ヒトと社会に溶け込む『ポケモン』たち 『Z-A』発売を機に振り返る「都市との共存」

10月16日に発売された『Pokémon LEGENDS Z-A』が、多くのゲームファンを魅了している。X上では「このゲームのために仕事を休んだ」といった投稿も見られ、注目度の高さと期待の大きさがうかがえる。
今作のゲーム性の注目ポイントとして、従来のターン制ではなくリアルタイム性を取り入れるなど、バトルの刷新が目を引く。さらに、各地を旅する従来の構成ではなく、舞台をミアレシティという一都市に収め、その内部で完結させる設計も特筆すべき点だろう。
今回はこうした新機軸を踏まえつつ、本作の舞台である「都市」をテーマに、「ポケモン」がこれまで社会や人間との共存をどのように描いてきたのかを、改めて考察していきたい。
「ポケモン」が起こしたパラダイムシフト 都市を破壊する“怪獣”から“善き隣人”へ
モンスター作品におけるポケモンの大きな特徴は、人間との親和性の高さだ。同時期に人気を博した作品と比較してもその性格は明確で、たとえば同時代に登場した人気コンテンツである「デジタルモンスター(デジモン)」に登場するモンスターたちは時に人間と対立し、都市機能を破壊し激しく戦う構図の印象が強い。男子向けのおもちゃとして、恐竜など「強さ」のイメージを持つ生物をモチーフ化してきた背景を踏まえれば、バトルの強調は自然な成り行きと言えるだろう。一方ポケモンは、モンスター同士の戦いを描きつつも、世界観の根底に「共生・共存」を据える点で異なる。
初代から、人とポケモンは同じ町で暮らし、時に人を助ける存在として描かれてきた。そのため比較的初期から『ピカチュウげんきでちゅう』のようにバトル要素をほぼ持たないゲーム作品が成立し、2026年発売予定の『ぽこ あ ポケモン』のように、プレイヤーがメタモンとなってポケモンとスローライフを送るサンドボックス型タイトルも自然に受け入れられる。ポケモンは戦うキャラクターである前に、人や文明と協調する存在であると強調してきた。
社会への関与という観点でも、初期から一貫した描写がある。『ポケットモンスター 赤・緑』で無人だった発電所(むじんはつでんしょ)は、『金・銀』では有人化し、電気タイプのポケモンと人が共に働く施設として登場する。世界のインフラや仕事にポケモンが関わることで、ファンタジーでありながら確かな生活感が生まれている。
ポケモンと人間の融和をプレイヤーに定着させた点においては、TVアニメ版の功績も大きい。マサラタウンで朝を告げるドードリオ、サトシの母を手伝うバリヤード、警察官ジュンサーと相棒ガーディ、ポケモンセンターのジョーイとラッキー。人とポケモンが共に働き、暮らしを支え合う姿が、視聴者に共に生きる世界を自然に浸透させてきた。
またラッキーなどは単なるモンスターから、病院や介護など医療機関を象徴するポケモンとしてのイメージも定着している。2019年2月にはラッキーが福を呼ぶという繋がりで「ふくしま応援ポケモン」に任命されるなど、そのプラスなイメージは自治体も注目する。
人間の営みによって「すがた」を変えたポケモンたち
同時に、シリーズは「人間の介入による生態変化」という現実的な視点も忘れない。たとえばアローラ地方のニャースは、人間によって持ち込まれたのちに野生化し、独自の進化を遂げた。
アニメ「ポケットモンスター サン&ムーン」|秘密基地を飛び出したニャースは、偶然アローラニャースと出会う。ムサシとコジロウは仲間にしたいが、ニャースは大反対で・・・? テレビ東京系列でよる6時55分から! https://t.co/b3QiRynjYE #アニポケ pic.twitter.com/xKU5wkmrwB
— ポケモン映画公式ツイッター (@pokemon_movie) February 15, 2018
これは奄美大島のノネコ(野生化した飼い猫)が、固有種であるアマミノクロウサギを狩って生息している問題を想起させる。ポケモンは癒やしやバトルの対象に留まらず、多くの人々に「人と自然の距離」の問題を投げかけてきた。

共に生きるというテーマは、やがてゲーム内だけの話に留まらず、現実世界へも拡張した。『Pokémon GO』は現実の都市を歩き回ることでポケモンとの出会いを提供し、『Pokémon Sleep』は最大5匹のポケモンと睡眠時間を計測することで、生活習慣そのものに寄り添うことに成功した。ポケモンはバトル・コレクションを行うゲーム作品という存在を超えて、プレイヤーの日常と感情に寄り添い、共有するデジタルペット/ライフパートナーへ進化したのである。
最新作『Pokémon LEGENDS Z-A』では、この理念がさらに強調されている。舞台のミアレシティは発展した都市でありながら豊かな自然に包まれている。発売前に公開されたティザームービーでは、冒頭でミアレシティの都市再開発を進める大企業の社長・ジェットが「ポケモンと人との絆をより深めるため、クエーサー社は都市開発計画を進めてまいります」と語る。野生のポケモンが過ごしやすいワイルドゾーンの設置など、自然と都市・テクノロジーの調和を目指す都市デザインは、現実の持続可能な社会を意味するサステナブルシティの潮流とも響き合う。
現実の都市開発においても、緑化公園は憩いと防災の拠点として機能し、ドッグパークや市民農園は地域コミュニティと子どもの自然教育の場となる。作品内のポケモンと共存できる街は、そうした現実が理想とする社会の姿をゲーム内で示したとも言える。
ポケモンは、ゲームやアニメの枠だけでなく、ゲーム内のデジタルな存在という域を超えて現代における生活・社会のパートナーとして更新され続けている。人とポケモンが同じ空気を吸い、同じ街を歩き、同じ未来をつくる——そのビジョンを、我々はすでに日常の中で体験し始めている。作中でも登場するホログラム技術が実際に現実のものとして、さらに一般に普及した時、“ポケモンが街にいる生活”であるミアレシティが現実のものになるのかもしれない。































