ぷにぷに電機を悩ませる“宅録のノイズ問題” 静音PCの導入で起こった劇的な変化とは

ぷにぷに電機の悩みを解決した静音PC

 パソコンの性能が高ければ高いほど安定したパフォーマンスが発揮できるーーそんなことは誰に言われなくても周知の事実だろうが、音楽を制作したり、音声を収録したりするユーザーや、音に敏感なユーザーにとって気になるのがマシン自体から出る“音”だ。

 起動時や高負荷の状態で回るファンの音は、気にならない人にとってはそこまで重要ではないかもしれないが、筆者はかなり気になるタイプだ。それが上述したように音楽や音声の制作を生業にする人にとっては、マイクに乗ってくる懸念があったりと制作に直接的な影響を及ぼすことも否定できない。

 そんな悩みを解決できるパソコンが、この度BTOコンピューターメーカーの@Sycom(以下、サイコム)から登場した。それが「Silent-Master NEO」シリーズだ。同シリーズはサイコム、Noctua、長尾製作所の3社がコラボレーションしたオリジナル静音空冷ビデオカード「Silent Master Graphics RTX5060Ti 16GB」を標準搭載。さらに高スペックを望むユーザーは同モデルのさらにハイエンドな製品に変更することも可能だ。

 今回は直近でパソコンに関する悩みを抱えていたシンガー・音楽プロデューサーのぷにぷに電機に同モデルを使用してもらい、究極の静音性やスペックの高さをレビューしてもらったほか、ぷにぷに電機にとっての創作論・ハードウェアやパソコンに対する価値観についても聞いた。(編集部)

“限界DTMer”の活動から抜け出せた『Silent-Master NEO Z890 Mini』の凄み

ぷにぷに電機

ーーまずは、ぷにぷに電機さんがどのようなスタイルや制作環境で楽曲を作ってきたかを聞かせてください。

ぷにぷに電機: 最初はオンラインゲーム用に使っていたパソコンにDAW(Cubase)を入れて作曲を始めました。制作スタイルでいうと、当初から今でも使っている手法は「Band-in-a-Box」という自動演奏ソフトで曲を組み上げて、それをCubaseで編集する、という流れです。ときには気にいった演奏がなかなか出てこず、何回も演奏してもらったりして。私はこれを「リセマラ」と呼んでいます(笑)。

ーーゲームの最初に行いがちな「リセットマラソン=リセマラ」からきているわけですね(笑)。良いテイクが出たあとはどのようにエディットするのでしょうか。

ぷにぷに電機:「Band-in-a-Box」は自動でピアノやギター、ドラムのステム(トラックごとの音源)が書き出せるので、それらの楽器ごとに細かい調整を行う感じですね。そこからデータをアレンジャーさんにお渡しして、アレンジが上がってきた楽曲を元に本レコーディングを行い、宅録(自宅でのレコーディング)でボーカルを録ってミックス、という流れです。仮歌はデモを渡す前に入れておきます。

ーーDAWは初期からずっとCubaseを使っているのでしょうか。

ぷにぷに電機:最初からCubaseです。ネットでたまたま知り合った友人に「DAW何使ってるの?」と聞いたら「Cubaseだよ」ということだったので、その子に教えてもらう前提でCubaseを使うようになりました。最近はAbleton Liveも使い始めました。ライブでのパフォーマンス時やデモを作る際などに直感的な操作をしたい時に立ち上げています。

ーーちなみにSpliceなどのストックサービスを使わずに、あえて自動演奏の「Band-in-a-Box」を使っている理由とは?

ぷにぷに電機: 私はどうしてもジャズ畑出身なので、コード進行にかなり凝ってしまうタイプで。そうなるとループ素材では対応しきれないところが出てくるんですが「Band-in-a-Box」はジャズに強い自動演奏ソフトなので、複雑なコード進行にも対応できるんです。 最近作っている曲はUKロックなのですが、susコードやオンコードなども出てくるんですよ。それが自分に合っているなと。

ーーすごく便利ですね。自分も使ってみたくなりました……。制作環境の変化についてですが、最初はデスクトップPCで始められて、ここ数年はノートPCでの制作も増えたとお聞きしました。

ぷにぷに電機: 最初はデスクトップPCで始めたんですが、セッションの機会が多くなってきたので、3年ぐらい前からノートPCを持つようになり、それで制作することも増えました。ただ、ノイズの対策がすごく大変で……。

ーーといいますと?

ぷにぷに電機: ノートPCがちょっと特殊なモデルで、外付け水冷ボックスのついたゲーミングPCだったんです。もちろん水冷ボックスを稼働している間は書き出しも早かったのですが、ボックスのファン自体が動くので、録音をしようと思うとその音がノイズになってしまったんです。なので、レコーディングの際は毎回、マイクチェックをしてRECボタンを押す前に水冷ボックスの電源を切って、ファンが止まったのを確認してから歌うようにしていて。そうすると本体のファンに冷却を頼ることになるので、しばらく録っているとPCが熱くなって「すーっ」と回り始めるんですよ。

ーー今度はそっちのノイズが入ってしまう……。

ぷにぷに電機:そうなんです。なので一度レコーディングを中断して、水冷ボックスのスイッチを入れ、ファンを最大で回すファンブーストモードに切り替え、スタジオとして使っている防音室のドアを開けて、強力な冷房をつけて物理的にPCを冷やす、という作業が発生していて……本当に“限界DTMer”みたいな録り方をしていました(笑)。

ーーノッてる時でもそれで中断されてしまうかもしれないと思うとかなりのストレスですね……。そんななかで今回『Silent-Master NEO Z890 Mini』を導入されましたが、制作環境はどのように変わりましたか?

ぷにぷに電機:静音PCであることを大々的に謳っていることもあって、ノイズの問題が劇的になくなりました。今までのパソコンのノイズ対策が何だったんだろう、と感動するほどです。先ほどお話ししたような作業をしなくても良くなったので、物理的な中断がなくなって、好きなだけ集中して録れる。これは本当に大きいです。

ぷにぷに電機が使用した『Silent-Master NEO Z890 Mini』の構成一覧

CPU:Intel Core Ultra 9 285 [3.7GHz/24コア(Pコア8+Eコア16)/Xe LPGグラフィックス/TDP125W]
ケース:【黒】CoolerMaster Silencio S400+前面ファン [Noctua NF-A14 FLX]+背面ファン [Noctua NF-S12A FLX]
CPUクーラー:Noctua NH-U12S [空冷/CPUファン]
マザーボード:GIGABITE Z890M AORUS ELITE WIFI7 [Intel Z890chipset]
メモリ:96GB[48GB*2枚] Crucial Pro DDR5-5600 [メジャーチップ・8層基板・ヒートスプレッダー付き]
ストレージ:Crucial T500 CT2000T500SSD8 [M.2 PCI-E Gen4 SSD 2TB]
グラフィックスカード:GeForce RTX5070Ti 16GB Sycom製Silent Master Graphics RTX5070Ti 16GB [HDMI*1/DisplayPort*3]
電源: ASRock Steel Legend SL-850G [850W/80PLUS Gold]ATX3.1(PCIe5.1)ネイティブ対応電源
OS:Microsoft(R) Windows11 Home (64bit) DSP版
URL:https://www.sycom.co.jp/custom/model?no=001009&cd=H6vNNARUh3Gvmnjc

ーー先ほど防音室というワードも出ましたが、自室にコンパクトなものを入れているのでしょうか?

ぷにぷに電機: そうです。私は1.5畳タイプのものを使っているのですが、都市部に住まれている音楽家の方はそのような形が多いと思いますし、住環境から来るハードウェア的な悩みを聞くことは少なくありません。部屋を静かにすればするほど、マシンのノイズや換気扇、クーラーの音などが気になってくるんです。クーラーや換気扇はREC時に止められますが、マシンは電源を切るわけにはいかないので、そこから逃れられない。その逃れられないノイズが静音PCにして解消されるというのは、ベーシックに録った音の品質が上がるということなので、本当に捨てがたい性能だと思います。

ーーその他のパフォーマンスの部分、読み書きの速度などはいかがでしたか。

ぷにぷに電機: めちゃくちゃ早いです。体感で何倍というのは難しいですが、私が間違えたのかなって思うぐらいです。例えばCubaseでボーカルステムを書き出すとき、メインラインが2つに分かれていて、ダブルもあり、上下のコーラスが2本ずつあって、7本ぐらいのボーカルステムを書き出す時でも「ヒュッ」って一瞬で終わるんです。「ステレオ書き出しにしたっけ?」と思ってしまうぐらい、複数のファイルのレンダリングが爆速でした。

ーー以前はノートPCを使われていたのに対し、今回はタワー型(デスクトップ)にされましたが、そのあたりの変化は問題なかったでしょうか?

ぷにぷに電機: 私は机の上にマイクを立てて歌うので、ノートPCだとマイクとPC本体の距離が近くなって、ノイズが入りやすいというデメリットがありました。タワー型だとデスクの下に置けるので、マイクとPC本体の距離が取れるというのも良いポイントでしたね。

ーー様々なソフトを同時に立ち上げたり、ブラウザを見ながら作業したりと、複数のソフトを同時に使う上でのストレスはいかがでしたか。

ぷにぷに電機: 本当にストレスフリーです。特に特筆すべきは、やはり映像編集のスムーズさだと思います。私たちのようなインディペンデントアーティストは、音楽を作るだけでなく、プロモーションするための動画を作ったり、字幕を入れたり、ロゴを貼り付けたりといった作業をしなくてはいけない。その時はPremiere Proを立ち上げながらIllustratorやPhotoshopを開いて素材を探すみたいなことをするのですが、その時にカクつくこともないですし、映像のレンダリングも爆速ですから。めちゃくちゃありがたいです。

ーーマルチなクリエイティブをする立場だからこそ享受できるメリットも大きいわけですね。

ぷにぷに電機: 映像編集は楽しいですが、音楽家が本来やる仕事ではないですからね。そういうプラスアルファのクリエイティブが早く終わるというのは、年間トータルで見たらかなりの時間を効率化できているんだろうなと思います。レンダリングを待ってる間って「無の時間」ですからね(笑)。

ーーAdobe系のツールの名前も出ましたが、最近はAI機能を強化している一方で、マシンに必要なスペックは上がっていますからね。

ぷにぷに電機: そうなんです。そういう機能を使う時も「スッ」と処理が終わるんです。音楽制作においても、ここ数年でAIを制作現場で取り入れることが非常に多くなったので、ハイスペックな処理能力は必須になっているのだろうと感じます。

ーー制作現場で使うAIというと、いわゆる作曲AI的なものではなく、AIマスタリングやAI系のノイズリダクションなどですかね?

ぷにぷに電機:はい。そういったAI系のプラグインやDAWソフトの一つの機能としてAIを使って作業を短縮したり、処理を最適にするものが増えてきたんですけど、その一方でマシンへの負荷は上がっていますね。

「宅録をしている人たちにめちゃくちゃ勧めたい」

ぷにぷに電機(撮影=稲垣謙一)

ーー本体メモリが96GB、ストレージ(SSD)が2TB(Gen4)とハイスペックな構成です。このあたりは実際に使用してみてどのように感じましたか?

ぷにぷに電機: 内蔵ストレージを2TBにしてくださっているのですが、先ほど挙げた「Band-in-a-Box」はライブラリを外付けのディスクにしてしまうと生成のラグがかなり発生してしまうので、かなりありがたいです。ほかにも、音楽制作時にレコーディングの元ファイルやプロジェクトファイルは、必ず内蔵ストレージに入れておかないと、ラグや止まってしまう原因になるんです。いまは7曲くらいを同時に進行しているのですが、そういう時はどんどんプロジェクトファイル自体が重くなっていくので、内蔵ストレージとRAMが強いと本当に心強いです。

ーー現在7曲同時進行とのことですが、これはご自身の曲やコライト(共作)など、様々な形態で進んでいるのでしょうか。

ぷにぷに電機: そうです。結構ジャンルが多岐にわたる感じで、昨日はUKロックをレコーディングしたし、今日はジャズ、みたいな。

ーーぷにぷに電機さんの活動はキャリアを重ねるごとにどんどんジャンルレスになっていっている印象があり、特に最新アルバムの『株』にも顕著に出ているように思えます。それは意識的にやられているのでしょうか。もしくは自然とそうなっているのでしょうか。

ぷにぷに電機: 意識的ではないです。個人的なことを言うともっとバキバキのものーー「なんだこれ!?」と思われるような音楽を本当はやりたいんですが、ありがたいことにたくさんの方に知っていただいて、みなさんの中に共通した「ぷにぷに電機の音楽」が出来上がってきている感じがしているので……。特にフィーチャリングで呼んでいただける時には「ぷにぷに電機のこの部分が欲しい」というものがあるので、そこにある程度応えつつも、少し期待を裏切るような遊びを入れるようにはしています。その反動というわけではないですが、自分のプロジェクトではぶっ飛んだことをやりたいと思っています。

ーーその「ぶっ飛んだこと」の一端が、バラバラのジャンルの曲を作ることでもあると。

ぷにぷに電機:そうかもしれません。でも、基本的には飽き性なので……ハードな音楽をやってるとそのうち飽きて「R&Bがもう最高です」みたいな日も必ず来るんです。そういう時には「じゃあそういう曲を作ろう」と自分の気持ちに素直にやれていますし、これからもそうしていくんだろうなと思っています。

ーー最新の制作環境が手に入ったことで、今後具体的にやってみたいことはありますか。

ぷにぷに電機:先ほど話にも出ていたAIを使ったプラグインなどを色々と使ってみたいと思います。Cubase内のプラグイン、例えばiZotopeのNectarなどもリアルタイムで読み込ませてオートレベルにしたり、オートでピッチ調整やコンプレッサーをかけたりできるんですけど、結構重いのがネックだったので、このタイミングからガンガン使うかもしれません。同時に何本AI系のプラグインを挿せるか実験してみたいです(笑)。あとは映像をこれだけストレスフリーで作れるなら、SNSなどに載せるちょっとしたプロモーションビデオみたいなものもたくさん作りたいですね。

ーーボーカル処理をリアルタイムでAIが、というのは面白そうですね。

ぷにぷに電機: とはいえ、AI技術にも現段階での限界はあって。特に私の声は息の成分が多い中音域の声なので、実はAI処理にあんまり向かないんですよ。AIのイコライザーやボーカルソフトを使う時というのは、基本的には割とスタンダードな高いハイトーンの女性の声であるとか、エモーショナルな男性の声みたいなものが一番よく合うんです。私はそのどちらのプリセットにもあまり合わないタイプなので、それは今後のAIの発展に期待という感じですね。

ーーケースやデザインについてはいかがでしょうか。

ぷにぷに電機: これまでゲーミングPCを使っていましたが、「なんで光るんだろう……」と思っていたタイプなので、逆に光らずに落ち着いていていいなと思いました(笑)。

ーー今回のPCを音楽仲間やボーカリストの方におすすめするとしたら、どんな点をアピールしたいですか。

ぷにぷに電機: ボーカリストやギターリストなど、宅録をしている人たちにめちゃくちゃ勧めたいと思います。みんなパソコンのノイズに困っていて、大体ノイズリダクション(ノイズを消す別のアプリ)をかませるのですが、それだと音質自体が変わってしまったりするので……。いつも「録音はどこのスタジオを使ってますか」と聞かれるのですが、そういう時に「このPCがあったら家で録れるよ」と紹介したいですね。

 あとは歌っている方や、声のお仕事をしている方、ゲーム実況の方など、静かなPCを求める人たちにとっては“神PC”だと思います!

ぷにぷに電機が使用した『Silent-Master NEO Z890 Mini』の構成一覧

CPU:Intel Core Ultra 9 285 [3.7GHz/24コア(Pコア8+Eコア16)/Xe LPGグラフィックス/TDP125W]
ケース:【黒】CoolerMaster Silencio S400+前面ファン [Noctua NF-A14 FLX]+背面ファン [Noctua NF-S12A FLX]
CPUクーラー:Noctua NH-U12S [空冷/CPUファン]
マザーボード:GIGABITE Z890M AORUS ELITE WIFI7 [Intel Z890chipset]
メモリ:96GB[48GB*2枚] Crucial Pro DDR5-5600 [メジャーチップ・8層基板・ヒートスプレッダー付き]
ストレージ:Crucial T500 CT2000T500SSD8 [M.2 PCI-E Gen4 SSD 2TB]
グラフィックスカード:GeForce RTX5070Ti 16GB Sycom製Silent Master Graphics RTX5070Ti 16GB [HDMI*1/DisplayPort*3]
電源: ASRock Steel Legend SL-850G [850W/80PLUS Gold]ATX3.1(PCIe5.1)ネイティブ対応電源
OS:Microsoft(R) Windows11 Home (64bit) DSP版
URL:https://www.sycom.co.jp/custom/model?no=001009&cd=H6vNNARUh3Gvmnjc

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