『メトロイドプライム4』はもっと盛り上がるべき作品だ 『メトロイド ドレッド』と対照的だった事前展開を考える

2017年6月の初報から実に8年以上。ついに『メトロイドプライム4 ビヨンド』がNintendo Switch、Nintendo Switch 2向けに発売を迎えた。
この作品の発売をかねてより待ち望んでいた筆者がいま抱いている思いは、「ようやく新作を遊べる時が来た!」という喜び……もあるのだが。
「なぜ、これほど静かな発売を迎えることになってしまったのだろう?」という侘しさの方が強い。
実に17~18年越しの完全新作だが……
任天堂の探索型2Dアクションゲーム『メトロイド』のフル3D作品である『メトロイドプライム』は、主人公サムス・アラン当人の視点(一人称視点)で敵と戦ったり謎を解いていく「ファースト・パーソン・アドベンチャー(FPA)」なるゲームだ。

プレイヤーがあたかもその場に立っているかのような高い没入感と、迷路のような広大な空間を練り歩いていく「メトロイド」特有の遊びが高度に融合した作りが特徴。なかでも2002年(日本では2003年)発売の第1作は、全世界284万本(※1)を超える大ヒットを記録し、以降、外伝や番外編を含むシリーズ作品が多岐にわたって展開されていった。

今回の『メトロイドプライム4 ビヨンド』は、外伝作品の『メトロイドプライム フェデレーションフォース』を除く正統続編としては2007年(日本では2008年)の『メトロイドプライム3 コラプション』以来、17~18年ぶりの新作になる。
そんな“満を持して”な背景を持つ作品であるなら、発売直前には積極的かつ熱気ある広報が展開されるのが期待されるところだろう。
実際に本作は、任天堂の公式情報番組「ニンテンドーダイレクト」での複数回ピックアップを始め、キャラクターフィギュア機器「amiibo」3種の発売といった施策が展開されている。

特に「amiibo」については、ゲームソフトに先んじて3種のうちの2種を発売。同商品の過去の傾向から見ても珍しい取り組みで、一定の注目を集めた。
しかし……である。2021年、『メトロイド ドレッド』発売時の広報展開を思うと、今回は対照的と言えるほど、大人しいものになってしまっている。
「メトロイド」未経験者へも強く訴える施策が異彩を放った『ドレッド』の広報戦略
『メトロイド ドレッド』は、「メトロイド」シリーズの原点たる横スクロール型の作品で、2021年10月にNintendo Switch向けに発売。こちらも18~19年ぶりの完全新作という、『メトロイドプライム4 ビヨンド』と極めて近い背景を持っていた。

そんな『メトロイド ドレッド』の広報展開は驚くほど積極的かつ熱気を帯びていた。公式WEBサイトの10回以上におよぶ発売前の定期更新を筆頭に、初報2ヶ月後に紹介映像第2弾の公開、発売直前の特別配信企画「バウンティーハンターチャレンジ」の実施など、様々な施策を展開していったのだ。
特に「バウンティーハンターチャレンジ」はHIKAKIN氏を始めとする著名YouTuberのほか、VTuberも参加するというインパクトから大きな注目を集めた。
さらに「メトロイド」シリーズを全く知らないプレイヤーに向けた過去シリーズ案内、俳優の仲野太賀氏と落合モトキ氏が出演するテレビCMの放送などの施策を実施。ほかに今回の『メトロイドプライム4 ビヨンド』と同じく、独自amiiboの販売なども行われたのだ。

長年、「メトロイド」シリーズを追いかけている筆者としても、当時の熱を帯びた宣伝には大変驚かされた。同時に、あれほど「メトロイド」が盛り上がりを見せた光景は非常に感慨深いものがあった。その甲斐もあってか、同作は2022年時点で国内27万本(※2)という、日本では伸び悩みがちの「メトロイド」シリーズとしては健闘した結果を残すに至っている。
それゆえ今回の『メトロイドプライム4 ビヨンド』でも、似た施策が打たれるのだろうかと期待していたのだが、結果は現実の通りである。
なぜ『メトロイド ドレッド』の広報はああも積極的だったのか? 筆者は「過去作を知らなくても楽しめる」とのメッセージを打ち出しやすい強みを持っていたのがあると考える。

特に『メトロイド ドレッド』の象徴的存在たる強敵「E.M.M.I(エミー)」は、「メトロイド」シリーズの未経験者でも強い関心を誘う“キャッチーさ”が際立っていた。具体的にはプレイヤーを執拗かつ陰湿に追跡してくる不気味さ、その上で追いつかれてしまうと一撃必殺(即ゲームオーバー)となる特徴のことだ。
その魅力は「バウンティーハンターチャレンジ」の企画でも存分に発揮され、挑戦者がその恐怖に翻弄される様は、視聴側も楽しんで見入ってしまうものがあった。同時に「数十年ぶりの続編」で完結しない個性としても働き、「過去作を知らなくても楽しめる」とのメッセージをより強固に伝えてもいた。
『メトロイド ドレッド』というタイトル名も強みのひとつだろう。実は同作には『メトロイド5』という別名義もあるのだが(※3)、それは初報時の映像冒頭での紹介に留めており、以降の宣伝では強くアピールしていない。
▲この初報時の映像(8秒~12秒)にのみ「メトロイド5」の名が出てくる。
ゆえにナンバリング特有の未経験者が抱きやすい心理的抵抗感も軽減され、前述のメッセージの強化へと繋がってもいたのだ。
ハードルの高さを抱きやすい要素の存在と、初報から待たされすぎた反動……?
以上のことを踏まえると、『メトロイドプライム4 ビヨンド』は「4作目」というナンバリング自体が未経験者に対する高いハードルとなっているのは確かだろう。「前作までのストーリーを把握していないと楽しめないのでは?」との不安を増幅させる要素として機能してしまっているのは否めない。
実際は11月28日掲載の任天堂公式サイトのトピックス記事(※4)にある通り、今回描かれるストーリーは新しいもので、過去3作の経験は必須ではない。

というのも、前作の『メトロイドプライム3 コラプション』では、第1作から続けて描かれていた「フェイゾン」なる危険な物質を巡るストーリーが完結を迎えている。次の作品からは過去3作とは異なる、新しいストーリーになることが確定していたのだ。
だがいかんせん、その情報を公開するタイミングが遅すぎた。発売一週間前である。さすがにこのタイミングでは、本作に関心を抱いているシリーズファン以外への広まりも見込みにくい。『メトロイド ドレッド』が初報より1ヶ月半以内の2021年8月6日時点で過去作のおさらいを公表していた(※5)のと比べれば差は歴然だ。結果として、未経験者への分かりやすさを欠く事態を引き起こしてしまっている。
「なぜ4のナンバリングを冠しているのか?」「主要な敵とされるサイラックスは何者なのか?」などの情報は、発売日が確定した後から小出しにしていく必要があったのではないのだろうか?(なお、サイラックスについて、リアルサウンドテックでは以下の記事で解説している)
サイラックスとは何者なのか――『メトロイドプライム4』発売前に振り返る、シリーズの過去と布石
長らく、Nintendo Switch向けに開発中となっていた『メトロイドプライム4』こと、『メトロイドプライム4 ビヨンド』が…本当に『メトロイド ドレッド』の時を思うと、対照的すぎるほど今回の広報は熱気がない。ただ、「メトロイド」は日本よりも海外で人気が高いタイトル。ゆえに今回は海外での宣伝に注力したのだ……と思うところだが。海外もSNS、Nintendo Switch本体のゲームニュース向けに短い動画やアナウンスを都度公開している以外では日本と差がない。

この異様に静かな背景には、商機の喪失も響いているのかもしれない。本作は初報から約2年後の2019年に開発体制を見直し、1から作り直すという大規模な仕切り直しが実施された。
その影響とコロナ禍の混乱を経て、8年以上後の2025年に発売となったわけだが、気がつけば供給先のNintendo Switchは、後継のNintendo Switch 2へと代替わり。それに伴い、多くの大型独占タイトルの投入と宣伝が展開されている。
一応、本作もNintendo Switch 2版が発売されはするが、次世代への移行期というのは、独占タイトルに予算と宣伝リソースが当てられやすい。それは11月20日に発売を迎えた『カービィのエアライダー』の盛り上がりや、宣伝が再開された『ドンキーコング バナンザ』が物語る通りである。
これに加え、作中に『メトロイド ドレッド』のような未経験者を惹きつける要素と話題も不足している。追いつかれば一撃必殺というキャッチーさを持つE.M.M.Iに対して、サイラックスは『メトロイドプライム ハンターズ』(2006年 ニンテンドーDS)での初登場以来、満を持しての本編参戦であり、既存ファン以外には刺さりにくい。複数名の銀河連邦兵がサムスと行動を共にする要素もまた然りだ。

そこにナンバリングが「ハードルの高い続編」の印象を際立たせてしまうのも無理はなく、控えめな広報展開を生んでしまったのだろう。一連のことを踏まえれば自然な流れではある。
とは言え、筆者としてはようやく発売される新作がこれほど盛り上がらないまま出ることになってしまったのは素直に寂しい。『メトロイド ドレッド』が異例のケースだったから元に戻っただけ……にしても、「もう少しやれることがあったのでは?」と思ってしまう。

だが、盛り返せるチャンスはある。現状ではハンデが大きいが、発売後のプレイヤーの声がすべてを変える鍵になる。あとは、中身で覆すしかない。
既に筆者も製品版を購入し、本編を進めている真っ只なかにあるが、すべてにひと区切りがついた時、推したい思いが高まる仕上がりになっていることを祈るばかりだ。そして、かの名キャッチフレーズが頻繁に流れてくることも。
そのフレーズとはズバリ「メトロイド オモロイド」だ。
参考
※1 https://www.nintendolife.com/news/2022/05/its-official-metroid-dread-is-the-best-selling-game-in-the-metroid-series
※2 https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2022/220510_6.pdf
※3 横スクロールの「メトロイド」シリーズは『スーパーメトロイド』(1994年 スーパーファミコン)からタイトルのナンバリングが廃されているが、本編のオープニングデモにおいてナンバリングの別名義が表示されるという演出がある。ちなみに『スーパーメトロイド』が『メトロイド3』、『メトロイドフュージョン』(2003年 ゲームボーイアドバンス)が『メトロイド4』である。
※4 はじめて「メトロイドプライム」を遊ぶ方へ。シリーズの歴史から『メトロイドプライム4 ビヨンド』のポイントまで一挙にご紹介。
https://www.nintendo.com/jp/topics/article/ed98179e-b57e-4ae8-8ac5-3cdc5d721661
※5 メトロイド ドレッド レポート Vol.04 シリーズ35年のストーリーを紐解く
https://www.nintendo.com/jp/switch/ayl8a/report/vol4/index.html
























