『音楽と人』編集長が語る、同誌のあり方と主催イベントへの意欲「根っこにある人間性を出したい」

 アーティストの“人柄”に寄り添った誌面作りで、音楽ファンに新たな視点を与えてきた音楽雑誌『音楽と人』が、東京・新木場STUDIO COASTにて2015年4月18日(土)、4月19日(日)にこれまでの最大規模となる主催イベント『音楽と人LIVE 2015 ローリング・サンダー・レビュー』を開催する。1993年に初代編集長の市川哲史氏が創刊し、その後、発行元を変えながらも長く音楽ファンに愛されてきた同誌は、なぜこのタイミングでライブイベントを開催することになったのか。怒髪天、the pillows、BRAHMAN、POLYSICS、MO'SOME TONEBENDERなど、実力派のバンドにスポットを当てた同イベント開催のきっかけから、同誌の編集方針、さらにはこれからの音楽メディアのあり方についてまで、98年より編集長を務める金光裕史氏に話を聞いた。聞き手はライター・石井恵梨子氏。

「どうせやるなら、小さいところでも面白いことができれば」

一一今回のイベントはどんな趣旨で始まったものなんですか。

金光裕史(以下、金光):一年半前に僕の結婚パーティーがあって、付き合いのあるミュージシャンたちに演奏してもらったり、挨拶の言葉をもらったり。そこには増子(直純/怒髪天)さん、加藤(ひさし/コレクターズ)さん、ピロウズ、ブラフマンやバックホーン、あとはベロベロに酔ったチバ(ユウスケ/ザ・バースディ)とかもいましたけど。そこで酔っ払った増子さんから「みんながこんだけやってくれたんだから、お前はちゃんと恩返しせにゃいかん。こいつらは、いわゆる一般的なフェスの中では主役にはなれないだぞ」と……これ活字になると微妙なんだけど(笑)。でも「みんないい音楽をやってるんだし、こいつらがちゃんとやれる場所をお前が作れ」と言われて。あぁそうだなぁと思ったのがひとつのきっかけですね。ただ、雑誌メディアがイベントを大きく展開するのはあまり好きじゃないタイプだし、ドーンとやれば拒否反応を示すバンドもいますから。どうせやるなら、小さいところでも面白いことができればいいかなと。

一一確かに『音楽と人』に載っているバンドばかり。この『音人』カラーは、金光さんの趣味とイコールと考えていいんですか。

金光:もちろんある程度の数字は考えますよ。でも今の音楽メディア、特に雑誌というのは編集長のカラーが出てくるものになっちゃいますよね。僕、もともとシンコー・ミュージックの『B-PASS』で編集やっていて、当時ロッキング・オンの松村(雄策)さんに言われたのが「プロレスに喩えると、お前らは全日本で俺らは新日だから」。要するにシンコー・ミュージックはどこか受け身なんですよ。アーティストを立てて、こっちは黒子で名前は出さない。原稿を書いても「文・編集部」みたいな。前に出ていくことはないっていうDNAは僕も基本的に同じ。ただ『音楽と人』は、初代編集長の市川(哲史)さんが特殊な人だったから……。

一一特殊って?

金光:アーティストとの関係性が、ですね。市川さんって個性が強いぶん思い入れのある人も多くて。たとえばBUCK-TICKもそうだし、ブランキー(・ジェット・シティ)やブリリアント・グリーンも。あの人が好きで推してたバンドからは「市川さんにはお世話になった」っていう声が多い。そんなところに『B-PASS』からワケのわかんない編集が来て「今度から編集長です、よろしく」って言ったところで最初は受け入れてくれない。僕も僕で、当初は自分で原稿書くなんて思わなかったし、今までどおりライターに振って作ればいいと思っていて。でも、やってみたらこれは全然違うなと。これはもう俺が頑張って書くしかないなと。そこから始まっているんですね。

一一『音人』は、自分自身を出さずには成立しないものになっていた。そういうカラーが先にあったと。

金光:そう。最初は嫌だったけど。でも編集長になったのが98年で……そこから17年か。やっぱり時代を考えれば『ロッキング・オンJAPAN』のスタイルは正しかったと思うんです。音楽雑誌が売れなくなる時代に、音楽シーンと一緒に歩きながら生き抜くためには、書き手の主観を強く出していくしかない。そうしないと生き残れないなと思ったし。それで考え方を変えたところはありますね。

一一それで続けていくうちに今のカラーが出来上がっていった。

金光:最初に『音楽と人』を引き継いだ時、俺は市川さんじゃないから真似してもしょうがない、じゃあどうしようかと考えて。あんまりセンセーショナルなことをするのは苦手だし、自分でカラーを決めるなら、人間味、ヒューマニティだと。僕、もともと原稿はそんなに上手くないし、昔は写真部で写真をやっていてカメラマンになろうと思ってたんですけど……。

一一あ、そうなんですか? 意外。

金光:そう。でもそこでもセンセーショナルな写真が好きなわけじゃなかった。ドキュメンタリーの橋口譲二さんとか、あとはハービー山口さんの撮る写真が好きだったから。本来そんなハードなやつは好きじゃないんですね。だから、やっぱりヒューマニティとか、人の根っこにある熱と愛情。そういうのをちゃんと切っていけるような雜誌にしようって。そのコンセプトだけはずっと続いてるから。

一一激しいものが好きじゃないと言いながらも、ロックンロールに非常にこだわった雑誌でもありますよね。

金光:やっぱりロックンロールって一番そういう感情が出やすいじゃないですか。デストロイだけじゃなく、今の気持ちにすごく正直になれる場所。それしかないからやってる、っていう部分も出るし。ヒューマニズムって言葉だと、あったかいもの、人間の愛情がメインになりがちだけど、それだけじゃない絶望や怒り、やるせなさも当然あって。そういうのをロックンロールでストレートに出してる人のほうが面白い。たとえば今月号はB'zが表紙で、彼らはそう見えないと思うんですけど、でもちゃんと掘っていけば人間味が感じられる。まぁ誰にでもあるものですけどね。当然そんなの出したくないって嫌な顔するミュージシャンもいる。となると辛いインタビューになるけど、掘っていけば、どっかにチョロっと本音が出てくるんです。それがあればいいや、という感じで。

一一言い換えると、人間味さえあれば音楽性は二の次だと?

金光:そう……極端に言えばほんとそう。僕はベンジー(浅井健一)もバックホーンも、堂本剛くんも坂本真綾さんも表紙にする。ジャンルで言えばムチャクチャだし、音楽的に考えれば真綾さんとベンジーが共存できるわけない。でも「なんで歌ってんのか」とか「なんで続けてるのか」とか、根っこはそんなに変わらなくて。大スターであるプレッシャーを背負いながらやってる人と、バイトしてでも必死にバンド続けてる人が「でも音楽をやりたい。なぜかやってるんです」って言う部分は、基本的に同じだと思うから。その根っこの人間性が出せていければいいなと思ってますね。音楽は聴けばわかるので。僕が雑誌をやる意味はそこじゃない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる