新作『CUTE』インタビュー
テイ・トウワが語る、トレンドを超えた音楽の作り方「アンテナが錆びてても必要な電波は入ってくる」
「詞も曲もやるようになったけど、コントロール・フリークになりたいわけじゃない」
――今作の構想はいつから?
テイ:構想はないです。去年ソロ20周年で『94-14』(ベスト盤、リミックス盤、カヴァー盤)を3枚出したり展覧会をやったりしてエネルギーと時間をとられたので、合間を縫ってちょこちょこと。だいたい50歳になってから作った作品ですね。
――最初にできたのはどの曲ですか。
テイ:「CUL DE SAC」のオケですね。ただのインストだったんですけど、そこから先が思い浮かばなかった。「CUL DE SAC」という言葉だけがぼんやりある状態だったんです。そこに高橋幸宏 & METAFIVEで一緒にバンドをやってるLEO今井君が「できそうです」って言ってくれて。オケを渡して好きに加えてもらったら、ぐっと世界観を広げてくれた。シンセ・ベースを入れて、歌を入れて。「CUL DE SAC」って「袋小路」という意味で、逃げ場なし、ここから逃げ出したい、というようなネガティヴな言葉だと思うんですけど、彼はそれを歌詞の中で、二人だけでここにいたい、という、ほとんど真逆のようなポエティックな歌詞にしてくれた。
――ちょっと80年代前半のビル・ネルソンぽいと思いました。歌も曲調も。
テイ:ほう。なるほどね。INTERSECT BY LEXUSのレーベル(http://www.lexus-int.com/jp/intersect/tokyo/partners/towa-tei/)から出す7インチシングルの1曲目がこれなんですよ。
――LEO今井は『LUV PANDEMIC』でも高橋幸宏さんとやっています。
テイ:『LUV PANDEMIC』は幸宏さんがメインで歌うとは思いつつ、この曲は幸宏さんだけじゃないなっていうのが直感であって。グループ・サウンズじゃないけど、男何人か(細野晴臣、小山田圭吾なども参加)で歌うのがいいかなと。ムーンライダーズみたいに、みんなでわーっと歌ってるイメージ。なのでまずLEO君に歌ってもらって。で、女の子(水原佑果)に「パンパンパン」って歌ってもらう。LEO君との作業が楽しかったし、彼の声も好きだし、英語の添削もやってもらって。心強いバンド仲間って感じですね。
――LEO今井が参加したもう1曲「SOUND OF MUSIC」では久々にUAの歌も聴けます。
テイ:今回のジャケをやってくれた五木田智央君の展覧会が山梨であって、そこにUAも来てたんですよ。それで久しぶりに話したら、3.11以降ほとんどやってないと。そろそろ何かやりたそうだったんで、じゃあ今度(曲を)作るよと。LEO君に来てもらって仮歌を歌ってもらって、それをUAに聞かせたんです。歌ってもらって、やっぱり彼女で良かったと思いましたね。
――テイさんの音とUAの歌は非常に相性がいい気がします。
テイ:『Last Century Modern』(1999年)のタイトル曲を一緒にやった時もそう思いました。凄いシンガーだし、自分と合うなと。「Last Century Modern」はカルテットのバンドでほとんど生楽器でやるという、自分にとっては珍しい曲だったんですけど。でも気に入ってくれてたのも知ってたし、どこかでまたやろうっていうのはお互いどこかで思ってたと思うんです。でも実際にはそれから15年近く、一緒にやることはなかった。今回、いつもやってる打ち込みの四つ打ちのクラブ・ミュージックでもよかったかもしれないけど、「SOUND OF MUSIC」を作って、詞とメロディがUAにあうんじゃないかなという読みが当たったし、やってよかったと思いましたよ。
――彼女の魅力ってどこですか。
テイ:普通にラジオから流れてくるのを聞いてました。「リンゴ追分」を歌ってるCD(『turbo』1999年)を聞いて、この人巧いなあ、と思いましたね。録音前日にじっくり話しましたが、アーティストとしてすごく本能的で素直で、家族のこともすごく大事にしている。ピュアな人だし、同時に煩悩的な部分もあって(笑)。ちゃんと表に出て歌いたいという気持ちもある。だからテイさんと一緒にやった曲がざわざわしてくれると嬉しいなあ、と言ってましたね。
――女性ヴォーカリストとは過去いろいろやってらっしゃいますけど、選ぶときの基準は何かあるんですか。
テイ:曲を作るとき、最初はほぼインストで、詞が先にあることはまずないんです。手癖だったり実験だったり、リズムから作って、ある程度までできると左脳的な自分が、この曲はインストでいくべきか、ヴォーカルを入れるべきか考える。歌にすると決めて、日本語にするか英語にするかじっくり温泉に浸かって考えて(笑)。それから男にするか女にするか、幸宏さんひとりじゃないな、とか。「SOUND OF MUSIC」の場合は、LEO君に仮歌入れてもらって、それでやっぱりUAなら合うと思った。
――曲の向かう方向があって、その方向に沿ったヴォーカリストをピックアップするわけですね。
テイ:そうですね。
――最初から歌う人を決めて、その人が歌うことを前提として曲を作ることは…
テイ:それは頼まれた時だけです。ただ早い段階でビートとコード感しかなくてメロディもないけど、「Apple」ってタイトルつけて、あっアップルで(椎名)林檎ちゃんが歌うといいかなって閃いて、林檎ちゃんの叩きになるように歌詞を作っていったとか(『LUCKY』収録)。そういう作り方もありますね。
――でも実際にできあがった曲を聴くと、たとえば幸宏さんの曲(「LUV PANDEMIC』)は、幸宏さんの歌以外考えられないですよね。
テイ:(幸宏さんに)決まるのは相当早かったですよ。Aメロの日本語は幸宏さんだろうなと。ただ、違う人が歌うパートもあれば面白いと思って。それがLEO君との出会いなんですよ。
――「TOP NOTE」ではNOKKOも参加していますね。「歌」というほどではないですが、すぐ彼女とわかる声を聴かせてくれます。
テイ:まあ僕はインストだと思ってます。彼女が歌ってる「ウー、アー」というのいは元々サンプリングだったんですよ。ミックスに通ってたエンジニアのゴウ・ホトダさんの奥さんがNOKKOなんですけど、サンプリングを生に差し替えたらレンジ広がるかなと思って。
――LEO今井とはもう1曲「NOTV」という曲もやっています。
テイ:これはいわゆるヴォーカリーズの手法ですね(歌詞を伴わない歌唱法。ジャズでいうスキャットに近い)。いわゆる歌ものにしたくなかったので、シンセと一緒に意味のない声が鳴っている。意味のない言葉遊び。そういうものにしたくて、そういう話を細野さんにしたら、それはヴォーカリーズだねと。そういう言葉があるのを知らなかったんですけどね。それで間奏はLEO君に好きにやってもらった。
――タイトルはどういうところから?
テイ:最近TVを見なくなったよね、TVで喋ってることも何言ってるのかサッパリわかんないよね~みたいな話をしてて。ヴォーカリーズ=意味のない言葉遊びの感覚と、TVで言ってることが意味不明に感じることが、どこかで通じるものに思えたんでしょうね。それで「NOTV」ってタイトルにしたんです。実際にそういうチャンネルありそうですもんね(笑)。こういう曲がニュースの後ろなんかに流れたら面白いのに、と思いながら作りました。
――インストですが、「TRY AGAIN」では、まりん(砂原良徳)が"Additional Programming"として参加してますね。
テイ:これはバカリズムさんにオールナイトニッポンのジングルを頼まれて、それ用に作ったんです。ジングルなんで元は15秒か30秒なんですけど、もう少し発展させたくて、ある程度納得いくとこまで作ってまりんに聴かせてみたんですね。彼とは共通したスキルやテイストがあるんで、聴いてみて何か思いつくようだったらやってみて、と。そうしたら「なんかできそうです」というので、お任せしました。僕としてはもうできあがってるつもりだったんですけど、けっこう足してくれましたね。
――これもまりんらしさが出てますね。
テイ:そうかもしれない。テーマや構成などは変わってないけど、僕ひとりでやったものとは全然違うタッチやディテールに仕上がってますからね。それでも「共作」とまでは行かないと思うから"Additional Programming"なんですけど。
――LEO今井にしろ、そういう風に最終段階を人に委ねてしまうことはよくあるんですか。
テイ:たまにありますよ。自分のやろうとしてることを共有できるスキルやセンス、信頼感のある人って少ないんですよ。まりんはどう思っているのか知らないけど、まりんとか、何曲かミックスしてくれたNYのAyumi Obinata君とか。そういう人たちには信頼して頼むことができる。そして、全部自分の手で打ち込んですべて自分がコントロールした音だけだったら、聞きたくなくなっちゃうと思うんですよね。
――あ、そうですか。
テイ:ええ、なんか…どこかヴァーチャルなバンドというか。そういう要素がほしい。予算がないから全部自分でやるというのもありだけど、僕は結果がよければいいと思っているから。
――テイさんは何でも自分でやろうと思えばできる。けどそこであえて他人の要素を入れてみたい。
テイ:そうですね。「FLUKE」とか6チャンとか8チャンしかないから、自分でも(ミックスを)やれるんですけど、そこでObinata君に委ねて「何か足したいものがあったら足して」と。「別に足したいものはないけど、ミックスをやらせて」と言うので、やってもらって。メールであれこれやりとりしながら完成したんです。つまり渡したマルチ・トラックでコミュニケーションができるってことじゃないですか、僕と彼の間では。長年聴いてきた音楽が一緒だったりとか、付き合いだったりとか。まりんも同様なんです。そういうのがある。
――マルチトラックを通した会話。
テイ:そうそう。
――面白いですね。バンドがセッションするのに似ていますね。
テイ:そうですね。高橋幸宏 & METAFIVEもそうですし。
――そこがテイさんの音楽が軽やかで開放的で風通しがいい理由かもしれません。一人ぼっちでやってるよりは、いろんな人とやったほうが刺激も受けるし、その人のアイディアで曲が思いも寄らない方向に展開することも。
テイ:そうですね。詞も曲もやるようになったけど、コントロール・フリークになりたいわけじゃない。一時のポール・マッカートニーみたいに全部ドラムまで叩くのもいいけど、僕は作品がよければ、ひとりでやることにはこだわらない。まりんもLEO君もObinata君も、そもそもテイ・トウワのソロ・アルバム用の曲だからっていう気楽さはあると思う。だから最後のジャッジは僕がしなきゃいけないんだけど、そういう風に気楽にできる良さってあるんじゃないかな。他人の曲だと面白いアイディアも出てくるし、ラクにできちゃうこともあるんですよ。自分のアルバムだと10年かかったりするでしょ、まりんとかさ(笑)。
――(笑)まさに…。
テイ:とっとと出せっていつも言ってるんですけどね(笑)。だから僕はどうやったら自分の曲をより多く仕上げて聴けるかなって考えてますね、最近は。
――自分ひとりで作ることにこだわって時間がかかるよりも、ほかの人のアイディアも取り入れてたくさん作ったほうがいい。
テイ:そう。でもそれは周りを気にすることじゃない。今のトレンディなクラブ・ミュージックとかハイプとか、どうでもいいやって。