SNSショートドラマで累計3億回再生を記録した「白い基地」 水溜りボンド・カンタと放送作家・カツオが語る“ヒットの裏側”にあった8年越しの縁

水溜りボンドカンタ×カツオ対談

 水溜りボンド・カンタによる連載「クリエイティブの方舟」。第一線で活躍するクリエイターをゲストに招き、その思考法や制作の裏側に迫る本企画。今回のゲストは、数々の人気テレビ番組を手がける放送作家のカツオを迎えた。

 現在、カンタが率いる映像制作チーム「Arks」とカツオは、気鋭のショートドラマチャンネル「白い基地」を共同で手がけ、YouTubeショート、インスタグラムをはじめとしたSNSで大きな反響を呼んでいる。しかし、実は二人の出会いは約8年前、カンタがYouTubeクリエイターとして駆け出しだった頃に遡る。当時はテレビとYouTubeの文化の違いから、互いに悔しい思いを抱えながら一度は道を違えた二人だが、そこからどのような数奇な運命を経て、再び「白い基地」でタッグを組むことになったのか。ショートドラマという新たな戦場でのコンテンツ制作の裏側や、テレビとYouTubeの違いなどについてじっくりと語ってもらった。(編集部)

”化学反応”は起きなかった、気鋭のクリエイターと若手放送作家の出会い

ーーまずは、お二人のファーストコンタクトについて教えていただけますか。

カツオ:今から7〜8年前ですね。当時僕は35歳くらいで、カンタくんはまだ20歳くらいだったと思うんですが、彼から突然Twitter(現X)のDMをもらったのが始まりでした。当時、テレビとYouTubeのシーンが少しずつ繋がり始めていて、僕はもうYouTubeの世界に足を踏み入れていたので、「ついにYouTubeクリエイターからDMが来たぞ!」と、すごく嬉しかったのを覚えています。

カンタ:僕としては、もともと芸人さんに憧れていたところもあって、自分なりにYouTubeで企画をやってはいたものの、それが正解なのかどうかわからなかったんです。誰から教わったわけでもなく、プロの方のお話を聞いたこともなかったので。そんな時に、たまたま友達とご飯に行った席の隣に、(カツオさんと親交のあった)放送作家の板倉輝さんがいらっしゃって。テレビの第一線でやられている方のお話を聞く中で、カツオさんの名前が出たんです。それで「僕が学びたいなら、カツオさんに声をかけてみたらいいんじゃないか」という話になり、DMを送らせていただきました。

カツオ

ーー当時のカンタさんの印象はいかがでしたか?

カツオ:カンタくんは渋谷に編集用の拠点を持っていて、そこに僕も足を運んで企画会議をしていました。そこにカンタくんや、今一緒にやっている田口(拓朗/Arks株式会社のCEO/Director)くんたちもいて。でも、当時のカンタくんは……バリバリ尖ってましたよ(笑)。毎日投稿をしていて、1日1本必ず動画を上げるというスピード感で動いていたので、ものすごく忙しそうでした。

カンタ:いや、本当に申し訳ないこともたくさんありました。当時は僕も若くて尖ってましたから……。でも、当時の自分としては、プロの作家さんにお願いしているのに、自分の不甲斐なさでうまくいかない悔しさがあったんです。カツオさんがテレビの基本に則った素晴らしい企画を持ってきてくださるのに、僕は「これはテレビっぽいからできません」って突き返してしまっていたりして。

水溜りボンド・カンタ

カツオ:そうそう。僕はテレビのロジックで企画を立てるのが仕事だし、それが正解だと思っていたから、ムッとしたこともあったかもしれません。でも、今になってみるとカンタくんの言う通りなんですよね。テレビ界とYouTubeの間にある言語の壁というか、どうしてもテレビマンがテレビのロジックでYouTubeクリエイターを扱おうとすると失敗する。YouTubeは視聴者やファンと一番向き合っている本人たちが納得しないと、動画が面白くならないんです。

カンタ:当時のYouTubeでは、企画を立てる本人が本当にノっているかどうかがすごく重要でした。つまらない企画でも僕がやりたいと言って楽しそうにやっていれば面白く見えるし、逆にすごく面白い企画でも、僕が興味なさそうにやっていたら再生数は伸びない。テレビのように「作家が考えた企画を芸人さんが考えた態でやる」というのは、YouTubeだと視聴者に嘘をついているように見えてしまうんです。当時はそれをうまく言語化できなくて、「いや、違います」としか言えなかったんですよね……。

カツオ:本当にそう。僕としては、テレビの総合演出やプロデューサーと仕事をする時のように、「この人はこういう企画をやりたいんだろうな」とアジャストして提案するんですけど、カンタくんとしては「そのまま通すわけにはいかない」というクリエイターとしてのプライドもあった。当時の僕は、カンタくんたちのそのクリエイティブな部分をくすぐるものを出せない自分が悔しくて。「なんとかカンタくんと面白いものを作ってクリアしたい」と燃えていたんです。でも、結局お互いの言語が交わらず、パンチを出しても“早すぎて当たらない”ような感覚でした。

カンタ:でも、僕にとってはカツオさんとの経験がものすごく大きかったんです。それまで超孤独で、企画について話せる人が全くいなかった中で、カツオさんからテレビの考え方や企画の作り方を教わった。丸ごとその企画をやることはなかったにせよ、広い意味で僕の企画力に多大な影響を与えてくれました。ただ、当時は毎日投稿の使命感に駆られていて、カツオさんを振り回してしまっているという申し訳なさから、「一旦やめましょう」とお伝えして、事実上の「お別れ」になってしまったんです。

カツオ:バチバチに喧嘩したわけじゃなくて、本当に何もないままフェードアウトしたんですよね。だからこそ、僕の心のどこかにはずっと「いつかカンタくんとリベンジしたい」という思いがありました。復讐とかそういう意味ではなくて、カンタくんが何か新しいことをやるときに、僕の一言でアイデアが湧いたり、力になれるような状況を作りたいと、この8年間ずっと思っていたんです。

再合流のきっかけとなった”ショートドラマ”という戦場

ーーそんな8年間の空白を経て、再び「白い基地」で合流することになったきっかけは何だったのでしょうか?

カツオ:僕はずっとバラエティ畑でやってきて、『全力!脱力タイムズ』という番組に約10年携わってきたんです。その中で少し脚本めいたものを書くうちに、「自分もドラマが書けるんじゃないか」と欲が出てきちゃったんですね。実は昔、20代の頃、劇団を5年ほどやっていて、役者をやりながら本も書いていた時期がありました。でも、放送作家になった時にドラマの仕事は一切受けないと決めていて。嘘みたいな話ですが、ある超有名監督に映画の初期プロットを明日までに書いてくれと頼まれた時も、バラエティがうまくいきかけていたので「嫌です」と断ったくらいです。

カンタ:嘘でしょ!?

カツオ:ホントなんだって!(笑)  とはいえ翌日に他のバラエティの締切も迫ってたし、物量的に受けられる余裕がなかったから仕方ないんですけどね……。

ーーそこまでバラエティに振り切っていたのに、なぜ再びドラマへの欲求が?

カツオ:やっぱり物語を作ることへの未練があったんだと思います。でも、ドラマの世界にはすでに確固たる村社会があって、バラエティ番組の作家がいきなりポンと入っていっても相手にされない。「ドラマなどの代表作はあるんですか?」「劇団をやっているんですか?」と聞かれても、僕には何もない。ダウ90000の蓮見(翔)さんのように劇団方面ですでに能力を証明している人なら戦力になりますが、僕には何も武器がなかった。もう一度劇団を立ち上げて、劇場でお客さんを呼ぶ体力もないし、どうしようかと思っていました。

ーーなるほど。そこからどうショートドラマに繋がっていくのでしょうか。

カツオ:2023年に、たまたま1本だけショートドラマの仕事が来たんです。エイベックスの若い子たちを起用したコントやドラマを書いてほしいと言われて、僕が書いたものがTikTokで300万回再生されたんです。「これは、100人キャパの劇場で演劇公演するよりもいいぞ! 一気に300万人の人に作品が届くのか!」と思ったんです。でも当時の自分には映像を撮るスタッフもツテもない。どうしようかと思っていたまさにその時、カンタくんと田口くんから「新しくArksという映像制作会社を立ち上げるので、カツオさんも何か一緒にやりませんか?」と連絡が来たんです。

カンタ:Arksにはもともと映像が好きなメンバーが多くて、YouTubeの動画を作るだけじゃなく、ショートドラマのようなものにも挑戦できる実力があることを見せたかったんです。そこで誰と組むべきかと考えた時に、やっぱりカツオさんしかいないと。ショートドラマは当時まだそこまで手垢がついていない領域だったので、僕が水溜りボンドで培ってきたフックの作り方と、カツオさんの企画力が合わされば、絶対にうまくいくという確信がありました。

カツオ:しかも、ちょうどその頃、ある誰もが知る大企業さんから僕個人に対して「頑張るおじさんを応援したい」という謎の出資オファーが来ていまして(笑)。最初はインタビューチャンネルを作ろうかという話だったんですが、それならショートドラマに出資してくださいとお願いして資金もできた。そこにArksの映像制作チームと、水溜りボンドの動画のテロップも打っていた経験がある映画監督の竹中貞人監督が加わった。僕が書いた脚本を誰が撮るんだという最大の問題が、最高の形で解決したんです。そして6本目の動画がいきなり100万回再生を超えて、そこから胸を張れるようになりました。

ーー「白い基地」のショートドラマは、コンパクトながら非常にクオリティが高く、独自の世界観があります。企画や構成の根幹はどのように作られているのですか?

カツオ:最初のコンセプトとして「Aと思ったらBだった」という展開を何回も繰り返す構造にしようと決めました。有名なインフルエンサーや芸人さんが演じているなら、ただその人が喋っているだけでも視聴者は手を止めてくれますが、うちはこれから可能性のある売り出し中の役者さんたちが出ているので、普通のことをやってもスワイプされてしまう。だから、最初は「なんだこいつ、怒ってるぞ?」というような疑問を立ち上げて、途中から「あ、こういうことなのか」と展開し、さらに最後にもう一度裏切る。そういう構成を意識しています。

 今回「白い基地」を作って思ったのは、本当に竹中さんのチームがすごいということ。僕の感覚的な脚本が、ものすごくロジカルになって返ってくる。最近は特に「人間のインサイト」を突くことにハマっています。例えば、コンビニのトイレを借りた時に「何も買わずに出れる人間か、1品買って出る人間か」というのを裁判形式にした動画がすごくバズって。あれは僕がアイデアを出して、竹中さんが「裁判にしましょう」と提案してくれたんですが、見事に人間の共感を突いていて、海外の人が真似したり、別のチャンネルで丸ごと台本をパクられたりするほど広がりました(笑)。

ーーArksの武器として、AIを使った演出もされているということですが、どのように活用しているのか具体的な事例を教えてください。

カンタ:僕自身、もともとリアルなものが好きなのでAIに対してはあまり肯定的ではありませんでした。ただ、せっかくここまで盛り上がっているなら、かつてYouTubeに飛びついたように飛びつかなきゃいけないという意識がありました。いまは現実の代替というよりは、VFXやCGのように、リアルな役者さんの演技の中に混在させるのが面白いと思っています。話がぶっ飛ぶ展開の時に、いきなり背景や人物がAIになったりと、あえてギャグとして大外しする場面を使い分けることで、漫画の「ドーン!」というような表現として機能させています。

ーーカツオさんから見て、テレビのコントとショートドラマで明確に違うと感じる部分はどこですか?

カツオ:同じボケの繰り返し、いわゆる「並列」の展開が通用しないことですね。例えばテレビのコントなら、店員と客がずっと同じようなすれ違いを繰り返すことで笑いが生まれますし、スターが演じていれば視聴者は見ていられます。でも、ショートドラマで無名の役者がそれをやると、どんなに構造が面白くても一瞬でスワイプされてしまう。「クイズ研究会の卒業式で、先生の贈る言葉が全部クイズになっている」という僕の大好きなネタがあるんですが、同じボケの繰り返しになるので、視聴者(=アルゴリズム)では全く評価されませんでした。次へ次へと展開していかないと、視聴者が持たないんです。

ーー逆に、テレビの放送作家としての経験が活きた部分はありますか?

カツオ:とにかく「ネタを出し続ける」という職能的な強みですね。僕はテレビで年間何百本も企画を書き、人生で4000本くらいの企画書を出してきました。ショートドラマは質も大事ですが、まずは圧倒的な量がないと戦えません。打席に立ち続けて、いろんなパターンをテストマーケティングのように試せるのは、テレビとは違うYouTubeの楽しさでもありますし、僕の「弾を撃ち続ける」能力が活きていると思います。

「日本中のショートドラマを紹介するバラエティ番組を作りたい」

ーー一度は別々の道を歩み、再び合流したお二人ですが、当時と今でお互いの印象はどう変わりましたか?

カツオ:当時のカンタくんは、自分が全部正しいと思って必死に足元だけを見て走っているような、いい意味での尖りがありました。でも8年ぶりに再会して、視野の広さが全く違っていたんです。人間としての幅というか、力が全然違う。僕なんて35歳の時と今で人間としての幅はそんなに変わってないのに、彼はこの数年でものすごい成長を遂げていた。しかも、メインチャンネルとは別に、裏で内緒で他のチャンネルを成功させていたりして、その能力の高さに「負けてるな」と悔しさすら覚えました。

カンタ:僕は、当時のカツオさんの印象から意外と変わっていないかもしれないです。当時から僕がどんな状態であっても、見下すことなく優しく接してくれて、根本的に僕のことを面白がって信頼してくれているのを感じていました。だからこそ、またずっと一緒に仕事がしたいと思っていたし、今回またこうしてカツオさんに前を走ってもらえるのが本当に嬉しいんです。

ーー最後に、お二人の今後の展望やモチベーションについてお聞かせください。

カツオ:僕が目指しているのは、まだ誰も到達していない場所に行くことです。例えば「白い基地」の1分のショートドラマが、2時間の映画になること。あるいは、昔の新聞にあった4コマ漫画「コボちゃん」のように、誰もが見るポータルサイトの中に必ず流れる1分の枠としてショートドラマが定着し、それが「白い基地」であってほしい。

 あとは、動物の動画や衝撃映像を紹介する番組のフォーマットで、日本中のショートドラマを集めてスタジオで見守るタレントさんたちがリアクションする、というテレビバラエティ番組も作りたいですね。そうしてショートドラマからスターが生まれて、全く別のIPに派生していくような流れは生まれると思っているので、あとはそのボタンを誰が押せるか。僕はカンタくんや竹中さんという圧倒的な才能に乗っかって、突き抜けていきたいと思っています。

カンタ:僕はこの連載で何度も話していますが、やっぱり今後は”長く残るもの”を作りたいんですよね。そういう意味で「白い基地」のコンビニあるあるなんて、100年後の人が見ても「昔はこうだったんだ」と笑えるかもしれないものだなと思っていて。今後もカツオさんと一緒に「こんなことまでできるんだ」という振り幅の大きなコンテンツを作り続けて、誰も見たことのない景色を見に行きたいですね。

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