『メトロイドプライム4』の発売が近づくいまに思う、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』という薄幸の意欲作

「メトロイドプライム」の“薄幸”意欲作

 詳細な発売日は本記事執筆時点で不明なものの、『メトロイドプライム4 ビヨンド』(以下、メトロイドプライム4)の発売を告げる足音はゆっくりではあるが、近づきつつある。

メトロイドプライム4 ビヨンド [Nintendo Direct 2025.3.27]

 日本では2003年に発売された『メトロイドプライム』は、探索型アクションゲームの金字塔『メトロイド』初の3D作品として発売。特殊なバイザーを介した本ゲームの主人公、サムス・アラン(以下、サムス)の視点で敵と戦ったり、行く手を阻む仕掛けを解き明かしていくファースト・パーソン・アドベンチャー(FPA)なるジャンルを打ち立てた。

 「メトロイドプライム」シリーズは3作目の『メトロイドプライム3 コラプション』をもって完結。それから十数年後の2017年、ナンバリング新作『メトロイドプライム4』がNintendo Switch向けに開発中と発表。そこから2019年1月の開発体制の見直しを挟んだ影響もあり、初報から実に8年が過ぎてしまったが、いよいよ遊べる時が来るようだ。

『メトロイド ドレッド』(Nintendo Switch)

 この8年の間、「メトロイド」シリーズは活気あるタイトルになった。とりわけ2021年発売の『メトロイド ドレッド』が、世界累計300万本を超えるシリーズ最高の売上を達成したのはその象徴とも言えるだろう。

 逆に8年前……『メトロイドプライム4』が発表される前の時点での「メトロイド」には活気がなかった。前年の2016年に発売されたシリーズ作のひとつが「メトロイド」の未来に暗い影を落としてしまったためだ。

 その作品というのが『メトロイドプライム フェデレーションフォース』(以下、フェデレーションフォース)である。

これ以上ないほど最悪のタイミングで投入されてしまった“異端”の新作「メトロイド」

 『フェデレーションフォース』は2016年8月25日にニンテンドー3DS向けに発売された、「メトロイドプライム」シリーズの一作。プライムの名を冠している通り本作は3D作品で、『メトロイドプライム』と同じく1人称視点を採用している。

 初報があったのは2015年の6月、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたゲーム見本市「E3」でのことだ。当時としては、2010年発売の『メトロイド アザーエム』から5年ぶり、「メトロイドプライム」シリーズとしては7~8年ぶりの新作でもあった。

 しかし、本作は熱心なファンを特に多く抱える海外で炎上する事態となってしまった。

 なぜ、待望の新作でありながらそんな事態に至ったのか? 考えられる理由は2つある。

『メトロイドプライム リマスタード』(Nintendo Switch)

 ひとつに、それまでの「メトロイド」シリーズとは一見、作風がまるで異なっていたこと。「メトロイド」シリーズはリアル頭身のキャラクターと、それに基づくシリアスで硬派な世界観と雰囲気が代名詞となっている。

 だが、『フェデレーションフォース』はキャラクターが3頭身にデフォルメ化され、全体のビジュアルがコミカルな雰囲気に。また、本編には『ブラストボール』なる、サッカーをモチーフにしたチーム対戦型ミニゲームが収録されているのだが、そのモチーフと「GOAL!」に代表される演出などが従来の「メトロイド」のイメージと著しくかけ離れており、熱心なシリーズファンほど拒否反応を抱きやすいものになっていた。

 主人公も今までのサムスではなく、過去のシリーズ作にも何度か登場している統治組織「銀河連邦」の名もなき隊員。それも正統な「メトロイド」の新作を求めていたファンには反発心を抱きやすい部分だった。

 そしてもうひとつが、当時の「メトロイド」シリーズを取り巻く状況である。筆者はこれが炎上を招いた最大の原因(火種)と考える。

時系列上の前作に当たる『メトロイド アザーエム』(Wii)も「メトロイド」としては異色の作品だった

 前述したように「メトロイド」は長らく新作展開が中断されていた。それにより、ファンの欲求不満がたまりやすい状況下にあったのである。

 これに加えて、海外ファンの心象を悪化させる出来事が2010年から2014年の間に起きていた。詳しくは長くなるため割愛するが、2011年の「メトロイド」生誕25周年を祝う任天堂公式による特別企画が実施されなかったり、ファン活動に任天堂が水を刺したり(とは言え、その活動自体が非公式で、権利面に抵触するものだったため当然の措置)ということが続いた。いずれも海外での出来事だ。

 そこに一向に新作や新情報を出そうとしない任天堂の姿勢も重なって、前述の状況はさらに悪化。何か間違えれば、爆発を引き起こしかねない状況になっていたのは想像に難くないだろう。

Nintendo 3DS - Metroid Prime: Federation Force E3 2015 Trailer

 そんな状況下で今までの「メトロイド」とは毛色の異なる『フェデレーションフォース』が投入された。まさにタイミングとしては史上最悪としか言いようがなかったのである。

 また、発表当時の内容とアフターフォローにも問題があったと筆者は考える。前者は初報となったプロモーション映像のことで、ミニゲームの『ブラストボール』も本編であるかのように紹介したことだ。実際は『フェデレーションフォース』がメインなのだが、それが霞んでしまうような構成は、誤解を与えるには十分すぎた。

 後者も海外メディア・Eurogamerにて、任天堂のプロデューサーが「Wii U向けのメトロイドを作るなら、おそらく3年ほどかかる(要は現在、Wii U向けに新作メトロイドを作っていない)」と発言した(※1)のも悪手だった。ただでさえ発表に落胆しているファンの怒りを増幅させる余計なひと言だったのは言うまでもないだろう。

 この炎上騒動は当時、日本国内でも報じられて注目を集め(※2)、悪い形で「メトロイド」の名が広まる事態になった。さらには過激な海外ファンによる開発中止を嘆願する署名運動も起こり、約1万通もの署名が集まる結果となっている。

 さすがに署名活動はやりすぎだが、かと言って当時の任天堂を擁護することもできない。タイミングと伝え方といい、すべてがマズかった。あの時ばかりは海外の「メトロイド」ファンの心理を慎重に読み取って判断する必要があった。

 結果として「メトロイド」の歴史に傷を付ける出来事になってしまったのは否めない。

「メトロイド」に新たな可能性を示した意欲作――しかし、前評判は覆せなかった

 これに加えて残念なのが、前評判を覆す傑作にはなれなかったことである。その事実は海外のレビュー集積サイト・Metacriticに記録された64(※3)という、低めのメタスコアが物語る通りだ。

 しかし、これだけは強調しておきたい。『フェデレーションフォース』は決して駄作ではない。「メトロイド」シリーズに新たな価値と広がりを提唱した意欲作だったのだ。

 『フェデレーションフォース』は個別に設けられたミッションを攻略していくステージクリア型のFPSで、最大4人のチームを組んでのマルチプレイ(ローカル、オンライン双方)に対応した作りを最大の特色としている。

 正直、この段階で「メトロイド」らしさ皆無なのは否定しない。「メトロイド」と言えば、迷路のように入り組んだマップを進む探索の遊びが代名詞である。しかし、本作にはその種の要素が申し訳程度しか存在しない。加えて探索の進行に応じてプレイヤーキャラクターのアクションが増え、強くなっていくアップグレードシステムもない。

 強化要素はプレイヤーの操縦する「メック」なるロボットに「チップ」を搭載し、ステータス向上などを図るぐらいだ。武器(ウェポン)についても、それぞれに重量の概念が存在するため、装備できる数もメックの制限を踏まえて選択しなくてはならない。言うなれば、どうあがいてもサムス並の強さにはなれない。

 しかし、そのおかげで協力プレイではチームとの息が合ったプレイが試されるほか、どのように役割を分担するかで多彩な戦術と攻略法を編み出せる面白さと深みがある。

 「メトロイド」お馴染みのシングルプレイも可能で、それによる戦いを有利にする専用チップも用意されている。また、シングルプレイだと「メトロイドプライム」らしさが一層際立つという見所がある。

 「メトロイドプライム」は射撃とサイドステップ(横方向への緊急回避)のアクションを用い、機敏に立ち回る戦闘も魅力のひとつなのだが、本作は探索要素が薄いのをフォローする狙いだろうか、そのアクション要素を濃いめに設計。個性的な敵やボスが豊富に用意され、それぞれ固有の対処法が求められるという、本家『メトロイドプライム』に負けず劣らずの熱い戦いを楽しめるのだ。

 それらに効果的なチップやウェポンの組み合わせを考えて試すという、戦略的な遊びも本作のシステム特有の手応えがある。何よりこれらの制約が、結果として「メトロイド」の主人公であるサムスの魅力をより際立たせることに繋がっている。

 本作のサムスは、主人公たちを支援するサポート役なのだが、その活躍ぶりが彼女の肩書きである「銀河最強の戦士」を体現したものになっている。主人公たちなら1箇所壊すのがやっとの敵の工場をひとりで複数箇所破壊してしまったり、巨大な怪物を一撃で倒してしまうなど、第三者視点からサムスの強さというものを随所で見せつけられるのだ。

 これは「メトロイド」のファンほど感銘を受ける部分であり、本作の設定だからこそ実現した演出となっている。これ以外にもシステム面でサムスの強さと凄さを感じさせる要素が盛り込まれており、プレイするほどにサムスに対する畏敬の念が増す。この部分はまさに本作の秘めたる魅力でもあり、このために本作をプレイする価値があると言ってもいいぐらい。そんな「メトロイド」のことをより好きになれる仕掛けも盛り込まれた内容になっているのだ。

 一方で難点も多くあり、特にミッションひとつあたりの攻略に要する時間が長く、途中でやられると最初からやり直しになる重すぎるペナルティは、プレイヤーに過度な負担を与える(シングルプレイ時なら尚更)。数の暴力に頼り気味の難易度、『ブラストボール』の蛇足感、退却でも破損のペナルティが取られる「チップ」の仕様なども難点にあげられ、完成度に影を落としてしまっている。

 また、コミカルな見た目から今まで「メトロイド」を遊んだことがない人にも取っつきやすい印象を与えるが、実際の中身はシリーズでも3本の指に入るほどの難易度の高さを誇る(特にシングルプレイ)。

『メトロイド ゼロミッション』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)

 正直、「メトロイド」の入門編を探しているなら、初心者向けのサポートが最も手厚く、2025年現在であればNintendo Switchでも遊べる『メトロイド ゼロミッション』が圧倒的にオススメである。

 炎上後、任天堂はプロデューサーによるコンセプト紹介の動画を公開するなど立て直しを図ろうとしていた。

 しかし、日本国内では初週の売上本数がランキング範囲外で不明(※3)、海外も2025年のいまなお正確な数値は不明。一連の取り組みが焼け石に水で終わったという現実を示すことになった。

ゼルダの伝説 トライフォース3銃士 紹介映像

 さらに近い時期にニンテンドー3DSで『ゼルダの伝説 トライフォース3銃士』という、同じ方向性の協力型マルチプレイに対応した新作が登場し、その宣伝が広範に展開されたのも関心を遠ざける一定の効果があったと推察される(『フェデレーションフォース』はテレビCMなどの広告展開はまったく実施されなかった)。

 世の中には映画『007/カジノ・ロワイヤル』のように、前評判の悪さを作品の完成度で華麗かつ豪快に覆したケースもある。だが、残念ながら『フェデレーションフォース』はその例にはなれず、商業的に失敗したと言わざるを得ない作品となってしまった。

 だが当時、発売初週に本作を買った人間のひとりとして言っておきたい。『フェデレーションフォース』は決して駄作ではない。「メトロイド」シリーズに新たな価値と可能性を示した作品だったのは確かなのだ。

もういちど、彼らにチャンスを与えられないものだろうか。

 とは言え、商業的な失敗という重い事実や発表当時の炎上によるムードの悪化もあって、当時の「メトロイド」シリーズには暗雲が立ち込めていた。

メトロイド サムスリターンズ 紹介映像

 だが、それも2017年の『メトロイドプライム4』と同タイミングで発表され、年内のうちに発売された2Dメトロイドの新作(兼『メトロイドII RETURN OF SAMUS』のリメイク)『メトロイド サムスリターンズ』が見事に振り払った。

 以降、「メトロイド」シリーズは立ち直り、2021年の『メトロイド ドレッド』でシリーズ最高の売り上げを達成。2023年発売の初代『メトロイドプライム』のHDリマスター版『メトロイドプライム リマスタード』も、復刻タイトルながら世界累計で100万本以上を売り上げる快挙を成し遂げている(※4)。

『メトロイド ドレッド』(Nintendo Switch)

 このような成功が続いているからこそ、余計に『フェデレーションフォース』の不憫さが際立つ。

 もともと、「メトロイド」シリーズは過去にも相当な異色作を送り出したことがあった。ニンテンドーDSの『メトロイドプライム ピンボール』、その名の通り『メトロイドプライム』を題材にしたピンボールゲームだ。

本作にはニンテンドーDS本体に振動機能をプラスする「DS振動カートリッジ」も同梱されていた

 だが、この『メトロイドプライム ピンボール』は炎上する事態にはならず、スピンオフ作品のひとつとして受け入れられている。

 なぜ受け入れられたのかは分かりやすい。当時、「メトロイド」シリーズは『メトロイドプライム ハンターズ』『メトロイドプライム3』という新作の発売を控えていた。今後、正統な新作が発売されることが確約されていたのだ。ファンとしても異色作を受け止めるための心の余裕があったのである。

『メトロイド フュージョン』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)

 同じく初代『メトロイドプライム』も初の3D作品ゆえ、当時は異色の作品感が漂っていた。しかし、従来の2Dメトロイドの新作『メトロイド フュージョン』の発売も確約されていたことから、“いつもの「メトロイド」も出る”という安心感が醸成されていたのだ。

 これらの例から見ても、『フェデレーションフォース』のタイミングのマズさがわかる。同時にもし、前述した作品と同じ状況で出ていたのなら、違う未来があったのではないかと考えてしまう。特に『メトロイドプライム4』が発表されたあとなら、「変な新作も出るけど正統な新作は出ることだし……」との認識で大きな騒ぎにならなかったように考えるのだ。

 だからこそ『フェデレーションフォース』に再チャンスを与えてやれないものかと思う。本作の提唱したコンセプトは「メトロイド」シリーズにとっても興味深く、新たなファン層を開拓できる可能性を持っていたためだ。

メトロイドプライム フェデレーションフォース 紹介映像

 商業的に失敗をしているゆえ、容易にできることではないのはわかる。しかし、本作がやろうとしたチャレンジをこの限りで終わらせないでほしい。シングルプレイではない「メトロイド」の可能性を再び見せてほしい。

 「銀河連邦が色んなシリーズ作で暗躍したり、サムスに大迷惑かけたりしているんだから自業自得」なんて声もあるかもしれないし、それはそれで彼らにしてみたらオイしい……。もとい、いつもとは違った視点で「メトロイド」の世界を楽しめるゲームでもあるのだ。どこかで、そんな機会が訪れることを願ってやまない。

 ただし! もし本当にやるなら、今度は次の新作が確約された最良のタイミングで……と釘を刺しておく。

■参考資料(情報元)
※1 Next proper Metroid Prime "would likely now be on NX"(Eurogamer):
https://www.eurogamer.net/next-proper-metroid-prime-would-likely-now-be-on-nx

※2 任天堂「メトロイド」新作が炎上 開発中止求める海外署名に1万2000人(ITmedia):https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1506/18/news095.html

※3 Metroid Prime: Federation Force Reviews - Metacritic:https://www.metacritic.com/game/metroid-prime-federation-force/

※4 「戦国BASARA 真田幸村伝」や「No Man’s Sky」「THE KING OF FIGHTERS XIV」など新作多数の「週間販売ランキング+」(4Gamer.net):https://www.4gamer.net/games/117/G011794/20160831085/

※5 2023年3月期 決算説明資料20ページ参照(任天堂公式WEBサイト):https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2023/230509_4.pdf

35年(あるいは15年)の時を超えても輝き続ける異端児 『2010 ストリートファイター』の孤高なる魅力

1990年にファミコンで発売された『2010 ストリートファイター』は、唯一無二の個性と価値を持ち続ける"孤高の作品"だ。開発ス…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる