VTuber・天鬼ぷるるの『スト6』自動実況参戦から振り返る、配信文化×格ゲー文化の“幸せな交差”

12月16日、カプコンの格闘ゲーム『ストリートファイター6(以下・スト6)』の自動実況機能に、VTuberである天鬼ぷるるのボイスが追加された。自動実況機能とは、プレイヤーの動きにあわせて実況者・解説者のボイスが流れることで、あたかも多くの人が見ている試合の中継さながらに盛り上げてくれるユニークなシステムだ。
eスポーツキャスター・元朝日放送アナウンサーの平岩康佑やストリートファイター公式イベントでも活躍するアールなどの実況にくわえて、解説者として彼女も並ぶ形になった。
ついに12.16!スト6自動実況機能にぷるるが登場させていただきます!!!😸
みなさんの対戦を全力応援させていただきます!!!盛り上がって高め合いましょう!!!
2025.12.16~2026.3.3までにログインするとぷるるの特別称号もプレゼント!!!ぜひ受け取ってください!!!😻🤍 https://t.co/K4XK51E6x9— 天鬼ぷるる🤍🎀🖤 (@0PuRuRu) December 9, 2025
天鬼ぷるるの声は、どんなに試合でキャラクターが大声をあげていても聞き分けられるくらい個性的だ。「大丈夫か!? ぽまいら!」「めっちゃいいやん!」「掌の上ってことですわー」「うーん、とにかく手を出すか、一旦お茶を濁すか、性格が出そうですねー」など、ひっきりなしによくしゃべる。『スト6』はAIも優秀で、ちゃんと試合の状況にあわせて天鬼ぷるるらしいセリフがバンバン飛び出してくるため、まるで彼女と一緒に遊んでいるかのような感覚を味わえる。
同時に「あ、一旦換気してきます」のような、天鬼ぷるるのファンであればニヤリとするような小ネタもしっかり盛り込まれている。これはかつて、自作防音室の熱気を逃がすために彼女が配信時にたびたび換気をしていたことが由来なのだが、ファンから「換気という名目でタバコを吸っているのではないか」という冗談まじりの疑惑をかけられたこともあって、天鬼ぷるるをいじる鉄板のネタとしてよく使われるワードだ。
また、勝利時の音声として「ハイタニ先生! 勝ちましたよ~!」というセリフも収録されている。これは天鬼ぷるるが『スト6』の師匠として、トッププレイヤーのひとりであるハイタニの教えを熱心に学んでいたことが元ネタ。天鬼ぷるるが彼を尊敬しながら猛練習していたのを配信で見ていた人なら、ニヤリとできるワンシーンだ。
『スト6』から格闘ゲームに本格的に触れはじめた天鬼ぷるる。中でも登場キャラクター・ジュリに特別な思い入れがある彼女は先述したハイタニの元で特訓を重ね、その愛をゲーム内での強さに変えていった経歴がある。彼女の愛と情熱はカプコンにも届き、「ストリートファイター」公式とのコラボ商品として、ジュリと彼女の姿が描かれたTシャツや水筒が販売されたこともあるほどだ。
『スト6』に熱中するVTuberたちの代表として、天鬼ぷるるが『スト6』本体の自動解説に起用されたというのは、かつて接点がほとんどなかった「格闘ゲームシーン」と「VTuberシーン」が深く結びついた象徴ともいえる出来事だ。
格闘ゲーム実況配信の難しさと、『スト6』とゲーム実況との好相性
VTuberを含む現在のゲーム実況シーンにおいて、『スト6』は花形タイトルのひとつだ。先日、にじさんじ・葛葉主催のもと行われた『KZHCUP RUMBLE in STREET FIGHTER 6』は、にじさんじ内のプレイヤーが腕によりをかけて競い合う、いわゆる「箱内イベント」として開催され、多くの視聴者を集めた。決勝戦とエキシビションマッチは『KZHCUP』としては初のリアルイベントで実施されるほどの力の入れようだ。
また、ホロライブ所属の獅白ぼたんが企画する『獅白杯』ではVTuber、ストリーマー、プロゲーマーと幅広い分野のプレイヤーが集結。ランクごとに部門をわけて大会が開かれている。この大会では公募枠が存在しており、『スト6』に力を入れているプレイヤーが参加できたことも話題になった。
かつて、格闘ゲームの実況配信をしているVTuberはあまりいなかった。数あるゲームジャンルの中でも比較的操作の難易度が高い格闘ゲームは、醍醐味である対人戦で“視聴者を楽しませる”というところまで考えると一定程度の練習を求められ、それがハードルになっていたように思う。
しかし、こうした中で登場した『スト6』が、そのハードルを一気に下げることとなる。特に、簡単操作で必殺技やコンボが繰り出せる「モダン」操作というモードが追加されたことは大きい。必殺技が出せない、コンボによる大ダメージが取れない、という初心者の壁はモダン操作によって取り払われ、気軽に遊ぶことができるようになった。もちろん最終的には、モダンであろうとなかろうと関係なく対人の読み合いにはなっていくのだが、対戦をするスタートラインに並びやすくなったというのはシステムとして大きい。
格闘ゲーム未経験の新規プレイヤーが増えたことはもちろん、VTuberによる実況配信が増えた要因は間違いなくモダン操作のおかげだろう。
また事前知識があればあるほど見ていて深みを感じられて面白く、白熱するのが格闘ゲームの良いところだが、特にVTuber本人のファンがちらっと見に来た、というケースの場合、格闘ゲームは前提知識を求められる分、「楽しむ」までの敷居が少し高くなりがちだ。
しかし、『スト6』はゲームの仕組み的に、攻防の流れがわかりやすい作りになっており、この点でも配信文化との相性がよかった。相手の攻撃を受け止めながら逆転に転じられるド派手な演出の「ドライブインパクト」、攻撃を受け止めるテクニカルな「ドライブパリィ」、一気に攻めに転じる「ドライブラッシュ」は、「今どちらのプレイヤーが攻めているのか、守っているのか」ということがビジュアル的にわかりやすい。またこれらのドライブシステムは「ドライブゲージ」を消費するのだが、使い切ると一気にピンチになる(バーンアウト)ため、ハラハラ感も味わえる。
こうして多くの配信者が『スト6』に触れ、配信者を集めたコミュニティ大会が開催されるようになると、今度はプロや上級者が出場するVTuberやストリーマーにコーチングを行う配信が行われるようになる。これによってまた壁がひとつ打破されることとなる。
『スト6』はおろか、格闘ゲームにすら触れたことのないVTuberがプレイをはじめ、プロゲーマーがキャラクター選択から操作の仕方、技の使い方、読み合いのテクニックまで、手取り足取り教えていく様子を配信で見せていく。さまざまなゲームで行われてきたコーチング配信は、『スト6』を何も知らずに見に来たファンにとっても楽しく格闘ゲームの入り口を学べるコンテンツとなる。一緒にキャラクターの動かし方から、格闘ゲームの醍醐味である読み合いの部分まで学び、それをきっかけに『スト6』を遊び始めた視聴者も多かろう。
くわえて、視聴者にとってコーチングや練習配信は、ゲームの仕組みを知る勉強になるだけでなく、VTuberの成長物語というドラマを楽しめる上質なコンテンツでもある。推しのVTuberが努力する姿を見ていれば、おのずと大会に登場したときの応援に力も入るというものだ。
プレイヤーを増やしたい格闘ゲーム界の思い
かつて格闘ゲーム配信が少なかった時期に、元にじさんじの安土桃が『ストリートファイターV』を積極的にプレイし「#にじストV部」を立ち上げたのは、格ゲー業界にとって大きな出来事だった。彼女を中心に、にじさんじのVTuberが『ストV』を部活動のようにプレイ、配信した動きにはカプコン公式も注目し、部員にゲーム内の特別称号を贈呈していたほどだ。
おつ🍑
な、な、なんと~~!カプコンさんににじストV部の称号をいただいてしまいました~~~!!!!!!!!なんてことだ…!!ありがとうございます…!!!!!今日は新キャラや使ったことないキャラをたくさん触りました!たのしかった!!#にじストV部 pic.twitter.com/oCLe5X2rUu— 安土桃 (@momo_azuchi_) August 18, 2021
どんなゲームタイトル・ジャンルでも同じ条件ではあるが、この頃の格闘ゲームは特にプレイヤー人口の問題がとても深刻な時期だった。なにせオンラインでマッチングしないと対戦が成立しない。そのオンラインすらも過疎化しはじめ、誰ともマッチングせず、一人プレイでしか遊べない……なんてこともざらにあるほど(そして、タイトルによっては現在も解消されていない問題だ)。
格闘ゲームプレイヤーの人口を増やすには、ゲームそのものの知名度をあげていくしかない。その点、VTuberとその視聴者層が流入したことは、貴重な活路だった。危機感を抱いていた格ゲー配信者やプロが、喜々としてコーチングを引き受け、懇切丁寧に接していった背景にはそんな事情がある。
同時に、格ゲー配信者やプロたちが喜々としてコーチングをする様子は、既存の格ゲーマーたちにとっても見ていて新鮮な光景だっただろうし、繰り返しになるが完全な新規プレイヤー層が格闘ゲームに触れる門戸にもなったはずだ。
そこから天鬼ぷるるをはじめとしたVTuberのスタープレイヤーが続々と生まれ、『スト6』界隈、ひいては格ゲー業界を底上げする盛り上がりが生まれ続けているのは間違いないだろう。
もしできることならば、その他の数多くある格闘ゲーム、たとえば「鉄拳」シリーズや「ギルティギア」シリーズ、「餓狼伝説」シリーズ」に『グランブルーファンタジーヴァーサス』など、『スト6』をきっかけに他タイトルでも同じような盛り上がりが起きてくれたら。格ゲーファン・VTuberファンみんなで『EVO JAPAN』のような大型大会を楽しむ……なんて未来が訪れるかもしれない。今はまだ難しいのを承知の上で、そんな「幸せな未来」が来てほしいと夢を見たいと思う。





























