「音楽の販売スタイルはもっと模索できる」沖野修也が提言する、これからの音楽マネタイズ術

アーティストはアクティブなエンターテインメント能力が問われている

――最近はSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスが注目を集めていますが、それらに対してはどう思いますか。

沖野:僕は“購入して所有したい派”なのでまだやるつもりはないんですが、その利便性にヒントはあると思います。結局、情報が氾濫しているから、探す手間も面倒だし、時間もかけたくない。となれば、誰かが先頭に立ってキュレーションしたチャンネルを提供すればいい。例えば、僕が選曲したプレイリストを公開する“沖野修也チャンネル”といったものを。ただし、そこで使用された楽曲から生まれる利益がきちんとアーティストに還元されるのか、という疑問はありますけどね。

――1曲あたりの分配金は、現状ではかなり低いと見られています。

沖野:そこはアーティスト次第かもしれません。分配金が低くても宣伝になるからサービスに参加するアーティスト、とにかく断固として参加しないアーティスト、答えはひとつじゃないと思います。それと、盲目的になっていると思いますが、インターネットは“無償”のサービスではない。当たり前にいろんなサイトにアクセスし、サービスを受けているわけですが、そこには“接続料”の負担があるわけです。究極の話、携帯キャリアが音楽ストリーミングのプラットフォームを構築し、料金の中に接続料に加えて、“音楽サービス”を組み込むことができたら、アーティストに還元されるシステムを作りやすいのかもしれません。

 僕は自分の存在を知ってもらったり、音楽を普及させるためならストリーミング・サービスに参加はする……と思いますが、個人的には熱心な音楽リスナーに向けて、支払った金額以上の価値を提供したいと考えています。楽曲云々ではなく、ファンや聴き手をエンターテインしていくことが、アーティストに課せられる時代になってきた、ということです。もちろん、生業である音楽で純粋に評価されるべきですが、飽くなき欲求に応えていくアクティブなエンターテインメント能力が問われているのだと思います。

――そういう時代に、まるっきり音楽しかできないタイプのミュージシャンは、どうするべきだと思いますか?

沖野:そこはやっぱり、見せ方です。僕はゲリラ戦法というか、とにかく増やせるだけ露出は増やす。ブログもツイッターもフェイスブックも、イベントのフライヤーに載る名前や写真も、僕はすべて露出だと思っています。その更新頻度が増えれば、人の意識に働きかけられることができますからね。

 逆に、ツイッターもフェイスブックもブログもやらない、ましてや生活感すら見られたくない、音楽だけで勝負したい人は、存在価値を高めていくべきだと思っています。ダフトパンクはその最たる例ですよね。ライブ以外は会えない、正体もわからない(知っている人もいますが)、なにひとつ素性を知らない。でも音楽性は高く世界的なヒットを放っている。こういったことが神格化につながっていきます。

 売れるアナログの原理と一緒で、ある程度著名な人からのレコメンデーションや、すでに地位を確立した人との比較によって認知度が上がっていくようになる。例えば、僕がダフトパンクを推す一方で、無名の新人を並列で紹介したとします。すると、聴き手のその無名アーティストに対する印象というのは、無から有に変わると思うんです。影響力のある人間が、若手を積極的に世に紹介していくフックアップや、同様の音楽をグループ化していくことは、これから先もっと重要になっていくでしょうね。
(取材・文=編集部)

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