アメリカでは1550億ドル以上の投資も AIを巡る国際競争の現在地を整理する

EUは「AIファクトリー」、イギリスは「AI成長ゾーン」を計画
EUとイギリスも、2025年にそれぞれのAI政策を発表している。EUの政策執行機関である欧州委員会は2025年4月9日、AIを巡る競争力を強化することを目的とした「AI大陸行動計画(The AI Continent Action Plan)」を発表した(※7)。
EUのAI政策全般を解説した欧州委員会公開のウェブページによると、以上の計画には、AIファクトリーとギガファクトリーの設立、民間投資を刺激する「InvestAI Facility」「AIスキル・アカデミー」の立ち上げなどの施策が含まれている(※8)。
AIファクトリーとは、AI研究開発を推進するために大規模な計算資源と優秀な人材を集結させた拠点を指す。欧州委員会は、こうした拠点とその関連施設を2025年から2026年にかけて、少なくとも15カ所稼働させる計画を打ち出している。建設場所はフランスやドイツのようなEU主要国、フィンランドやスウェーデンといった北欧諸国、さらにはブルガリアやポーランドのような東欧諸国が含まれ、EU全域に広がっている。この計画のために、2027年までに100億ユーロが投じられる予定だ(※9)。

https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/ai-factories
そしてイギリス政府は2025年1月13日、同国における“AI革命”を推進する「AI機会行動計画(AI Opportunities Action Plan)」を発表した(※10)。この計画は、AI革命による達成項目を「経済的繁栄の共有」と「公共サービスの改善」、そして「個人的機会の増加」と定めたうえで、さまざまな施策を提言している。

https://www.gov.uk/government/publications/ai-opportunities-action-plan/ai-opportunities-action-plan
イギリスの行動計画においても、AIインフラの拡充が掲げられている。そのために実施する施策の一部は、以下のようなものだ。
- AIRR(AI Research Resource:AI研究資源)の拡大:2030年までに現在の20倍にする。
- AIRRプログラムディレクターの任命:アメリカのDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)をモデルとしたAI戦略を指揮する組織を設立し、その長を任命する。
- 「AI成長ゾーン」の設立:AIインフラ施設にクリーンな電力を供給する地域を定める。
以上のように、EUとイギリスも巨大AIインフラの建造を国家的プロジェクトと位置づけている。
半導体輸出規制に対抗する中国の2つのアライアンス
翻って、中国ではどうだろうか。中国のAI政策を知るには、内閣府直轄のAI制度研究会の第2回会合で提出された、弁護士の松尾剛行氏が作成した資料が役に立つ(※11)。
資料によれば、現在の中国のAI政策は、2017年に公表された「次世代人工知能発展計画」(通称「AI2030」)にもとづいているという。この計画は、2020年にはAI技術全体において世界における先進的水準を、2025年には一部分野で世界をリードする水準を、2030年にはAI技術全体において世界をリードする水準を目指すとしている。2025年初めにOpenAI製AIに匹敵する性能を実現した中国産の生成AI「DeepSeek」が登場したことを鑑みると、同計画は順調に進んでいると言える。
そして中国国営テレビ局傘下のメディア・CGTN日本語版は2025年3月11日、同国の最高国家権力機関・全国人民代表大会が発表した「2025政府活動報告」に関する記事を公開した(※12)。同報告書には、経済社会のさまざまな領域とAIを融合させる「AI+」行動が提唱されている。
「AI+」行動の背景には、過去の中国経済をけん引してきた不動産業の不況がある。不動産業に代わって、経済成長の新たなけん引役として期待されているのが、AIというわけだ。AIによる経済成長を推進するために、中国は自国の科学技術を強化する政策「自立自強」をかかげてきた。この政策の成果のひとつが、「DeepSeek」なのである。
ところで、中国のAI産業を語るうえで欠かせないのが、現在も続いているアメリカによる同国への半導体輸出規制である。こうしたなかロイター通信は2025年7月28日、半導体規制に対抗するために、同国のAI関連企業が2つのアライアンス(同盟)を結成したことを報じた(※13)。
1つめのアライアンスは「モデル・チップ・エコシステム・イノベーション・アライアンス」であり、主に中国のAI開発企業とAIチップメーカーが参加する。もう1つの「上海総商会AI委員会」にもAIチップメーカーなどが参加しており、AI技術と産業変革の深い統合の促進を目指す。
以上の2つのアライアンスから、近い将来、「中国製AIインフラ建造計画」が発表されるかもしれない。というのも、こうした計画なしではアメリカとのAI開発競争に対抗できないからだ。
本稿は、国際競争力に直結するAI研究開発に関して、各国の政策をまとめてきた。まとめてわかるのは、AI主要国はAIインフラ強化を目指して多額の投資を計画していることだ。こうした事実により、NVIDIAをはじめとするAIインフラ関連企業は大きく成長すると予想される。このように各国のAI政策は世界経済に大きな影響を与えるため、継続的に注目すべきだろう。
〈参考資料〉
(※1)日本経済新聞「AI技術の開発・活用を推進、悪用事業者は国に調査権 初の法整備」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA270UW0X20C25A5000000/
(※2)AI戦略会議(第14回)配布資料「AI法の概要」https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/14kai/shiryou1-1.pdf
(※3)AI戦略会議(第14回)配布資料「今後のAI政策の進め方」https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/14kai/shiryou1-2.pdf
(※4)The White House「White House Unveils America’s AI Action Plan」https://www.whitehouse.gov/articles/2025/07/white-house-unveils-americas-ai-action-plan/
(※5)OpenAI「Oracle との 4.5 GW パートナーシップにより Stargate をさらに強化」https://openai.com/ja-JP/index/stargate-advances-with-partnership-with-oracle/
(※6)The Guardian「Big tech has spent $155bn on AI this year. It’s about to spend hundreds of billions more」https://www.theguardian.com/technology/2025/aug/02/big-tech-ai-spending?utm_source=chatgpt.com
(※7)European Commission「The AI Continent Action Plan」https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/ai-continent-action-plan
(※8)European Commission「European approach to artificial intelligence」https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/european-approach-artificial-intelligence
(※9)European Commission「AI Factories」https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/ai-factories
(※10)GOV.UK「AI Opportunities Action Plan」https://www.gov.uk/government/publications/ai-opportunities-action-plan/ai-opportunities-action-plan
(※11)AI制度研究会(第2回)配布資料「中国のAIに関する制度」https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_kenkyu/2kai/shiryou5.pdf
(※12)CGTN日本版「2025年の中国経済 「AI+」とイノベーションが注目点 ~対外経済貿易大学・西村友作教授に聞く」https://japanese.cri.cn/2025/03/11/ARTI1741699402109466?utm_source=chatgpt.com
(※13)ロイター通信「中国AI企業、アライアンス結成 新製品も披露 上海の世界大会」https://jp.reuters.com/economy/industry/ZK6SJZFACZLPPBPPVG3TMPNLJA-2025-07-28/























