アメリカでは1550億ドル以上の投資も AIを巡る国際競争の現在地を整理する

各国が巨大投資、AIを巡る国際競争の現在地

 近年の生成AIの動向は、テック業界におけるトピックのひとつであることを超えて、各国の経済や国際競争にも影響を及ぼしている。日本やアメリカをはじめとするAI主要国は、生成AIを主戦場とする国際競争に勝利すべく、それぞれAI政策を立案・施行している。そこで本稿は、2025年におけるそうした国々のAI政策をまとめたうえで、生成AIを巡る戦いの行方を見通す。

“事業者の協力義務”を明記した日本の「AI法」

 まずは本稿で取り上げる日本、アメリカ、EU、イギリス、そして中国のAI政策名、その概要と経済効果をまとめた表を掲載する。

 日本のAI政策については、日本経済新聞が2025年5月28日、AIの開発促進と安全確保の両立をめざす「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(通称「AI法」)が28日の参院本会議で可決、成立したことを報じた(※1)。

 17の条文から構成されたAI法の内容は、内閣府直属のAI戦略会議が2025年6月2日に開催した会合において配布された資料「AI法の概要」(※2)に簡潔にまとめられている。

AI戦略会議(第14回)配布資料「AI法の概要」
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/14kai/shiryou1-1.pdf

 AI法は、AIによるイノベーションを推進しつつ、偽情報の拡散などのAIによるリスクにも対応するために、既存の法律では対処しきれない事態にも対処できるように制定された。

 同法で注目すべきは、事業者の責務として「国等の施策に協力しなければならない」と明確に法の遵守を明記しているところである。生成AIの安全な利活用について、日本政府はこれまで罰則などの“ハードロー”は設けずに、各業界団体の自主的なガイドラインの運用を中心とする“ソフトロー”によって対処してきた。しかしながら、AI法において事業者の協力義務を明記した以上、そうした義務に違反した場合の何らかのハードローを制定する可能性がある。

 AI法の今後の運用についても、前述のAI戦略会議の会合において資料が配布された(※3)。その資料によれば、日本政府はAI法の公布から3カ月以内にAI戦略本部を設置して、AI法を実施するための「AI基本計画」を策定する。「AI法」制定が5月28日なので、AI戦略本部は、今年9月末までには始動するだろう。

AI戦略会議(第14回)配布資料「今後のAI政策の進め方」
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/14kai/shiryou1-2.pdf

 現時点では「AI基本計画」の具体的内容は不明だが、後述する他国の状況や計画を踏まえると、GPUなどの計算資源を集約したAI研究開発ための巨大データセンターの建造計画や、AI人材の育成支援が盛り込まれるかもしれない。

AIインフラへの投資に“お墨付き” アメリカの「AI行動計画」

 アメリカ・ホワイトハウスは2025年7月23日、同国がAIを巡る国際競争に勝利することを目的として制定した「AI行動計画(AI Action Plan)」を発表した(※4)。同計画は「イノベーションの加速」「アメリカ製AIインフラの構築」「国際外交・安全保障の主導」を3本の柱としたうえで、90以上の具体的政策が盛り込まれている。これらの政策の概要をまとめると、以下のようなものになる。

  • アメリカ製AIの輸出:同国の商務省と国務省は産業界と提携して、ハードウェアやアプリを含むAI輸出パッケージを同盟国に提供する。
  • データセンターの迅速な構築:データセンターや半導体工場に対する許認可の迅速化と近代化を図る。
  • イノベーションの促進:AIの開発と普及を妨げている煩わしい規制を撤廃する。

 以上の内容は、第2次トランプ政権で明確となった、“規制を緩和してAI研究開発を促進することで国際競争に勝利する”というアメリカのAI政策を具体化するものとなっている。

 AI研究開発を目的としたデータセンターの建造は、すでに始まっている。例えば、OpenAIは2025年7月22日、同社とデータベース大手・Oracleが共同してアメリカ国内のデータセンターを開発することを発表した(※5、本稿アイキャッチ画像は同データセンターの建設現場)。

 以上のデータセンター開発は、今年1月に発表されたアメリカのAIインフラを強化する国家的プロジェクト「Stargate Project」の一環として行われている。今回のデータセンター開発に伴って、10万人を超える雇用が生まれる見込みだ。

 イギリス大手メディアのThe Guardianは2025年8月2日、アメリカの巨大AI企業のAIインフラ投資を特集した記事を公開した(※6)。その記事によれば、これらの企業は2025年にAIインフラに対して、1550億ドル以上の投資を行っている。具体的には、Googleの親会社であるAlphabetが400億ドル、Metaが307億ドル、Amazonが557億ドル、そしてMicrosoftが300億ドルをそれぞれ投じている。

 AI行動計画が発表されたことで言わば“お墨付きを得た”ので、アメリカの巨大AI企業によるAIインフラへの投資は、ますます拍車がかかるだろう。

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