロックバンドFor Tracy Hydeにボーカリストとして参加し、バンド方面でも交流を拡大。インディーズラスト作となった7インチ盤『202 feat. 泉まくら』には、Lucky Tapesの高橋海もリミキサーとして参加していた。その表題曲では泉まくらをフィーチャーし、「私の好きなもの」のMVに参加していたchelmicoに続いてポップミュージックとフィメールラップとを繋ぐようなアーティストとの交流を拡大。映画方面では、気鋭の映像クリエイター、スズキケンタの監督作品『TOKYO INTERNET LOVE』に主題歌「わたしのうた」と劇伴を提供している。

 そして、こうした幅広い音楽性や多彩な交流には、ラブリーサマーちゃんの音楽そのものの魅力が反映されているように思える。宅録シンガーソングライターと言えば自分の世界観に入り込むような作風が多い中、宅録出身でありながらバンドの質感も加えようと腐心する様子や、ふらふらと音楽的興味が移り変わるような雑多なバラエティ感から感じられるのは、ひとりの自宅の風景だけではなく、むしろ彼女とその周りの人々との関係の中で生まれる様々な日常のようなものだ。それが作品を何度も聴きかえしたくなる中毒性の高いポップセンスや、日常のちょっとした一コマから豊かなストーリーが立ち上がる歌詞の魅力にも繋がっているのではないだろうか。

 『Quick Japan Vol.128』に掲載されたロングインタビューによると、ラブリーサマーちゃんは活動初期、家に自分だけのネット環境がなかったため、MTRで録音した音源データをネットカフェからSoundcloudにアップロードしていたという。しかし、おおよそインターネット世代とは思えないアナログな方法で世の中に公開された楽曲が生み出したサクセスストーリーは、たった3年でメジャーデビューの扉を開いた。このアルバムを聴いて残り香のように浮かび上がるのは、キラキラ輝く日々も倦怠も、悩みも楽しさも全部ひっくるめて「これが私」と言わんばかりの等身大の青春だ。そこにはインターネットと宅録を彼女にとっての「どこでもドア」のようにして活動を広げ、試行錯誤を重ねてきたここ数年の胸の高鳴りが宿っている。つまり、ラブリーサマーちゃんの名前をもじって付けられた「LSC(=Lovely Song Collection)」とは、ネットを起点に様々な人々と出会い、音楽性を進化させた約3年間の悲喜こもごもを詰め込んだ「ラブリー(L)な日々の、ラブリーなだけではないソング(S)・コレクション(C)」なのであり、だからこそ一周回って、現在のポップシーンにおいても抗いようもなく「ラブリー」な魅力を放っているのではないだろうか。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

■リリース情報
『LSC』
発売:2016年11月2日
初回限定盤(2CD) ¥2,315(税抜)
通常盤 ¥2,130(税抜)

■オフィシャルサイト
http://lovelysummerchan.com/

表示切替:スマートフォン版 | パソコン版