近年の恋リアのトレンドは「心理戦・マウント」にあり? 『ラブトランジット』『隣恋』などから読み解く

近年の恋愛リアリティーショー、いわゆる“恋リア”の盛り上がり方を見ていると、ただ恋の行方を追うだけでなく、「心理戦」や「マウント」に注目が集まる傾向が、よりはっきりしてきたと感じる。揉め事や嫉妬、張り合いといった要素はもともと恋リアの名物だったが、今はそれが番組のスパイスにとどまらず、視聴の中心に据えられるようになってきた。
その熱気は、SNSを覗けばすぐにわかる。放送直後には名シーンの切り抜きが一気に広まり、「この表情はどういう意味?」「今の言い方、ちょっと引っかかる」と、考察や感想が次々と投稿されていく。誰が誰をけん制していたのか。誰が場の空気を握っていたのか。恋の勝ち負け以上に、そうした“空気の読み合い”が、今や大きな見どころになっているのだ。
恋リアがここまで支持されている理由の一つに、コンテンツそのものが「感情を言葉にしてくれる存在」になっている点がある。番組の中で起こるマウントや心理戦は、決して特別な世界の話ではない。職場や学校、友人関係の中でも、「あの言い方、なんだか引っかかる」「理由はわからないけど居心地が悪い」と感じる瞬間は誰にでもある。ただ、それをうまく言葉にできる場面は意外と少ない。
恋リアというコンテンツは、そうした“名前のつかないモヤモヤ”に形を与えてくれるのだろう。画面の中のやり取りを見て、「自分が感じていたのはこういうことだったんだ」と腑に落ちる。SNSを開けば、同じ場面に同じ感情を抱いた人の言葉が並んでいる。自分ひとりでは言語化できなかった違和感が、誰かの言葉でくっきりと輪郭を持つ。その感覚こそが、今の恋リアの中毒性なのかもしれない。
恋リアといえば、これまでは女性を中心に人気を集めるジャンルという印象も強かった。だが最近は、カップルや夫婦で一緒に観るという声も珍しくなく、パートナーや友人と感想を交わしながら楽しむ視聴スタイルも広がっている。視点が異なるからこそ、同じシーンでも受け取り方が分かれ、自然と会話が生まれる。恋リアは今や、一人で完結する娯楽から、誰かと語り合うコンテンツへと変わりつつある。
その流れを象徴する存在の一つが、元恋人同士が再び向き合い、新たな恋と過去の関係のあいだで揺れ動く姿を描く恋愛リアリティーショー『ラブトランジット』(Prime Video)シリーズだ。参加者たちは“元恋人”という特別な関係性を背負ったまま共同生活に臨み、復縁か、新しい恋かという選択を突きつけられる。
その中でも特に話題を集めたのが、シーズン3で見せたミクの立ち振る舞いだった。元カレ・イッセイから想いを寄せられながらも、新しい恋に積極的に向かい、他の女性メンバーに対しても自信を崩さない姿勢は、放送のたびに大きな注目を集めていった。
興味深いのは、ミクの振る舞いに向けられた反応が、マウントという観点でも大きく割れていた点だ。「自分の魅力をわかっていて憧れる」「堂々としていてむしろ清々しい」と受け取る声がある一方で、「他の女子を牽制しているように見える」という声もあがっており、ミクの言動は毎話のように大きな話題を呼んでいった。
こうしたマウントや張り合いは、さまざまな恋リアで見られる光景だが、現在放送中の『隣の恋は青く見える -Chapter TOKYO-』(ABEMA/以下、『隣恋』)第5話は、その空気がとりわけ濃く立ち上がった回だった。結婚のタイミングをめぐって微妙な温度差を抱えるサヤカとダイシロウが、「公認浮気」というルールのもとで共同生活に参加する本作。すでに関係性のある二人のあいだに、ダイシロウへ真っ直ぐな好意を向けるアイラがどう入り込んでいくのか。
12月7日放送の第5話では、その緊張感がいっそうくっきりと表に出た。アイラが「今はダイシロウくんのことしか考えていない」と迷いなく気持ちを打ち明ける一方で、元カノであるサヤカは「まだ100パーセント応援できない」と率直な本音を隠さない。
12歳差とあって、年齢も考え方も違う2人。サウナという逃げ場のない空間で感情をぶつけ合うやり取りは、張りつめた空気に包まれながらも、どこか潔く、観る側の視線を強く引きつけた。感情がむき出しになるからこそ、そのやりとりはエンタメとしての張りを持ち、次の展開を思わず追いかけたくなってしまう。
また、見届け人の前田敦子が「二人は仲良くなるんじゃないかな」と語ったように、激しく感情をぶつけ合った関係が、この先まったく別の関係性へと変わっていく可能性まで示されている点も、本作に独特の奥行きを与えている。実際、アイラはダイシロウから「恋愛対象ではない」とはっきり告げられたあと、一度は涙を見せながらも、「最強の女になる」と前を向く。その姿には、ただ傷ついて終わるのではなく、自分の気持ちを受け止めて立ち上がろうとする強さがにじんでいた。
マウントの応酬と聞くと、どうしてもギスギスした空気ばかりを想像しがちだが、そこには同時に、普段は飲み込んでしまう本音をぶつけ合うからこその“スカッとした後味”もある。ぶつかり合ったからこそ見えてくる感情の整理や、関係の次の形。そのプロセスまで含めて描かれる点は、『隣恋』ならではの魅力だ。
かつて恋リアの最大の魅力は、「胸キュン」や「恋の成就」にあった。だが今、視聴者が強く引き寄せられているのは、その途中でむき出しになる感情や、言葉の端々ににじむ迷い、そして目に見えない主導権のせめぎ合いなのだろう。
ぶつかり合い、張り合い、ときに傷つきながらも前へ進もうとする姿が、恋の結果そのもの以上にドラマとして求められている。だからこそ『隣の恋は青く見える -Chapter TOKYO-』は、いまの恋リアの空気を最も鮮明に映し出す一作として、強い存在感を放っているのではないだろうか。
さまざまなカップルのドラマを映してきた『隣恋』も、いよいよ後半戦へと突入する。恋の行方はもちろん、激しい“マウント合戦”を経たサヤカとアイラの関係がこれからどんな形に変わっていくのか。そしてダイシロウを軸にした3人の関係が、どんなドラマへと転がっていくのか。その先を見届けたいという期待は、ますます大きくなっていく。
























