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ソロ3rdアルバム『できれば愛を』インタビュー

坂本慎太郎がたどり着いた“答え”「僕が作りたいような音楽を自分で作るのは不可能」

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シンガーソングライター
小野島大
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 坂本慎太郎が、ソロ3rdアルバム『できれば愛を』を7月27日にリリースする。前作のソロ2ndアルバム『ナマで踊ろう』は、「人類滅亡後に流れている常磐ハワイアンセンターのハコバンの音楽」というテーマを担っていたが、今作は「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」を目指し、自分の“声”と向き合った、ポップでシニカルなダンスレコードに仕上がっている。今回のインタビューは、前回【坂本慎太郎はなぜ“人類滅亡後の音楽”を構想したか「全体主義的なものに対する抵抗がある」】に引き続き、聞き手に音楽評論家の小野島大氏を迎え、前作以降に起こった変化や今作の制作プロセス、さらには坂本自身のポップス・ロック論まで語ってもらった。(編集部)

「鋭い音を一切排除して、中域の密度を重視した」

ーー今回も大変面白いアルバムでした。

坂本慎太郎(以下、坂本):あ、ほんとですか。ああ……(反応が薄い)。

ーーははは……前作から2年。順調なペースのリリースと言えると思います。今作の構想は、いつどんな形で始まったんでしょうか。

坂本:前のを出して落ち着いてからなんとなく……2年ぐらい前からですね。最初は……「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」を作ろうと思って。友だちに言ったら「気持ち悪い」って(笑)。50歳前のオヤジが夏休みとかキモチ悪い、と。

ーーワクワクするような楽しいアルバムを作りたいと。前作は「終わり」を意識したような終末論的な重いアルバムだったので、次は違うものにしようと思ったということですか。

坂本:ああ、前回は自分でもシリアスで、ちょっと恐ろしいアルバムを作っちゃったというのがあって。周りの友だち数人にも「怖い」と言われて(苦笑)。次はもっとハッピーなアルバムを作ろうと思ったんですけど、それはけっこう早めに挫折しました。楽しげな感じにしようと思ったら、やればやるほど重くなって、結果的に前回のよりも重いんじゃないかってものができて、そこは自分でもびっくりしてますね。

ーー明るいポップなものを作ろうとして挫折したというのは、曲がうまく書けなかったということですか。

坂本:いや、曲は意外とうまくできたなと思ったんです。歌詞も録音もうまく行ったんですけど、全部ちゃんとやったらすごく楽しげになるかと思ってたら、できあがったものを聴いたらものすごく重かったという(笑)。

ーー作ってる段階では明るく楽しいものだったけど……。

坂本:いや、途中からちょっと様子がおかしいなと思ったんですけど(爆笑)。前よりシリアスな感じになっちゃった。

ーーなぜそうなったんですか。

坂本:わかんないです。こっちが訊きたい(笑)。結局ヴォーカルで決まっちゃうから、どんなに明るいポップな曲を作っても、僕が歌うと思ってるようなものにはならないと早い段階で気づいて、諦めたんですけど(笑)。そうしたらやっぱり重くなった。結局声に全部の情報が集約されるから。今さら何も考えてないような素っ頓狂な声とか、どうやっても歌えない、ということですね。60年代のガレージ・パンクとかすごい好きなんですけど、あれって子供が歌ってるからああいう感じになるんであって、サウンドや歌い方を真似ても、オッサンが歌うと、あのきらめきみたいなものは絶対出ないと思うんですよ。

ーーそういうガレージ・パンクのきらめきみたいなものがやりたかったんですか。

坂本:というかフレッシュで飛び出してくるみたいな印象のものをやりたかったんです。歌詞とか歌の内容じゃなく、演奏と音の質感みたいなのが飛び出してくるみたいなのにしたかったんですけどね(苦笑)。

ーー今までご自分のヴォーカルってどう捉えてたんですか。

坂本:まあ今までも同じように捉えてましたけど、そこまで深く考えてなかったというのもあるし、やっぱ超えられない壁っていうのを感じましたねえ。

ーー(笑)超えられない壁、ですか。今回もバンド・レコーディングで、メンバーも前作同様、菅沼雄太(ds)、AYA(b)とのトリオ編成が基本。作り方としては前作の延長線上にあるということでしょうか。

坂本:そうですね。家で簡単なデモテープを作ってメンバーに渡して、そこから半年ぐらい練習したんですけど。その間に歌詞を作ったりして固めていって。

ーー今回サウンド面での狙いはどういうものだったんですか。

坂本:今回は音数が少なくて、でも一個一個の音はすごく太くて。鋭い音を一切排除して、中域の密度を重視して。石とか木とか動物の皮みたいなものだけでできている、木彫りの置物みたいな、そういう感じのものが飛び出してくる。そういうイメージだったですね。

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ーー今回の資料には<「顕微鏡でのぞいたLOVE」という分かりにくいテーマのもとに制作された>とあります。

坂本:ああ……(深いため息)

ーー(笑)説明が面倒臭そうですね。

坂本:かなりややこしい話になっちゃうんですけど……朝起きて、「ああ今日から夏休みだ」と思って。「まだ寝てていいんだ」って思う。その思った瞬間を引き延ばしたような音楽があったらいいんじゃないのかなと。夏の想い出とか青春とか、そう言うのじゃなくて、今日から夏休みだって思った、そこだけを取り出したような。

ーー解放された喜び、楽しい気持ちだけが永遠に繰り返されるような。

坂本:あとはほら、ケガするじゃないですか。ケガしてずっと痛いんだけど、ある時ふと気づいたら、「あ、痛くなくなってる」みたいな。その気づいた瞬間、「あっ」と思った時間を引き延ばしたような音楽があれば。

ーーワクワクするような感じとか、ほっと安堵したような感じ。

坂本:うん、それと似たような感じになるんじゃないかと思って。でもそこに前後のストーリーとか感情の流れとかなくて。その瞬間の感覚だけを抽出する。実際レコードでもそういう感じがする曲ってあるんですよね。

ーーたとえば?

坂本:あまり言わないですけど……ガレージ・パンクの曲とかでもあるんですよ。

ーー坂本さんがそういう気持ちになる曲。

坂本:そう。だからそういう曲を自分でもやりたいなって思ったんですね。ケガしたところが痛くないっていうのは、自分が寝てる間に免疫細胞みたいなものがキズを治してるわけじゃないですか。そういうのをあえて「LOVE」と言いたい、みたいな。

ーー「FUN」じゃなくて「LOVE」なんですね。

坂本:そうですね。なんかこう……恋愛とかLOVE&PEACEとかスピリチュアルな感じとか人類愛とか、そういうでかい感じの愛じゃなくて、ミクロの方向。自分の悪いところを免疫細胞が治してたとか、汚染された土地をバクテリアが浄化してたみたいな。そういうイメージの「LOVE」なんですけど。

ーーそれをどうやって曲に置き換えていったんですか。

坂本:(苦笑)それが説明できなくて。こういう感じになっちゃうんですよね。飲み屋で言ってもあんまり賛同を得られないっていうか(笑)。

ーーわかるわかるって言ってもらえない感じ。

坂本:そうですね。自分でもよくわかんないんでね、なんとなくイメージはあるんですけどねえ……それがこういうサウンドになるんですよ。中域に密集してて、出たり入ったりしてるみたいなイメージ。生きものが動いてるみたいな。

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