kz(livetune)が語る、“ボカロ”が世界に広がったシーンの現状 オーストラリア開催『SMASH!』の盛り上がりと共に振り返る

kz(livetune)世界でのボカロ評価

 7月11日から13日にかけてオーストラリア・シドニーで行われた、国内最大規模のアニメ・マンガイベント『SMASH! Anime Convention』へ、kz(livetune)が出演した。

 ポップカルチャーファンによるポップカルチャーファンのための非営利団体として創設された「SMASH Inc」運営のもと、2007年にスタートした歴史を持つ同イベント。今回は国内最大規模のカルチャーイベント『ニコニコ超会議』を主催する株式会社ドワンゴと、シンガポールを拠点に東南アジア最大級のポップカルチャーイベント『アニメ・フェスティバル・アジア』 (通称AFA)を主催するSOZO Pte Ltdが協力する国際的なクリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」の一環として、日本人アーティストが出演。そのなかの一人がkz(livetune)というわけだ。

 今回はkz(livetune)にインタビューを行い、ボーカロイドカルチャーの黎明期から現在に至るまでの変化や、『SMASH! Anime Convention』の感想、ボーカロイドカルチャーとの関わりなどについて話を聞いた。(編集部)

「初音ミクが『コーチェラ』に出るなんて考えられなかった」

ーーkzさんは黎明期からボーカロイドカルチャーの顔役の一人として、さまざまなステージやメディアに出演してきましたが、現在のシーンをどのようにみていますか?

kz:うーん……今は結構「変」だなと思っているかもしれません。バンド界隈は思いっきりツールとしてボーカロイドを使っている感じがするし、有名になるためのステップとしてボーカロイドを通っている人も少なくない。でも、それって最初期のソフトの成り立ちを考えると、むしろそっちの方が自然で健康的だと思いますし。そこに対して、ボーカロイドというキャラクターに向けて曲を作っているような、ソフトウェアそのものに対する信仰を感じるクリエイター勢もいて、そこが二極化しているように感じます。

 それを俺が観測してどちら側につこうとも思わないし、その二極化した流れと全く関係ない立ち位置の人もいるわけで、自分はどちらかというと後者に近いポジションなのかなと。原理主義的なものを持ち込んで“ムラ化”しちゃうよりは、今のように二極化プラスαで多様化しているシーンのほうが、ここから10年~20年と続いていきそうでポジティブに感じますね。

ーーたしかに、こうあるべき的な考え方と新しい流れのようなものが衝突して下火になってしまった時期もありましたからね。

kz:再び盛り上がってきたタイミングで『プロセカ(プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク)』や『ダンマクカグラ(東方ダンマクカグラ)』のように下の世代が入りやすい入り口のようなものが用意されたのも、シーンにとっては良かったんだと思います。それによって我々のような“いにしえの人間たち”の音楽も改めて届くようになったことはすごくありがたいですし。昔の曲も最近の曲も割と一緒くたになって、時代感がわからないようになっているのも含めて、全部フラットにしてくれたのは改めて大きいことだったのかなと。

ーーその2つのアプリゲームは10代~20代ユーザーが多い、というのも面白いですよね。新たな入り口を作ることでシーンが活性化したという意味では、『ボカコレ』もその一つになるのではないかと思うんですが、kzさんはどのように捉えていますか?

kz:ボーカロイド曲で順位を競うというのは、俺らの時代の人間からするとニコニコ動画の「ボーカロイドランキング」を思い出しますよね。あのランキング機能があったことで、当時のボカロPたちはどこか「かましていくぞ」という気概のようなものが全体的にあったと思うんです。

 フラットな評価軸に対して「自分の作品がどういう位置にいるのか」という確認ができるのはなんだかんだ大事だったし、上にいたら嬉しい。ずっとランクインしてる「うろたんだー(卑怯戦隊うろたんだー)」に笑ったりして、ネタ的な部分も含めてすごくよかったんです。そういう場所が存在しないと、ただ発表して作り手のSNSが強いかどうかの力比べになっちゃうじゃないですか。

「卑怯戦隊うろたんだー」をKAITO,MEIKO,初音ミクにry【オリジナル】修正版 -

ーーそういう意味で『ボカコレ』にランキングがある、というのは文脈的にも必然であり、ある程度求められていたことでもあったのだなと改めて感じました。

kz:ランキング上位に入ってピックアップされたり、誰かにフックアップされたりというものがあるだけでも、それはそれで救いになると思う。ただただ流れに対して作っていると手応えがなくて普通にしんどいなと思うし、異様な数の曲がアップされているなかで自分の曲に対して反応がなかったらなおさらキツいですから。

 そういう意味で『ボカコレ』が一旦ゴール地点のようなものを設定してくれてることがありがたいと思う反面、ここがゴール地点になるのは、それはそれで疲弊する人も出ちゃうだろうなと。特にいろんなクリエイターの話を聞く立場なので「あそこで上位に入れなかったらどうしよう」みたいに根を詰めてるのを見ると「そこまでやらなくていいのに」という気にもなるんですよね。「ニコ生クルーズ」みたいなうまい仕組みができたらいいんですけどね。

ーー「ニコ生クルーズ」……懐かしいですね(笑)。

kz:ですよね(笑)。ああいうランダムでピックアップできるようなものがあれば、もっと気軽にできそうな気もします。

ーーkzさんの代表曲である「Tell Your World」(livetune feat. 初音ミク)は、未来への希望を高らかに歌っていた楽曲でした。発表当時にkzさんが想像していた「ボカロシーンの未来」と「現在のシーン」との違いとは?

kz:あれはボーカロイドの曲というよりは、『Google Chrome』のCMとして書き下ろした「インターネットの曲」なんですよね。

Google Chrome : Hatsune Miku (初音ミク)

 だからこの曲を介してボーカロイドが広がればいい、なんて思想はなかったし、インターネットでクリエイターたちがもっと自由に繋がれたら楽しいよね、そういう世界になればいいね、という思いを込めて作った楽曲なんですよ。ただ、その時に想像していた未来では、初音ミクが『コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)』に出るなんて考えられなかったですね(笑)。

 ボーカロイドの広がり方に関しても、急速的に広がったんじゃなくて時間をかけてその土地その土地にリスナーを作って、少しずつ広がってきましたよね。その広がった地域で、今回出演した『SMASH!』のようなイベントが開かれているわけですが、こんな風になるとは思わなかった。企業側が「ちょっとこういうものを流行らせよう」みたいな打算で広がったわけでもなく、自然な形で広がっていったからこその十数年なのかなと。

ーーいわゆる一過性のムーブメントではなく、カルチャーになったと胸を張れる状況になったということですね。それは開発・発売元がクリプトン・フューチャー・メディアであることも大きい気がします。

kz:テクノロジー企業としての矜持を感じますよね。最初からキャラクタービジネスをやるつもりではなかったというのもあるかもしれませんが、クリエイターに対して優しく、リスペクトを持って接してくれるからこそ、“ダサい広がり方”をしなかったし、それがすごく嬉しいなと思います。

ーー海外と日本というテーマを考えるうえで、グローバルなアーティストがボーカロイドをどうみていたか、ということにも興味があります。kzさんは「Last Night, Good Night」がPharrell Williamsにリミックスされたり、Porter Robinsonとの交流があったり、ZEDD『Clarity』の日本盤で「Spectrum feat. Matthew Koma (livetune Remix feat. Hatsune Miku)」を手がけるなど、海外アーティスト×ボーカロイド曲の当事者でもあります。海外DJがどのようにボカロを捉えていて、その価値観がどう変わってきていると思いますか?

kz:話せるのはポーターくらいですけど、そういう真面目なトークはしたことがないですね……(笑)。でも、ダブステップやベースミュージックのシーンにはオタクが多いので、そっちのカルチャーは海外でもボーカロイドが使われていたりしていて。どちらかというと歌を歌わせるというよりは、部分的にサンプリングされたり、カットアップなどの声ネタとして使われている飛び道具のようなケースが多い気がします。ポップスでやっているのはポーターぐらいじゃないですか。

ZEDD - Spectrum feat. Matthew Koma (livetune Remix feat. Hatsune Miku)

ーー基本的に海外アーティストはシンガーというよりは声素材的な捉え方であると。

kz:初音ミクに関しては、日本語の発音だからすごく良く聴こえたのもあると思うんですよね。英語だと綺麗に聴こえすぎて、日本語の拙さがちょうどいい、みたいな。ボーカロイドに何かを見出したのが日本人だったのは、そうした拙い発音の要素もあるのかなと。

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