沖縄の世界遺産でイルミネーションと最上級の”音のXR”を体験 『LIMISA NAKAGUSUKU』レポート

『LIMISA NAKAGUSUKU』レポート

  5月の上旬、沖縄の世界遺産でテクノロジーを活用した「音と光のイルミネーションが楽しめる」イベントがあると聞き、会期ギリギリの23日に沖縄・中城村へと足を運んだ。そこで体験したのは、自然とテクノロジー、そして音と光が溶け合う魅力的な瞬間だった。

 舞台となった世界遺産は、沖縄の中城城(なかぐすくじょう)跡。15世紀の琉球王国・尚泰久王代、護佐丸のグスク(城)として知られており、かつては黒船でお馴染みのマシュー・ペリー提督が沖縄を訪れた際に「要塞の資材は、石灰石であり、その石造建築は、賞賛すべきものであった。石は…非常に注意深く刻まれてつなぎ合わされているので、漆喰もセメントも何も用いていないが、その工事の耐久性を損なうようにも思わなかった」と石垣の建築に感激していたことが知られている。1972年には国の史跡に指定され、2000年にユネスコ世界遺産へ登録された。

 そんな中城城跡をまずは日中に訪れてみた。噂通り、石積みによる城壁や門の作りが非常に精巧だ。とくに城門のアールの部分などを石積みだけで作ったと知った時には驚いた。

 そんな中城城跡の“別の顔”を楽しめたのが、今回訪れた光と音の体験型ナイトウォークイベント『LIMISA NAKAGUSUKU』だ。

 『LIMISA NAKAGUSUKU』のコンセプトは「光と音が紡ぐ、世界遺産での幻想的なナイトウォーク」。普段は入ることのできない“夜の中城城跡”をみることができる時点で貴重な体験だが、株式会社プリズムがテクニカル全体の施工と主に「光」の演出を手掛け、さらにソニーグループのSoVeC株式会社が、ソニー株式会社の技術開発研究所や長らくゲーム業界でゲームのサウンドエンジンを手掛けていた寺坂波操株式会社などと手を組んで圧倒的な「音」の体験を制作している。1年ほど前に三重県のVISONという場所で同じくSoVeCが手がけた光と音のナイトウォークイベントを見たが、そちらも圧巻の一言だった。

 『LIMISA NAKAGUSUKU』は夜のみ&一回の定員は7〜80人ということもあり、1日に体験できる人数が限られていた。筆者が参加した回は満員御礼となっており、様々な反応を窺い知れたのだが、観光客や地元から来た方を含め、概ねこのプレミアムな体験に満足しているようだった。

「Sociable Cart(ソーシャブルカート):SC-1」
「Sociable Cart(ソーシャブルカート):SC-1」

 早速現地の様子をレポートしていこう。受付を済ませて軽めのオリエンテーションが終わると、目の前にはヤマハ発動機株式会社と、ソニーグループ株式会社が共同で開発した移動体験の提供を目的とするエンターテインメント車両「Sociable Cart(ソーシャブルカート):SC-1」が出迎えてくれる。SC-1はLiDARやセンサーで正確に道を把握し走ることのできる自動運転車(通常は人も乗れる)だが、今回はあくまで案内役とのこと(安全のためガイドとなる線も備えたうえでの使用)。夜道でも正確に照らしてくれるうえ、ディスプレイではプロモーション映像を流すことでこの後の体験へのワクワクも膨らませてくれた

一の郭
一の郭

 そんなSC-1ともお別れし、少し坂や階段を登ると、目の前には一の郭が。ここは城壁や木などを光が彩る演出のほか、立体音響は滲むような低音を主体に聴かせている。こちらもまだウォーミングアップといったところか。アーチを潜り抜けて二の郭へ足を踏み入れると、今度は多数のムービングライトが一気に動き出す。世界遺産の荘厳な空間にカラフルな光の演出が重なる様子やあちこちに配置されたスピーカーから鳴るアンビエントな音楽を聴いていると、異世界に連れてこられたような感覚になる。

二の郭
二の郭
二の郭に置かれていたミラーボール
二の郭に置かれていたミラーボール

 また、光の演出は地面に置かれたミラーボールに反射することで不規則に拡散するタイミングもあり、この日訪れた観客のなかでも、とりわけ子どもたちが大いにこの”生きた光”を楽しんでいたことも記しておきたい。

三の郭。プロジェクションマッピングがスタートする前の様子
三の郭。プロジェクションマッピングがスタートする前の様子
同じ場所を日中に撮影した様子。昼夜で世界遺産が別の顔を見せてくれている。
同じ場所を日中に撮影した様子。昼夜で世界遺産が別の顔を見せてくれている。

 体験時間もたっぷり取られた二の郭を後にし、続いては三の郭へ。ここでは日中に見たあたり一面の石積みの壁が、9台のプロジェクターによるプロジェクションマッピングで壮大な異空間へと姿を変える。沖縄ならではといえる海の演出や、森の中だと感じさせる動物たちの闊歩する様子が360度周りを囲む城壁に映し出される様子は圧巻だ。そして、SoVeCが「音のXR体験」と呼ぶ、ゲームのサウンドエンジンを活用されている技術をベースにした最新の立体音響が非常に効果的な役割を果たしている。映像はどちらかといえば抽象的なものだったのだが、先述した海や森だと知覚し、その空間に没入することができるのは、水の音や大地が隆起する音、さらに生物たちが泳ぐ、歩く音の位置が前後左右あらゆる場所で鳴り、時には自分の周りをぐるりと移動しているように聴かせてくれたからである。スピーカー35台(ウーファー7台)による音の厚みもすばらしい。

三の郭
三の郭
日中撮影時。スピーカー35台(ウーファー7台)はこのように設置されていた。
日中撮影時。スピーカー35台(ウーファー7台)はこのように設置されていた。

 音作りの部分でも、むやみやたらにアンビエントな音を流すだけではなく、足音はしっかりとした低音、大地の隆起する音はコントラバスの音色らしき音、最後のとある演出の際は知覚しやすいバイオリンの高音が自分たちの周りを駆け巡って”動いている感”を意識させたりと、観客に音の体験をわかりやすく伝えることができているように思う。

 SoVeCの上川衛氏、古賀康之氏、布沢努氏に話を聞いたところ「何もない平地に音を鳴らすのとは違い、城壁が音を反射するため、音場の計算は難しかった」とのこと。ただ、スピーカーの高さを調節したり、ウーファーの台数を当初の予定よりも増やしたりしたことで「想定よりもいい感じになった」と手応えがあったことを明かしてくれた。確かに低音に関しては、密閉された空間ではないからこそ存分に使えているように感じた。

 今回は先述したVISONでの経験も存分に活きているようで「映像を作っている間に音を並行して作ったり、場合によっては音から演出を考えてもらうこともあった」とのこと。筆者は仕事柄プロジェクションマッピングや光の演出等をみることも少なくないが、音と映像・光の関係性はどうも主従の関係になってしまっていることが多い。音楽を専門に取材してきた時期もあるだけに、これまで色々と思うことはあったのだが、SoVeCの技術はそれを覆してくれると感じた。少なくとも主従の関係からは解き放たれているし、今後は音が主である体験も続々と生み出したり、理解のあるパートナーたちと音と光が相乗効果で高めあうクリエイティブを手がけていくのだろう。大阪万博で彼らが携わっているコンテンツも複数あるとのことで、このあとはそちらにも向かってみたいと思う。

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