日本の通勤シーンから生まれたノートPC 『Zenbook SORA』に見る、ASUSの生活者目線の開発哲学

ノートPCから見るASUSの思想

 ASUSが2025年に日本で発売した14インチノートPC『Zenbook SORA』は、同社のデザイン部門であるASUS Design Centerが手がけた革新プロジェクトから生まれたモデルだ。

 クリエイター向けの「ProArt」シリーズやゲーマー向けの「ROG」シリーズと並び、ASUSの中核を担う存在である「Zenbook」シリーズ。同シリーズから2025年に発売した「SORA」の開発の出発点は「通勤する人々」だった。台湾・台北のASUS本社で行われたデザインチームのインタビューから、その思想を紐解いていく。

※写真左がZenbook インダストリアルデザイナーのPonien Chen氏、右がデザインプロジェクトマネージャーのYitien Hwang氏。

日本の通勤を実際に体験したことで生まれた『Zenbook SORA』

 「Zenbook」ブランドは、ASUSが展開するポータブルノートPCの製品群で、薄型・軽量デザインを基調に、高性能とスタイリッシュさを追求したラインアップとして多くのユーザーから人気がある。

 Zenbookの開発思想を一言で表すなら、「Designed to Go Places(どこへでも持ち運べる)」だ。生産性、美しさ、携帯性という3つの価値を軸に、働く人々の“移動する日常”に寄り添う設計を続けてきた。その中でも、『Zenbook SORA』は通勤者向けに設計されたモデルだ。

 プロジェクトは、日本市場で国内発のメーカーとの差を埋め、市場に食い込むことを狙いとして始まった。ASUSは「日本市場を深く理解する必要がある」と認識し、単に技術的に優れただけの製品では受け入れられないことを理解したという。

 議論の中で、「通勤者の多い大都市では軽量ノートのニーズが高い」と結論づけられ、『Zenbook SORA』の設計は初期段階から日本市場に寄り添った見直しが徹底的に行われた。

 開発の一環として、2025年初頭にはASUSのデザインチームが東京にて「Zenbook SORA Research」を実施。実際にASUSのデザイナーが東京オフィスの社員と一緒に朝の満員電車に乗り、電車の混雑度や荷物の重さを自ら体験し、通勤者がどのようにPCを持ち運び、どんな不便を感じているのかを直接知ることができたという。

 「満員電車で大きなストレスを抱えながらも、前向きに仕事へ向かう人々を見て、持っているだけで心が落ち着くPCを作りたいと感じた」とデザイナーは語る。机上の分析ではなく、実際の生活から発想を得た点が、SORAの開発における最大の特徴だ。

「軽さ」と「強さ」の両方を追求 その秘訣は新素材「セラルミナム」の採用

 通勤者にとって、ノートPCの重さは日々のストレスに直結する。『Zenbook SORA』はその課題に真正面から向き合い、「軽さ」と「強さ」の両立を追求した。

 本体重量はわずか1kg未満。軽量化の鍵となったのが、ASUS独自の素材技術「Ceraluminum(セラルミナム)」だ。これはマグネシウム-アルミニウム合金の表面にセラミックのような質感を与える処理技術で、従来のアルミ素材より軽く、耐久性と高級感を兼ね備えている。

 筆者も実際に『Zenbook SORA』に触れる機会があったが、このサイズのノートPCとは思えない軽さで、筆者だけでなく周囲の記者たちも口々に「軽い」と驚いていた。触れると大理石のような手触りの良さがあり、つい手に取りたくなるほどだった。

 ASUSのエンジニアは、「バッグの中でスマートフォンや鍵とぶつかっても傷つきにくく、長く使えることを目指した」と語る。毎日の通勤バッグの出し入れを想定し、実際の使われ方から設計を見直したのだ。

 外観デザインもまた、派手さよりも調和を重んじており、カラーバリエーションは「アイスランドグレー」と「ザブリスキーベージュ」の2色。この2色は日本向けの特別なカラーであり、自然の風景から着想を得た穏やかな色合いで、オフィスでも家庭でも違和感なく馴染む。

 加えて、ARMアーキテクチャの採用で省電力かつ長時間駆動を実現。USB-Cを中心とした端子構成や、打鍵感にこだわったキーボードなど、実用性にも徹底して磨きをかけている。

日本市場から世界へーー"空" の名が示すASUSの哲学

 また「SORA」という名称は、日本語の "空" に由来するという。ASUSのデザイン責任者によれば、台湾が多文化を受け入れるカルチャーを持つこと、そして日本の「禅」に象徴されるシンプルさへの共感が、この名前のきっかけになったという。

 「空を見上げると心が落ち着くように、SORAも使う人に静かな安心感を与える存在でありたい」。『Zenbook SORA』のデザインは、使う人の生活や作業の中に精神的な余裕をもたらすツールとして設計されている。日々の通勤や作業の中で、ふとした瞬間に落ち着きや安心感を提供することを意識したデザイン思想だ。

 『Zenbook SORA』の日本市場での反応は上々であり、小売店からは「日本の通勤者に最もマッチした製品で、店頭に並べると反響が大きい」との声が多く、販売データでもASUSのAI PCラインナップの中で最も勢いを見せている。

 購入者の半数以上は10〜20代で、学生や若手社会人が中心だ。デザインの柔らかさと携帯性が、学業と仕事の両方のニーズを満たしている。ASUSとしても、この若年層が今後のコアカスタマーとして期待できると考えているという。

 ASUSが日本の通勤文化をここまで掘り下げたのは初めてのことだ。ASUS JAPAN システムビジネスグループ コンシューマービジネス事業部 統括部長のDavid Chu氏は、「『Zenbook SORA』は、日本のために設計し、本当に大きな価値と成果を生み出した製品」と語る。単なるローカライズではなく、日本市場から世界へ展開する新しい開発モデルの成功例と言える。

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