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宇野維正が『アート・オフィシャル・エイジ』『プレクトラムエレクトラム』をWレビュー

久々の大傑作!? プリンス、2枚のニューアルバムの聴き方

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宇野維正
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 プリンスのニューアルバム『アート・オフィシャル・エイジ』と、プリンス&サードアイガールの『プレクトラムエレクトラム』が10月1日にリリースされた。ニューアルバムのリリース自体は2010年の『20Ten』以来4年振りと、そこまで特別に長いインターバルが開いているわけではないが、今回は海外でも日本でもいつになく大きな盛り上がりを見せている。その理由は端的に言って3つ。1つ目は、長年確執のあった古巣のワーナーと18年振りに契約を交わし、近作のような変則的かつサプライズに満ちたリリース方法ではなく、メジャーレーベルによる万全の体制のもとで作品がリリースされたこと。2つ目は、現在のプリンスの創作エネルギーの充実ぶりを象徴するようにまったく異なるコンセプトのアルバムが2枚同時にリリースされたこと。3つ目(サードアイとかけてますよ)は、何よりもその作品の出来が近年のプリンスのアルバムの中では抜群のものであること。特にプリンスの単独名義となる『アート・オフィシャル・エイジ』に関しては、「『ラブシンボル』(1992年)以来の傑作!」と言う人がいたり、「いやいや、『ラブセクシー』(1988年)以来だ!」と言う人がいたり。つまりは、「少なくとも21世紀に入ってからのプリンスの最高傑作」という評価がリリース早々に定まりつつある勢いなのだ。

 長いキャリアを持つアーティストの常として、プリンスに関しても世代によってその見方が異なるだろう。自分のような『パープル・レイン』(1984年)直撃世代、これまでの来日公演にすべて足を運んできた(1986年の横浜スタジアムでの初来日公演は、今後も絶対に更新されることがない生涯ベストライブだ)古株ファンの中には、『ラブセクシー』(1988年)『バットマン』(1989年)あたりを最後に、それまでの彼の音楽にあった神々しいまでの革新性と魔法が薄れてしまったことを長年嘆いてきた人も多いだろうし、「プリンス、奇跡の80年代」を後追いで知った世代の中には、90年代、00年代の作品にも強い思い入れを持つ人も多いだろう。今回の『アート・オフィシャル・エイジ』と『プレクトラムエレクトラム』の事件性は、その両方のファンを唸らせるだけの有無を言わさぬ魅力を放っていることだ。

 もっと若いリスナーにしてみれば「そもそも今回のプリンスとプリンス&サードアイガールの作品、一体どこがどう違うの?」という疑問を持つ人もいるだろう。これ、ものすごく乱暴な喩えで言うと、椎名林檎が椎名林檎名義の超ポップなアルバムと東京事変名義の超ポップなアルバムを同時にリリースしたようなものと言ったら、そのインパクトの大きさがちょっとは伝わるだろうか。プリンスの熱心なファンにも椎名林檎の熱心なファンにも怒られそうだけど。

 思えば、プリンスの歴史的名作とされてきたアルバムの多くは、明確な音楽的なコンセプトを持っていた。来るべきデジタル時代のファンクを予見していた『1999』(1982年)、大衆ロックオペラ(メロドラマ)を極めた『パープル・レイン』(1984年)、プリンス流サイケデリック絵巻『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』(1985年)、ヨーロッパ趣味とJBファンクの華麗なる融合『パレード』(1986年)。ファンク/リズム&ブルース/ロックンロールの伝統の継承者であると同時に革新者であり、繊細なシンガーソングライターでもあり、あらゆる楽器を操る万能プレイヤーでもあるプリンス。そのあまりに巨大すぎる才能は、アウトプット(=作品)のコンセプトをある程度限定しないと、収集がつかなくなってしまうのだ(その収集がつかないまま、それでもアルバムとして奇跡的なバランス保っていたのが1987年の『サイン・オブ・ザ・タイムス』である)。

     
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