「音楽の販売スタイルはもっと模索できる」沖野修也が提言する、これからの音楽マネタイズ術

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取材は氏がプロデュースを務めた老舗店「THE ROOM」にて行われた。

 DJ、プロデューサーや兄弟DJユニット「Kyoto Jazz Massive」として活躍し、東京都渋谷にある老舗店「THE ROOM」のプロデューサーとしても知られる沖野修也氏が、現在の音楽シーンについて語るインタビュー後編。前編【沖野修也が明かす“1万円でアナログ販売”提案の真意「録音物にはライブとは違う価値がある」】では、ネット上で賛否両論を巻き起こしたエントリー「僕がアナログを一万円で売ろうと思った訳」を書いた真意について明かした。後編では、沖野氏が提唱する“全業”という仕事術や、再販制度や小売りの形態が変化を遂げる中で、いかに音楽をマネタイズしていくか、さらにはSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスへの向き合い方まで、大いに語った。

「僕が提唱する『全業』には水平型と垂直型があり、僕の場合は水平型」

――沖野さんは自身のブログで、「自分でできることはすべてやる“全業”」という仕事術を紹介していました。音楽家としていろんなタイプの仕事を、ひとつの価値観を通して行い、しっかり稼いでいくという活動モデルです。

沖野:全業には水平型と垂直型があり、僕の場合は水平型で、“沖野修也”という世界を音楽以外の分野にも拡張していくこと。僕はあらゆる契約業務をはじめ、イベントの開催や、アーティストの出版管理も行います。その他にもアートディレクションやスタイリング、ライナーノーツの執筆、ラジオ番組の制作、DJ、作曲、リミックス……音楽を中心としながらさまざまな分野に手を伸ばしていますが、それらの根底にあるのは“レコメンデーション”です。自分の音楽だけじゃなく、他アーティストの音楽もレコメンデーションする作業――ただ単に制作・演奏するだけじゃなく、そこにかかわる仕事で、なおかつ音楽性とも矛盾しないことであれば、僕は活動の場をどんどん広げていきたいと思っています。去年、僕が描いたイラストの個展を開催したんですが、そこで出展した作品はアルバムのジャケットとして使用したり、The Roomに飾ったりもしています。それは結果的になんの矛盾もしていない。僕が突然、寿司屋で働き出したらおかしいと思いますけどね(笑)。

 ちなみにもうひとつの垂直型の全業というのは、音楽制作に特化して、入口から出口まですべてを自分がまかなうという手法です。例えば、Roomで働くスタッフ兼アーティストの冨永陽介が挙げられるんですが、彼はDJとして活動し、アーティストとしても曲も作り、プレス工場のオーダーも自分で手配し、自ら手売りで販売するといった、何から何まで自分でこなすタイプ。ミュージシャンはそのような作業をレコード会社や外部の人間に振っていますが、垂直型はコストをかけずに実質的な利益が減ってしまうリスクを回避できる。アナログのプレスを自分でするのは無理でも、コーディネイトからレコーディング、マスタリングまですべて自分自身で管理してしまえば、制作費はだいぶ抑えることができ、1枚あたりの収益を上げることができます。

――これから音楽で食べていくには、避けては通れない道かもしれませんね。

沖野:いずれ、そうなっていくと思います。実際、自分でミュージシャンをやりながらレーベルをやっている人も多いですし、海外にはアーティスト兼エンジニア、という人も大勢います。自分のスタジオを持っているから、そこで完遂できてしまうんです。さらに他アーティストのトラックダウンやマスタリング仕事も受けられるという、僕が考える全業のあるべき姿ですよね。

――日本ではエンジニア兼クリエイター、という人はあまり聞かないですね。

沖野:国内におけるエンジニアのイメージは、職人的な位置付けの職種ですが、海外では職人であると同時に、アーティストであり、作曲家であり、出版権も管理している人までいます。これだけで4つの顔を持ち合わせていることになります。

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