ゲーム原作の映画化における「出口」はどこか——映画『8番出口』がたどり着いた“体験”の描き方

映画『8番出口』がたどり着いた“出口”

映画の入口、ゲームの出口

 マンガ、小説、そしてビデオゲーム。そうした他メディアから映像へ移しかえられるとき、原作のファンは「原作の再現」を期待する。

 では、ビデオゲームが映画化されるとき、スクリーン上で再現されるものとはなにか。

映画『8番出口』予告【8月29日(金)公開】

※本稿にはゲームおよび映画『8番出口』のネタバレを含みます。

ゲームの物語は映画の物語になりうるか

 映画『8番出口』(監督:川村元気)は、KOTAKE CREATEによる同名のインディーゲーム作品(2023年)の映画化だ。

 原作となったゲームの内容を簡単に説明するなら、以下のようになる。ある駅構内の通路に主人公=プレイヤーが閉じ込められる。出ようと出口に向かっても、同じ通路にループしてしまうのだ。プレイヤーはそこで「通路内に発生する異変を探すこと」「もし異変が見つかったら通路を引き返すこと」「見つからなかった場合はそのまま進むこと」といったルールを課され、目を血眼にしながら異変を探しつつ、ループからの脱出を目指す……。いうなれば、ホラー版の間違い探しのようなもの。物語らしい物語、設定らしい設定はついていない。

 それを聞いてあなたはこんな疑問を抱くかもしれない。「そんなもの、どうやって映画にするのか?」と。

 それとまったくおなじ疑問に、かつてビデオゲームの原作を任された映画作家たちは苦しめられていた。われわれが「映画化」と口にするとき、小説やマンガでは特にそうだが、一般的に「原作のストーリーの映画化」を想像する。だが、昔はその「原作のストーリー」をまず欠いていた。

 ビデオゲーム原作映画化の最初期の例である『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(1993年)。その脚本を担当したパーカー・ベネットはインタビューで、原作の『スーパーマリオブラザーズ』にはストーリーがほぼ存在しない一方で、ファンからはキャラクターなどのある種の原作要素を期待されるという悩みを明かしつつ、彼らなりのやりかたで映画としての物語を引き出そうと苦心を重ねた過程を語っている。

 『マリオ』にかぎらず、当時のビデオゲームのほとんどは、主にストレージ容量の問題から映画の尺に耐えうるだけの物語を持てなかった。脚色するにあたってのとっかかりすら、映画制作者たちに与えられなかったのだ。(※1)

 その後、テクノロジーの発展に伴ってビデオゲームはより長大な物語を語れるようになっていった。2020年代にはおおむね原作の筋立てに沿ったドラマ版『THE LAST OF US』(2023年)が放映され、全9話で約520分の重厚なストーリーを新たな切り口を交えながらも語りきり、原作ファン以外のオーディエンスからも極めて高い評価を受けた。

THE LAST OF US|字幕版予告編:人気ゲーム原作のオリジナルドラマ(U-NEXTにて独占配信中)

 原作のプロットに忠実な映像化でなくとも、原作の物語が豊かであるに越したことはない。それを証明したのは『サイバーパンク2077』原作のアニメ作品『サイバーパンク:エッジランナーズ』(2022年)だった。原作ゲーム(と、さらにその原作であるTRPG)が物語を通して生み出した豊かなキャラクターや世界観のおかげで、アニメの物語もまた信じるに値するものとなっている。

『サイバーパンク: エッジランナーズ』予告編 - Netflix

「物語のないゲーム」をいかに映画にするか

映画『マインクラフト/ザ・ムービー』予告1 2025年4月25日(金)公開

 しかし、ルールとメカニクスだけでモノになってしまうビデオゲームにおいては、物語性の薄い、あるいは物語がほとんどないような作品もあいかわらず愛されつづけている。

 そうしたゲーム作品の映画化例で近年の二大ヒットといえば『ザ・スーパーマリオ・ブラザーズ・ムービー』(2023年)と『マインクラフト/ザ・ムービー』(2025年)だろう。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』セカンド予告(吹替版)

 『マリオ』は四十年超におよぶマリオのフランチャイズで培われたキャラクターたちと作品世界をふんだんに使い、一種のテーマパーク的な体験を与えることでオーディエンスを満足させた。一方で『マインクラフト』は、マリオほどにアイコニックなキャラを欠きつつも、映画オリジナルのストーリーに「モノづくりの歓び」という原作ゲームのプレイ体験を乗せることでファンの共感を誘った。

 どちらも「ストーリーの再現」とは別な仕方、つまり、ゲーム的な体験の再現という方法でもって「原作の再現」を達成したといえる。要するに、「ゲーム原作の再現」にはおおまかに2つの方法があるということだ。「ストーリーの再現」と、「プレイ体験の再現」。メカニクス中心のゲームは「原作の再現」という目的においては基本的に後者を目指すことになる。

 はい? 「映画化には『原作の再現』以外の道もあるんじゃないか」って? そうだね、そのとおり。でも、いまはその話をしていない。

 で、やりかたでいえば、『8番出口』の映画化は『マインクラフト/ザ・ムービー』に近い。映画のほうでひねりだしたお話に、原作ゲームでの体験を乗せている。

 さて、つぎの疑問。映画『8番出口』で再現されている「原作ゲームでの体験」とは、なにか。

 「カメラ」だ。

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