波動拳を出せなかった40歳が『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』で開眼 簡単操作の先にあった“駆け引き”

格闘ゲームが苦手だった。手先が不器用だからである。今がちょうど40歳だから、10代に格闘ゲームの盛り上がりを体験した年齢だ。しかし、どれほど頑張っても結局は波動拳を出せないままで、私は格闘ゲームから距離を置いてしまった。指の皮は剥がれた痛みと共に。
季節は巡って現在。かつてこちらのリアルサウンドテックで格闘ゲームに触れる連載『38歳からのゲーセン入門』をしたおかげで、ちょっとだけ格ゲーへの苦手意識を克服できた。やっと波動拳も出せた。それでもやはり下手は下手である。波動拳も3回に1回は失敗するし。
そんな私にあろうことか格闘ゲームのレビューのお話が飛んできた。8月7日にリリースされた『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』である。仕事は常に募集しているので、ありがたいとは思いつつ……正直、「大丈夫かな?」という気持ちだった。たしかに波動拳は出せるようになったけれど、それも1カ月くらいかかった。ゲームの面白さを確かめるには、まとまったプレイ時間が必要であるし、何より格ゲーを楽しむには練習が必須である。
ところが、まったくの杞憂だった。結論からいうと、同作はとにかく取っつきやすい。格闘ゲームが苦手な人でも楽しめると思う。とにかくマーベルのキャラを使って、ド派手なバトルをやりたい人にはオススメしたい。非常に楽しいゲームだ。
ボタンひとつで派手な技が出る、初心者に優しい操作設計
ゲームは丁寧なチュートリアルから始まるが、正直、ここですべては覚えきれない。ただ、このチュートリアルの時点で、本作の操作が非常にシンプルだと確実に実感できるはずだ。複雑なコマンド操作は少なく、特定のボタンを連続で押せば必殺技が出る(めちゃめちゃ強いて言えば連続してボタンを押す時のテンポ感でちょっと躓いたが、それもすぐに慣れることができた)。ざっくりと言ってしまえば「初めて手にとった時から、ガチャガチャやっているだけで、それなりに戦える」という感じだ。これが格ゲー下手勢としては非常に嬉しい。もちろん、もっとド派手な必殺技だったり、華麗なコンボだったりは、練習が必要だけれども。
操作が簡単だからこそ、“駆け引き”の面白さが見えてくる
このチュートリアルでかなり心の敷居が下がり、すぐにオールスターアリーナ(いわゆるアーケードモード)に挑戦できた。で、実際にやっていくと……もう一つ分かったことがある。このゲーム、操作は凄く簡単だ。先ほど書いた通り、初見でもガチャガチャやっているだけで何となく勝てる。しかし一方で、ちゃんと“駆け引き”があるのだ。むしろ操作が簡単だからこそ、早い段階で“駆け引き”の大事さに目がいく作りになっている。
「何となくで勝てる」この感じでプレイしていると、人間とは贅沢なもんで、私のような格ゲー下手勢でも「単調」と感じ始めた。いや、価値観が転倒しているのは分かるんですよ。そう思うのは複雑な操作ができない自分のせいなんですから。
でも、その後である。単調と感じ始める頃に、絶妙に難易度が上がってくるのだ。このタイミングが本当に気持ちよかった。「もう勝てちゃった」は「なんで勝てたかよく分からない」と紙一重である。そして「なんで勝てたかよく分からない」は、ゲーム自体への「よく分からない」に繋がり、そこから「単調」という感覚になる。この感情のコンボが繋がる前に「どうやったら勝てるか考えてみよう」が来るのである。
もちろん、急に難易度が上がるわけではない。いきなりボコボコにされるとかでもない。ただボタンをガチャガチャやっているだけだと、防がれるようになるとか、KOまで時間がかかるとか、そのレベルだ。そのうえで「よく見ると敵が同じ動作を繰り返しがちよね」とか、「このキャラは近い距離の時に攻撃してくるよね」など、物凄く基本的なことをプレイヤーが気づくように誘導してくれるイメージだ。
身もふたもないことを言うけれど、やはり格ゲーをやるなら派手な技を出したい。少年時代にパンチやキックもそこそこに、とにかく波動拳を出そうとしたのは、そういう気持ちがあるからだ。現実が地味だからこそ、ゲームでは手っ取り早く派手なことをしたいのである。本作はそんな「派手な技を出したい!」という気持ちが先に解決するから、すぐに次の課題として「駆け引き」の面に目が行く。格ゲー苦手勢への優しさを感じるバランス感覚である。
スキができるタイミングを見極めて、そこを狙って技を出す。それは基本的すぎるもので、駆け引きと呼べるほど大したものではないが、やっぱり相手の一手先を読めると気持ちがよい。もちろんコマンド入力が通ったときの気持ち良さも素晴らしいが(数十年越しに波動拳が狙った通りに出たとき、泣きそうなほど感動しましたからね)、本作はそっちを大胆に簡略化し、駆け引きの楽しさを早めに気付かせる設計になっているのだと思う。
マーベルキャラクターへの愛が詰まった“キャラゲー”としての魅力
もちろん、いわゆる「キャラゲー」的な側面も充実している。デザイン面も元のキャラを上手く日本の二次元文化に落とし込んでいるし、細かいこだわりを感じる箇所も多い。SNSで話題になったデッドプールのパロディも楽しいけれど(個人的にはパロディよりもゴーストライダーのエピソードモードでは闇が垣間見えるのがよかった)、やはり色々な意味で思い入れがあるブレイドだ。性格はファンキーより武士道寄りだが、映画1作目に出てくる“あの”ガッツポーズをしているのが嬉しい。気まずい感じになった新映画企画に思いを馳せながら、日本刀を振り回すのが楽しい。
私のように「技が思ったように出せないから」で格ゲーを諦めた人は、実はけっこういると思う。けれどゲームは日々、進化している。本作はその点はまったく問題ない。そして「技の読み合い」とか「駆け引き」とか、「そこまで考える余裕がないよ」と諦めていた全てのゲームキッズにオススメしたい。これは開始1時間ほどでそこを考える余裕が出てくるはずだ。というか私は生まれて初めて対戦格闘ゲームで「駆け引き」の楽しさを知った気がする。もっと早く知りたかったと思いつつ、しかし、こうして今、知れてよかった。〈早くはない 遅くはない 始めたら始まりさ〉という歌詞もある。引き続きやっていこう。そしていつか、DLCでオメガレッドも操作したい。いや、昔やってたアニメの『X-MEN』のオープニングで凄くカッコよかったので。本国だとそんなに重要なキャラじゃないと聞いてショックを受けたものです。



























