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乃木坂46はなぜ新曲「今、話したい誰かがいる」に紅白出場の夢を託したか?

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 乃木坂46の13thシングル「今、話したい誰かがいる」がリリースされた。同作は乃木坂46がNHK紅白歌合戦直前にリリースするシングルであり、昨年惜しくも出場を逃したグループにとって文字通り勝負作となる。今回のシングル発売にあたり、どちらかといえば堅実なイメージのある運営サイドが大胆に手を入れてきた点に注目しながら、作品について紹介したい。

大胆な刷新にみる、勝負の姿勢

 『真夏の全国ツアー2015』の神宮公演最終日にお披露目となった今回の表題曲が「今、話したい誰かがいる」。グループ初のダブルセンターを白石麻衣(自身2度目のセンター)と西野七瀬(自身4度目のセンター)が務め、3rdでの初選抜以降着々と人気を高めてきた深川麻衣と、長いアンダーの期間を経て、この1年ほどで一気にその地位を確固たるものにした衛藤美彩が初のフロントに立つ。選抜の人数が11th, 12thと18名だったものを16名に戻し、握手の人気と勢いにより忠実かつシビアに選ばれたのが今回の選抜メンバーだ。星野みなみと齋藤飛鳥は乃木坂の未来としてかかる期待に、人気が追いつき福神の座を射止めた。一方で前作自身6度目のセンターを務め世間的な知名度は抜群の生駒里奈は3列目になり、センター経験のある堀未央奈や前作で初の選抜を経験した新内眞衣といった2期生は今回1人として選抜メンバーに入らないなど、かなり人数を絞りながら、一切の妥協がない布陣に仕上げてきたという印象だ。

 また、今回のシングルは大ヒットを記録している映画『心が叫びたがっているんだ。』(通称:ここさけ)の主題歌、そしてJR内で販売される飲料水「From AQUA」という二つの大きなタイアップが付いている。前評判通りの大ヒットを記録している「ここさけ」だが、映画本編ではエンディングのここぞというタイミングで「今、話したい誰かがいる」が流れ、観客の心を最後まで掴んで離さない。その世界観にマッチしたMVや歌詞の世界は多くの「ここさけ」新規を生み出すことが期待できそうだが、それができるのも乃木坂46という器が「ここさけ」に嵌ったからだろう。また、「From AQUA」はJR東日本駅内で発売されている飲料水で、乃木坂46は1stアルバムから11th, 12thシングルと乃木坂駅のある東京メトロとコラボレーションが続いており、テレビやインターネットと比べても不特定多数に届きやすい交通広告の看板を背負い、より広い層へのアプローチを狙っているといえる。

なぜこの曲で紅白へ挑むのか?

 ちょうど一年前にリリースされた10thシングル「何度目の青空か?」は、様々な使命を背負い産み落とされた、秋元康氏渾身の一曲だった(参考:「乃木坂46の勝負作『何度目の青空か?』が担う使命ーーグループの目指す今後の姿とは?」http://realsound.jp/2014/10/post-1483.html)。

 それでは「今、話したい誰かがいる」はなぜ、今年の“紅白挑戦曲”になったのだろうか。

 13thシングル「今、話したい誰かがいる」の作曲・編曲を手がけたのは、同作を含めると12曲もの楽曲を手がけ、今や乃木坂46には欠かせない存在となったAkira Sunset氏と、初参加となるAPAZZI氏。Akira Sunset氏は8thシングル表題曲「気づいたら片想い」で作曲を手掛けて以来の表題曲となった。

 同曲は、乃木坂46の楽曲に多くみられる鍵盤をフィーチャーしたもので、イントロこそ静かで美しいピアノのサウンドが際立つが、間奏での跳ねる音色も心地よい。だが、サビのメインはむしろ優しいアコースティックギターの響きだ。ストリングスも「気づいたら片想い」ほどの存在感はないし、ドラムスはとてもシンプルで5thシングル「君の名は希望」と比べると控えめの印象。乃木坂46の楽曲は、AKB48の楽曲と比べて豪華と評されることがあるが、今回の「今、話したい誰かがいる」は他の表題曲と比べてみても、派手さが抑えられシンプルな味付けになっている。ただ、だからといってこの曲が今までの楽曲に比べて劣っているわけではなく、グループの動きをみていると、「歌」に重きを置いているからこそ、ここまで削ぎ落されたものになったのではないかと推察する。

 映画『心が叫びたがってるんだ。』は、過去のトラウマからしゃべることが出来なくなった高校生の主人公が、クラスでのミュージカルをきっかけに「歌」を通して人々と心を通わせていくというストーリーを持つ。そして乃木坂46もまた、この夏のツアーを通して「歌うこと」に改めて取り組んだ。毎公演の終盤では、生田絵梨花のピアノとオーケストラによるアレンジで、「何度目の青空か?」「君の名は希望」「悲しみの忘れ方」の3曲を堂々と歌い上げた。個性派アイドルが多数ひしめく昨今のアイドル界隈で、紅白出場を目指し奇をてらったプロモーションや楽曲に力を入れる場合は多い。そんななか、乃木坂46はアイドルの基本である「歌」に立ち返り、「歌」の力をもって紅白歌合戦の出場に挑むことを選んだのだ。

 また、乃木坂46の表題曲で歌われる詞の世界観というのは、必ずしもグループのイメージに近いものばかりとは限らない。例えば、「気づいたら片想い」リリース時にメンバーがしきりに「乃木坂46を知らない女性にも共感しやすい内容」と紹介しており、この曲が乃木坂の外に向けたものだということがわかる。また、「バレッタ」の曲の世界観は当時突如センターに抜擢された堀未央奈の謎めいた雰囲気を際立たせるものであり、妖艶な詞を清楚な乃木坂46が歌うギャップに狙いがあった。

 そんななか、彼女たちが曲の世界観に共感できるとよく言及している曲が「君の名は希望」である。この曲でセンターを務める生駒里奈は「まさに自分のことを歌っていると思った」と言うくらいで、孤独だった地元での生活から抜け出し、新たな希望を求めグループに入った若月佑美も好きな詞にこの曲を挙げている。そして、今シングルの「今、話したい誰かがいる」は、「君の名は希望」と同じく、孤独な主人公を出発点とするストーリーだ。孤独を良しとしていた「僕」が「君」と出会い、居心地の良さを感じ、恋しく思い、新たな幸せと出会う。「今、話したい誰かがいる」では、より「僕」と「君」の2人の関係に焦点を当てているが、詞に込められた思いは「君の名は希望」で綴られている「孤独より居心地がいい 愛のそばでしあわせを感じた」ということに共通している。

 昨年の紅白出場を逃したことで、乃木坂46は一人一人がグループについて深く考えるようになり、ツアーでは「乃木坂らしさとはなにか」という大きな命題に挑み、その中で一人一人の成長があった。そして、この1年の集大成として再び臨む紅白へ向け、乃木坂46は自分たちのありのままを詞に乗せ、歌によって届けることを選んだ。曲としては今までにないアプローチでありながら、やはりこの曲に乃木坂らしさを感じるのは歌の力強さと詞の世界観にあったのだろう。

     
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