新作『CUTE』インタビュー
テイ・トウワが語る、トレンドを超えた音楽の作り方「アンテナが錆びてても必要な電波は入ってくる」
「自分の一番のメリットは、ミュージシャンとしてひどいところ」
――でもトレンディなものに関心ないといっても、ちゃんと新鮮な今の音になってますよね。
テイ:うん…まあなんだかんだいろんなものは聴いてますけどね。ただまあ、アンテナを巡らせて貪欲に取り込んでいくよりも、錆び付いたアンテナでも入ってくるものだけに関心もてばいいかなって思うようになりました。
――そこでは<テイ・トウワらしさ>が求められますね。自分らしさってなんだと思います?
テイ:うーん…まあミュージシャンじゃないところじゃないですかねえ。
――楽器がうまいとか歌がうまいとか理論に詳しいとか、そういうところで勝負してないってことですか。
テイ:うん、たぶん。音楽のスキルとかセオリーで言ったら、僕は何も知らないですよ。楽譜もコード譜も読めないし。そこらの音大生のほうがよっぽどよく知っている。でも彼らがみんな僕より音楽で稼いでいるかっていったら、そうじゃないでしょう。
――それを言ったら身も蓋もないですよ(笑)。
テイ:それに…僕はどの曲もミックスまで含めて、僕なりのバランスで具体的に考えることができる。実際に手を動かさなくてもね。自分のイメージの音が頭の中で鳴っている。常に抽象的な色とか重さとか匂いとか意識して作ってるんですよ。そういうことを歌詞にしたのが「SOUND OF MUSIC」なんですけどね。もっと濡らしたいとかもっと広げたいとか、考えて作ってる。よく僕の曲から「絵が浮かぶ」とは言われますけど、それが何の絵であるかはどうでもいい。赤い鳥のイメージだったとしても、それを伝えたいわけじゃない。ただそれぞれの曲ごとに自分なりのヴィジョンがあればいい。だから…ジャケなんかも、好きな音楽の話とか好きな絵の話とか五木田君(本作のアートワークを描き下ろした)として。『LUCKY』 の次だから「CUTE」ってタイトルにしたんだよ、とかそういう話をする。僕の曲は「CUTE」って感想を言われることが圧倒的に多いんですよ。そういう理由もあるんですけど。YMOの『BGM』は最初『CUTE』ってタイトルだったらしい、『BGM』じゃなくて『浮気なぼくら』だったかな、とかね。そういう話を彼として、じゃあ今なりの『CUTE』をやろうと。それでできあがったのがこのジャケの絵ですね。
――音楽理論ではなくイメージやヴィジョンで曲を描いていく。つまり聞いた質感とかテクスチャーを重視する。
テイ:今は周波数からアレンジを作っていくこともできますね。それこそディー・ライトのころはそこまで耳はできてなくて、感覚としてなんとなく「このへんの音はいらないなあ」と思いながらやってた。今は「(周波数的に)ここにUA(の声)があるから、そこの音は外してこっちとこっちへ持っていこう」とか、そういう周波数を考えた上でのアレンジをするようになった。あれも入れたいこれも入れたいとケンカしてた部分を、エンジニアはロジカルにジャッジしてくれる。たとえば一番ローが鳴っているとこころはばっさり切ってるんだけど、聴覚の錯覚を利用して、このへんをあげておくとローが十分鳴っているように聞こえるとか。ここを切ると歌とかぶらないとか。ローばかり出していくとマスキングでもやっとした音になって歌が聞こえにくくなってしまうとか。そうすると音圧が稼げなくなっていく。そこらへんのスキルがいろいろあるわけです。そうして音をレイヤーにして重ねていったり引いていったり。
――なるほど。
テイ:そういう発想ややり方は僕、好きですし礎になってると思うんですけど、ただ、そこから抜け出したいというのも近年あって。そんなことよりも詞だったり、その曲で一番言いたいことって何だろうってことを考えるようになったんですね。
――音のレイヤーではなく歌詞で伝えたいことも大事だと。
テイ:そう。同時に、歌詞なんてどうでもいいと思ってるところもあります。さっきの「NOTV」じゃないですけど。好きな曲だからって歌詞で聴いてるわけじゃない。だいたい聴いてないですね歌詞。若いころよりはいろんなことを自分でやるようにはなってきたし、歌詞も自分で書くようになってきたけど、それでも自分で歌いたいとは思わない。
――自分の書いた歌詞だったら自分で歌ったほうが伝わるとは思いませんか。
テイ:伝える/伝えない。伝わる/伝わらない…うーん…でも自分の一番のメリットは、ミュージシャンとしてひどいところだと思いますよ。世界最低のミュージシャンだと思います。そこに自信を持っている。
――ミュージシャンとして不完全だってことですか。
テイ:早く人間になりたーいっていう(笑)。自分が足りないおかげで、こうしていろんな人たちとやれている、というふうに捉えてます。自分を高めてくれる相手とね。考え方ひとつなんですよ。音楽との付き合いでいえば、僕は16歳ぐらいからずっと手は動かしてるんで相当長いですけど、やっとフォーマット完了、芯ができてきたかもな、っていうのが『LUCKY』ぐらいからですよ。さっきも言ったように、アンテナを張り巡らせて作るような音楽とか、はやりを分析して真似てるような音楽はもう他人事で、どうでもいいやと。もちろんその都度いいなと思ったり、入ってきてひっかっかった音楽を自分なりにフィルタリングして公約数を見つけていく作業はあるんです。でもその音楽を見つけていく努力とか作業はあまりしなくていいかなっていうのが21世紀以降、『FLASH』以降。
――でも情報に左右されないとはいっても仙人が作ってるわけじゃないし。
テイ:軽井沢に引っ越した時に、どこぞの仙人みたいになっちゃうんですかねえって、だいたいのジャーナリストに言われましたけど、そんなわけない(笑)。自分がもっと音楽好きでいるために、音楽を作りたい自分でいるために(軽井沢に)行ったんだから。リファレンスのない音楽というか、それを自分なりに聴きたい。マーケティングで作られた音楽は、それはそれとして。今は自分の聴きたい音楽を作ることしか考えてない。そのためには、もっとエクストリームに生きたい。
――エクストリーム?
テイ:UAみたいにいきなり沖縄行っちゃったりね。こういう仕事だし、朝一番で温泉いけるような身分でいられる。でもその分なんの保証もないし、100%リスクといえばリスクですよ。でも無難に安全運転してるだけの生活じゃ、音楽を作るモチベーションが湧いてこない。もっと破天荒な人間にならなきゃと思います(笑)。
――そう思うってことは、テイさんは真面目な人ってことですね。
テイ:自分のいいところは、ダメなミュージシャンなところだと思うんですけど、自分がダメなオトナだと思うのは、そういう、野心がないというか欲がないところでしょうね。
――ディー・ライトでデビューして、いきなり世界的な大ヒットを飛ばしてスーパースターになってしまった。キャリアの最初で、ミュージシャンが抱くような野心をすべて満たしてしまったから、今さら商業的な成功はモチベーションとなりにくい。では何をモチベーションにするか。
テイ:そうですねえ…やはり作り続けること…ですかねえ。数字とかには疎いし興味もないですけど……やっぱり「音楽が一番CUTE」(CD帯のコピーより)なんですよ。みんな買わなくなったというけど、なんだかんだいって音楽は拡散力あるし、意外なところで意外な瞬間に聞こえてきて。飽きないですよね。それをやり続けたいし聴き続けたいし作り続けたい、という。僕がいなくなったあとも息子や孫に聴けるものを残せる。こんなものもやってたんだっていう証を残せる。それが音楽の魅力なんですよ。
(取材・文=小野島大)
■リリース情報
『CUTE』
発売:7月29日(水)
※配信リリースは7月1日より
価格:2200円(税込)
販売サイト
楽曲直リンク
01. FLUKE
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
02. TOP NOTE
Voices : NOKKO & Helen Bentley
E. Bass : Wataru Iga
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
03. LUV PANDEMIC
Vocals : Haruomi Hosono, Yukihiro Takahashi, Keigo Oyamada ( Cornelius ), Leo Imai and Yuka Mizuhara
Guitars : Leo Imai
Additional Programming : Toshiyuki Yasuda
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
04. NOTV
Vocals and Noizy Synth : Leo Imai
Zung ZI : Yui from BAKUBAKUDOKIN
Additional Percussions : ASA-CHANG
Additional Programming : Ayumi Obinata
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
05. HEAVEN
Vocals : Junko Wada ( BE THE VOICE ), Helen Bentley
Guitar : Keigo Oyamada ( Cornelius )
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
06. SOUND OF MUSIC with UA
Vocals : UA
Male Vocals : Leo Imai
E. Bass : Haruomi Hosono
Additional Percussions : ASA-CHANG
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
07. TRY AGAIN
Additional Programming : Yoshinori Sunahara
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
08. CUL DE SAC with Leo Imai
Vocals, Guitar & Additional Production : Leo Imai
Chorus : Peggy Honeywell
thanks to Shunji Mori's GTR Samples & rionos
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
09. BARU SEPEDA
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
10. CHAISE LONGUE
French : Masaya MAISON KITSUNÉ Kuroki
Fender Rhodes : INO hidefumi
Additional Programming : Ayumi Obinata
Keyboard & Drum Programming : TOWA TEI
『INTERSECT BY LEXUS RECORDS #001』
発売:2015年7月22日(水)
価格:1400円
<収録曲>
A面「CUL DE SAC」TOWA TEI with Leo Imai
※新曲:7月29日(水)リリースのTOWA TEI 新アルバム「CUTE」からシングルカット
B面「甘い生活」野宮真貴、高野寛
※2015年3月開催のイベント「INTERSECT BY LEXUS Neighboring House」でのライブ音源