モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析

 東京を拠点に活動するバンド、トレモロイドのシンセサイザー・小林郁太氏が、人気ミュージシャンの楽曲がどのように作られているかを分析する当コラム。今回は、2013年に再ブレイクを果たしたモーニング娘。と、そのプロデューサーであるつんく♂の楽曲に迫る。最近では『モーニング娘。'14』に改名するなどして、話題作りにも事欠かない同グループ。その楽曲にはどんな“仕掛け”があるのだろうか。(編集部)

参考1:aikoのメロディはなぜ心に残る? ミュージシャンが楽曲の“仕組み”をズバリ分析
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 今回の楽曲分析のテーマはつんく♂と、モーニング娘。'14(以下、過去曲ではモーニング娘。と表記)です。EDM路線と呼ばれる現在の楽曲群が、どんなもので、なぜそうなっているか。一旦回り道して『LOVEマシーン』から始まる最盛期の楽曲を見てみましょう。つんく♂さんの基本的な楽曲制作スタイルがよくわかります。

『LOVEマシーン』以降に生まれた「はっちゃけ感」

 大ヒットシングル『LOVEマシーン』は、サウンド面ではノリのいいディスコソウルそのままといった感じで、さほど特筆するものはありません。この曲の価値は、独特の歌詞やメンバーの個性の出し方による「はっちゃけ感」の発明ではないでしょうか。音楽的にいえば、そのはっちゃけ感とは「サビまでの聴かせ方」に表れています。

 『LOVEマシーン』は、イントロ、Aメロなどの展開が意外にも静的です。一般的に歌謡曲の場合はメロディ志向が強く、イントロから強いメロディを置きますが、『LOVEマシーン』の場合、イントロとAメロは動きが少なくリズムの提示、Bメロでサビにつなげるメロディの展開部、というように、サビを気持ちよく聴かせるための役割をきっちり果たしています。それなのに、同曲のイントロやAメロも十分に印象が強く、ポップに聴くことができるのは、ヴォーカルのパート構成によるところが大きいです。ユニゾンが少なく、メンバーがフレーズごとに歌い回す手法は、つんく♂さん独特の歌詞と相まってメンバー一人一人の個性を前に押し出し、聴く側は多少地味なメロディでも、はっちゃけたパーティー感を楽しむことができます。この歌回しと歌詞で最大化された「はっちゃけ感のプラットフォーム」はメロディ以外のもので楽曲を盛り上げられるという意味で、一種の魔法です。要するに「お囃子」や「合いの手」ですが、それをアイドルでやれるということが、音楽的にもメンバーの個性を前に出すためにも強力な武器でした。

 この、はっちゃけプラットフォームを推し進めた完成形が『Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド~』でしょう。トラックはサブタイトル通りビッグバンドによる初期ロックンロールそのままで、歌の方はメンバー全員プレスリーのモノマネ、という、言葉で書くとネタ以外の何ものでもない、というような歌です。しかし「そしてラララ ~」以降の大サビが来ると、何か満たされた気持ちになります。このセクションのコード進行は「F#m7 Bm F#m7 Bm Em7 A A7 D」で、進行自体がものすごくポップ、というわけではありません。しかし、それまで現在の歌謡曲とは離れたフォーマットの、トラッドな音階で歌のメロディを作っているので、このセクションのポップさが引き立ち、大団円的な多幸感を演出することができます。このように、歌謡曲的な盛り上がりを最大限にするためにメリハリの利いた展開を作ることができるのは、この時期で言えば「はっちゃけプラットフォーム」という、そもそもの大前提であるモーニング娘。の魅力を最大化することに『LOVEマシーン』で成功しているからです。

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