KDDI&東急&みずほが“メタバースのルール作り”に注力した理由 キーパーソンたちが語り合う「バーチャルシティコンソーシアム」の歩み

メタバース激動の2022年、水面化で活動していた「バーチャルシティコンソーシアム」
――2023年に「バーチャルシティガイドライン」のバージョン2.0を発表して以降、バーチャルシティコンソーシアムの活動はここ数年、表立ったものは見えていない状況でした。この間の出来事についても教えてください。
川本: バージョン1を発表してからほどなくして、メタバース関連の社団法人などが立ち上がったことや、国の方でも、経産省のほかに、内閣府のメタバース官民連携会議や、総務省でもメタバースに関する研究会が立ち上がりました。
ブロックチェーン技術とメタバースが「Web3」としてひとまとめにして語られることも多く、今でこそ「メタバースはブロックチェーンを使っていなければならない」といった誤解は少なくなってきましたが、当時は多かったように思います。そこで、バージョン1.5は地に足のついた内容を徹底して盛り込みました。「ブロックチェーンは必須ではないが、クリエイターエコノミーの活性化の観点で使える余地はある」や「ただしこういった論点には注意すべきだ」といったようなものです。
さらに、バージョン2.0では、現実の都市、もっと言えば現実空間と仮想空間を連動させるときに考えるべき論点などを盛り込んでアップデートしました。
その後、総務省のメタバース研究会が主導して、メタバースの原則に関する議論が行われています。それらの議論が落ち着いてから更新する方が国の動きとも整合性が取れて良いだろう、ということもあり、バージョン2.0でガイドラインの大幅な更新は止めています。
――つまり、バーチャルシティコンソーシアムとしては現在進行中なものもたくさんあることもあり、表立って取り組んでいることを対外的に言いづらい状況にあったのですね。
川本:そうですね。業界として動き出しているので、総務省メタバース研究会などでの情報提供や、関係者からのヒアリング等の場で個別議論、委員として委員会に参加するといった動きが中心でした。ほぼ毎週のように事務局メンバーで集まって情報共有を重ねているのが、バージョン2発表以降の主だった動きになります。
メタバースを巡る議論・動きで興味深かったものは?
――メタバースと都市をめぐる動きは、今後も大きなものになっていくことが予想されます。このトピックに関する議論やテーマで、みなさんが興味深いと感じたものはありますか?
渡邊:東急の視点では、最初期は「あの看板の商標は~」や「建物の形状は建築家の方の著作なのではないか」など、少し硬めの話が多かった記憶があります。そのあたりについて問題ないものを整理したあと、東急の社内でも関係する都市開発部門やビル運営部門の人間と話したりする中で、徐々に規制よりも利活用へとスタンスが変わっていった印象があります。
阿部:国の動きもある程度活発になりましたが、こちら側の視点では遅れて出てきている印象を受けます。我々が何年か前に検討したものが、整理されて出てきている。それを見ると、ここまでの取り組みは間違っていなかったなと去年は特に感じましたね。
川本:自分が印象に残っているのは、総務書から発表された「メタバースの原則」です。初年度の研究会の報告書などでは「メタバース関連事業者向けガイドライン(仮)の策定」といった文言がありましたが、結果として「原則」として発表されました。特に、いろいろな利害関係者の立場がある中で、国として「メタバースはこの方向に進みましょう」といった方向性を指し示すために、民主的価値を踏まえたメタバースの将来像を示した前文と、メタバース関連サービス提供者を対象としたメタバースの「自主・自律的発展」と、「信頼性向上」に関するぞれぞれの原則として、これまでの議論が集約されたことは非常に大きなことだと思います。共同規制的なアプローチもそうですが、前文や原則の中身もこれまでバーチャルシティコンソーシアムで議論し、発信してきたことが反映されていたように思いますので、これまで取り組んできてよかったなと心から思いましたね。
――実際、総務省が最終的に発表した原則はすごく穏当というか、ベーシックなラインを引き、明文化することでみんなが共通認識を持つという話に終始する資料になっていますね。実際にメタバースを使い、暮らしている人たちや、クリエイター、コミュニティを作っている人たちに価値を見出し、彼らの原理原則から話して決めているのが伝わります。
川本:とてもポジティブなものですよね。「あくまでもメタバースは、こうした項目を共通理解として、自主・自律的に発展していくことを目指しましょう。発展していくためには提供されるメタバース関連サービスの信頼性も重要なので、信頼性を向上するためにはこういうことを守りましょう」といった基本姿勢としての原則と、大前提となる民主的価値や原則の考え方を前文で説明するという構造は、非常に分かりやすい構造です。
あと、メタバースの原則で個人的に印象的なのは、原則の「対象」を明確に定義してることですね。メタバース全般の原則ではなく、「この原則はメタバース関連サービス提供者——プラットフォーマーや、ワールドを作って運営する人が対象」と定義されています。また利害関係者がそれぞれの立場で参照できる共通理解としてメタバース研究会の報告書で明記されていることも感慨深いものでした。メタバースの議論って論点が非常に幅広いので、大きな主語で語られてしまうこともあり、このように原則の対象を明確化するだけでなく、対象ではない利害関係者も参照できる共通理解として位置づけられていることは非常に重要なことです。
そういった意味で、この原則はこの数年でも特に良いと感じたトピックです。今後ガイドラインをアップデートする場合でも、ここからズレないようにしつつ、深掘りしていくのがベストだろうとも考えています。
日比野:私は技術に関心を持って見ていました。VR機器の発展はもちろんですが、人々に広まる速度が速かったなと思っています。かつてVRゴーグルはパソコン売り場の一角にこじんまりと置いてあるだけでしたが、最近は家電量販店でおもちゃコーナーのど真ん中に並んでいますよね。これは人々がVRを受け入れてきた証拠かと思います。「VRゴーグルでしょ、息子もやってるよ」といった反応もありますよね。
一方で、もうちょっと技術的に発展してもよかったんじゃないかなと思っています。私も友達から借りてVRゴーグルを装着することがあるんですが、重くて3時間で頭がクラクラしてくるんですよね。メガネ型くらい軽ければ大丈夫そうですが、まだまだ一般には広まっていません。今後に期待ですね。
阿部:高価なのも普及の足かせになっていそうですね。それと、メタバースはいまやスマートフォンでもアクセスできますが、それが最善なのかはずっと引っ掛かりがあります。
とはいえ、スマートフォンのゲームでも十分没入できるものってあるじゃないですか。だからこそ、視界で没入するのが解とも言い切れないですし、「VRゴーグルが普及する」以外のメタバース発展のカギがあるんじゃないかな、とも考えています。
蓬田:私がバーチャルシティコンソーシアムに入ったのは、バーチャルシティガイドライン2.0のプレスリリースを出すタイミングでした。その前に、KDDIのメタバース「αU」のPR業務を担っていたため、その繋がりでバーチャルシティコンソーシアムに加入するきっかけとなりました。
こうした経緯から、私自身もメタバースはすごく面白い技術だと感じ、今後広がっていくことを期待していましたが、実際、世の中はなかなか追いつかず、どのようにPRするべきだったかを考えることが度々ありました。
そういったこともあり、2023年度はアドバイザーとのディスカッション研究会で、今後のガイドラインをどう打ち出していくべきかをコンソーシアム内で議論していたように思います。
川本:ここ数年はAIブームがすごかったのも大きかったですよね。
蓬田:「メタバースの次はAIだ」みたいな波に飲まれてしまった感はあります。
――AIはたしかに急速に広まりましたが、新たなサービスがローンチされるたびに大きな問題になるケースもあり、ガイドラインなどの打ち手が遅れています。一方メタバースに関しては、バーチャルシティガイドラインなどの打ち手が先にあり、バランスをいい具合に保てている印象です。
川本:バーチャルシティガイドラインにもAIに関するトピックを取り入れようかと検討して議論したこともありましたが、「都市連動型メタバースと直接的に、かつ密接に関係しているわけではないな」と気づき、どう反映するべきかは悩んではいました。
未来への展望、「イマーシブ」という新たなフェーズへ
――最後に、今後バーチャルシティコンソーシアムはどのような場所を目指して活動を展開していくか、未来予想図のようなものがあれば教えてください。
阿部:みずほとしては、ここでの活動は我々の事業領域へ直接リンクするとは限りません。金融に関わる企業として、メタバースがどうなるかは興味のスコープに入っていますし、当然ながら「メタバース上で経済活動がどうなるか」は関与していくべきテーマと考えています。
それを踏まえると、こうした議論の最前線に触れる機会は、我々としても非常に価値のあることだと考えています。今後の関与方針がまだ定まっていませんが、可能限り参加していきたいですね。
渡邊:様々な施設を運営する東急としては、一番今求められているメタバース活用は、海外向けPRだと思っています。いま、海外からの観光客が増えていますが、「思ったのと違うわ」と帰ってしまうことが起こりがちですし、どういう人がいる場所なのか、事前に知ることはなかなか難しい。なので、街や人のことを知るための、事前予習ツールとして活用されたらいいのかなと。
また、東急もいくつか関わってきたものもありますが、施設サイドから提供されるメタバースは、とにかく自分の施設をメタバース化するのだ、と手段と目的が混同されてしまい、集客に失敗するケースが多い気がしています。
なので、どちらかというとユーザーさんが主導して作る世界観を目指していけないとな、という課題感がありますね。「うちの施設のことは(メタバース内であれば)ぶっ壊してもいいから、好き放題使っていいよ」といった積極的に基盤提供するスタンスが、ランドオーナー側の企業に求められる姿勢なのではとそういう世界観を実現していきたいですね。
――川本さんと小泉さんとの対談でも、場所に愛着を持ってもらうための予習ツールとしてのメタバースが話に挙がりました。観光客にあらかじめメタバースで愛着を持ってもらって、その場所をもっと好きになってもらう、ミスマッチがあるならそれを解いてもらう、といった活用は理にかなっていると思います。
川本:観光地から帰った後の復習にも使えますよね。
渡邊:大半の人は頻繁には海外に行けないので、次に来るまでの接点をメタバースに持つことは、街づくりや施設運営に関わる立場として重要だと思いますね。
川本:少し軸は変わりますが、今年の大阪・関西万博も「バーチャル万博」が展開されているのと近いですよね。
蓬田:今や「メタバースといえばKDDI」と一部からお声をいただく中で、メタバースの技術や考え方は、未来において必要な技術だと考えています。なので、今回のバーチャルシティコンソーシアムの活動が、未来に向けて役に立つような活動になれば良いなと思っております。
そうした意味で、世の中がさらに加速し、メタバースがさらに浸透し始めたタイミングでまた検討をするというのも、一つの考えとしてはあるかなと思っています。もちろん、今後全く検討しない、というわけではなく。
川本:まだここにいるみなさんとも相談できてはいないですが、メタバース/都市連動型メタバースの考え方、方向性、可能性は、ある程度まで議論できたと思ってます。
一方で、世の中の注目や、他の流れも踏まえて、どんな議論を行っていくべきかをこのタイミングで再整理することはすごく大事だと思っています。例えば没入型技術/イマーシブと呼ばれている領域について、都市連動型メタバースでの議論で活かせる部分や差分としてはどんな論点があるのかを考えてみることは2025年現在、重要であるように思います。
日本国が掲げる指針「Society 5.0」では、明確に「リアルとバーチャルの融合」が謳われています。去年ぐらいにEUが提示した「Web 4.0」も非常に近しい概念です。Society5.0やWeb4.0を実現していくためには、AIだけではなく、メタバースを含む没入型技術/イマーシブについても地に足の着いた議論を積み上げていく必要があります。
これらを鑑みると、コンセプトや比喩表現として「リアルとバーチャルの融合」と一概にいうのではなく、「実環境と仮想環境の接続・重畳」といった具体的な論点に分解して議論していくべきだと考えています。そしてバーチャルシティコンソーシアムでの議論は、都市という広い範囲でしたが、「実環境と仮想環境の接続・重畳」をする上で、都市連動型メタバースのルールなどをどうすべきかにフォーカスしてきたので、今後もたたき台としての役割は一定担える部分があるのではないかと思います。
また、自分も議論に参加していますが、標準化をどうするのかも課題ですよね。メタバースは領域が広すぎて、アバターなど領域を定めて国際標準に向けた動きが進んでいます。没入型技術/イマーシブ領域の国際標準化やルール整備は、メタバースについて産官学で議論を積み上げてきた今だからこそできる部分も多いとも思います。
こうした議論や活動に参画していくことも、バーチャルシティコンソーシアムの活動になり得るかなと思います。まだアドバイザーや事務局のみなさんには一ミリも相談していない私個人の考えなので、相談しながら進めていきたいところですが(笑)。
――実際、「イマーシブ」は言葉の定義が発散気味なので、「どこまでがそうなのか」を定めることは重要になりそうです。
川本:狭義にはARやVRといった「XR」のことを指していそうですが、広義には「サイバー空間における仮想環境、実空間に仮想環境が重畳した複合環境の没入感を高める技術のこと」で、没入感とは「ユーザー自身がその人工の環境内に存在するかのように感じる状態・ユーザー自身の環世界の組成・周囲の環境がアトムかビット化を意識しなくなること」と個人的には捉えています。そして、イマーシブの議論をXR界隈の人だけで進めるのも事業を進める上では片手落ちになってしまうと思うんです。実空間と仮想環境が接続するユースケースが今後増えていくと思いますので、プラットフォーマーやコンテンツ制作者以外にも利害関係者となる地権者/ランドオーナーや、施設運営者、金融関係者など、様々な立場の人たちが議論に参加し、そしてその意見を集約していく必要があります。
なので、そうした議論ができる場を作っていく重要性も感じています。そして、議論の結果、次はバーチャルシティガイドラインとは異なるもの、イマーシブに関連する標準規格やルールが結果的に生まれているみたいなこともあるかもしれませんね。
――志向的にはやっぱりオープンソース的なのですね。
川本:メタバースの原則がまさにそうだと思うのですが、技術によって生まれた新しい領域では、様々な立場の利害関係者が合意できる共通理解を醸成することが重要だと思っています。共通理解が生まれて初めて自主・自律的発展が行われていくのかと。そのためには、事例を作りながら前提を整理し、「同じ言葉を使ってるのに、違うことを想像している状況」を打開していくことが大切です。バーチャルシティコンソーシアムでの活動でも特に重視してきた共通理解の醸成に、これからも貢献出来たらいいなと考えています。



























