フランク・オーシャン、カイゴ、サニーデイ・サービス…2016年夏の記憶に刻まれる5枚

 今回のキュレーション記事は“夏の私的愛聴盤”みたいな感じでセレクトしようと思っていたのだが、リリースされたばっかりのフランク・オーシャンの最新作『blonde』がすさまじい内容で、まずはそのことから語らざるを得ない。

 米国時間8月18日の夜にビジュアル・アルバム『Endless』が突如リリース、さらに8月20日(米国時間)にこの『blonde』がApple Musicでサプライズリリースされて、世界中で大騒ぎになっている。2012年の前作『Channel Orange』が大絶賛を集めてグラミー賞も獲得して、インディR&Bの新たな地平を切り拓いてから4年。『BOYS DON’T CRY』という仮タイトルが告げられてから延期につぐ延期が繰り返されてきた新作が突如リリース。これが、いろいろぶっ飛ぶほどのクオリティになっている。おそらく全米、全英1位を獲得するだろうし、昨年のケンドリック・ラマーに匹敵するようなインパクトを世界の音楽シーンに与える一枚となっている。

 聴いた印象として、まず深く感じ入るのはサウンドの深い美しさと、彼自身の歌が持つ崇高な響きだ。ドラッギーだけど、とても感傷的。

Franc Ocean「Nikes」

 トピックとしては豪華なゲスト陣もあげられるだろう。「PINK + WHITE」にはファレル・ウィリアムスがプロデュースに、ビヨンセがコーラスに参加。「Skyline To」ではケンドリック・ラマーが、「SOLO(reprise)」ではアウトキャストのアンドレ・3000が参加している。さらに「White Ferrari」では、ボン・イヴェールとジェイムス・ブレイクをフィーチャリングしている。つまり、アメリカのメインストリームのヒップホップとR&B、エレクトロニック・ミュージックとフォークとソウルとゴスペルと、いろんな流れが折衷的に流れ込んでいるのが、今回のフランク・オーシャンの新作と言える。

 ジェイムス・ブレイクが5月にリリースした『The Colour In Anything』にもフランク・オーシャンとボン・イヴェールは参加していたし、おそらくボン・イヴェールが9月にリリースする5年ぶりの新作『22、ア・ミリオン』にも、ここ最近の3人の交流は大きく影響しているだろう。ビヨンセ『レモネード』も含めて、2016年にリリースされた重要作は点と点で絡み合っている。

 アルバムのクライマックスは、「White Ferrari」から「Seigfried」「Godspeed」という後半の3曲。歌詞を深く読み込むことまではできていないんだけれど、おそらくアルバムのテーマはゲイであることをカミングアウトしている彼の少年時代の追憶なのだろう。喪失と感傷が入り混じるようなトーンに包まれている。「Seigfried」ではエリオット・スミスの書いた詩も引用される。

 ちなみにリードトラックの「Nikes」には、KOHHがフィーチャリングしたバージョンもあり、ポップアップショップで「BOYS DON’T CRY」Zineと共に限定配布されたCDにその楽曲が収録されている。Zineにはアルバムのコントリビューターの名前が並ぶのだが、そこにビヨンセやケンドリック・ラマーの名前と当たり前にKOHHが並んでいて、そのことにもなんだか誇らしい気持ちになる。

 とにもかくにも、今年の音楽シーンの最重要作になるのは間違いないはず。ほかの人がこのアルバムをどう聴いたか、それも知りたいな。

 リオ五輪の閉会式でもパフォーマンスし、いよいよ世界的なブレイクのさなかにあるノルウェー出身の24歳DJ、カイゴ。デビューアルバム『クラウド・ナイン』のリリースは今年の5月だったけれど、今年の夏、愛聴してたのはこのアルバムだった。トム・オデールやコーダラインやジョン・レジェンドなど数々のボーカリストをフィーチャーした良質なダンス・ポップ・アルバムだった。

Kygo「Raging ft. Kodaline」

 ただ、メディアでは彼のことを「トロピカル・ハウスの火付け役」と紹介する記事ばかり目に止まるのだが、個人的には全然違う捉え方をしている。「EDMの次はトロピカル・ハウスがキテる!」とか「癒やし系EDM」とか、そんなキャッチコピーばかりが氾濫する状況に「そうなの?」って思ってるのが正直なところ。そりゃあ『ULTRA JAPAN』でも来日するし、そもそも<ULTRA RECORDS>の所属でもあるし、EDMシーンのブームの移り変わりの中でその音楽性が語られるのはある意味正しいことなのだが、実は彼の来歴を考えるとそれはミスリードなのではないかとすら思う。

 というのも、彼はノルウェーのベルゲン出身のDJ/プロデューサーだから。ベルゲンには一度旅行で訪れたことがあるのだが、人口30万人ほどの小さな都市ながら、音楽とアートが盛んで、インディ・ポップやエレクトロ・ポップのシーンがしっかりと根付いていた。ロイクソップの二人もベルゲン出身で、現在もベルゲンを拠点に活動している。というわけで、実はカイゴは「トロピカル・ハウスの担い手」というよりも「ロイクソップの正統後継者」と位置づけたほうが正確なんじゃないかと思う。以前にロイクソップの2人にインタビューした時にも「小さい街だからミュージシャンのコミュニティがあって全員がつながっている」と言っていたし。そういう風に考えると、カラフルでファンタジックなサウンドも、センチメンタルな歌も、とても納得いく。

Kygo「Firestone ft. Conrad Sewell」
Röyksopp「Poor Leno」

 というか、彼のサウンド、聴けば聴くほど「トロピカル(=南国)」というよりも「北欧」のイメージが強いんだけど。どうなんだろう。

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