『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTERED』発売から考える、眠れるガンダム原作ゲームたちの未来

眠れるガンダム原作ゲームたちの未来

 5月22日に『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTERED』がNintendo Switch、PC(Steam)向けに発売された。2012年にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の携帯ゲーム機「PlayStation Vita」(以下、PS Vita)向けに発売された『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(以下、SEEDバトルデスティニー)のHDリマスター版だ。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTERED』アナウンスメントトレーラー

 本作の初報が出たのは2月14日……『機動戦士ガンダムSEED』(以下、SEED)シリーズにとっては“いわく付き”にもホドがある日だった。この日は作中世界において「血のバレンタイン」なる悲劇的な事件が発生。以降、遺伝子調整された新人類「コーディネイター」の国家「プラント」と、遺伝子調整を受けていない人類「ナチュラル」を筆頭とする地球連合との戦争が激化していったのである。

 「よりにもよって、そこで発表するか!」「企画者は業が深すぎる!(ほくそ笑んでいるだろ!)」などと、当日の発表には思わずツッコミたくなったファンも少なくなかったとは思うのだが、いかがだろうか。

 そんな『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTERED』だが、実はリマスター版の時点でも注目に値するタイトルだ。というのも「SEED」シリーズに限らず、ガンダム原作ゲームの過去作は復刻、リメイク、リマスターともに発売例が少ない。

 それもあって、今回の『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版は、さらなるガンダム原作ゲームのリマスター版発売を活発化させる引き金にもなり得る可能性を秘めているのではと期待したくなる側面があるのだ。

原作アニメ版のストーリーを一般兵視点から楽しめる『SEEDバトルデスティニー』の魅力とリマスターの意義

 ただ、『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版が出るのは、おそらく時機を捉えた戦略的判断によるものだろう。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』特報

 「SEED」シリーズは2024年1月に上映された劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の記録的大ヒットもあって、人気が再燃。それを受け、前日譚『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』の制作が決まるといった新たな動きが起きている。

 そのような好機に「SEED」シリーズ原作ゲームを投下し、盛り上げを図るというのは素人目に見ても自然な戦略だと言える。同時に「SEED」シリーズ原作ゲームの中で、『SEEDバトルデスティニー』が選ばれるのも自然な流れだった。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 1作目の『機動戦士ガンダムSEED』と続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』2作のストーリーと戦闘を、名もなき一般兵士の視点で追体験できる魅力を持ったタイトルであるためだ。加えて、単品としても個性的なシステムとバランス調整、やり込み意欲を刺激する要素の数々が異彩を放つ良作に仕上げられている。

 もともと、『SEEDバトルデスティニー』は、2005年に発売された『ガンダム バトル タクティクス』(PlayStation Portable、PSP)の流れを汲む「ガンダムバトル」シリーズの1作として発売された3Dアクションゲームだ。内容としては、モビルスーツ(MS)を始めとする機体(全116機)を操縦し、原作のストーリーなどを再現したミッションに挑むというもの。戦闘は遠距離と近距離の兵装を使い分けながら、敵機への攻撃を仕掛けていくスタイルとなっている。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 各機体と兵装は専用のポイントを割り当てることで、細かな性能の底上げを図れる。それによって強化された兵装と機体の力を振るい、敵を圧倒する楽しさがあるのだが、これ自体は「ガンダムバトル」シリーズ共通の特色。『SEEDバトルデスティニー』特有のものとしては、原作由来の独自要素が最大の特徴となっている。

 細かく解説すると長くなるため、端折っての紹介になるが、主人公の人種を「ナチュラル」か「コーディネイター」にするかで搭乗できる機体の選択幅と成長速度に違いが生まれたり、ダメージを一定量無効化させる「フェイズシフト装甲」、敵の前から姿を消せる「ミラージュコロイドシステム」、「換装」による戦闘スタイル切り替えなどの特殊機能の存在がその象徴だ。

 特に「換装」は新要素の中でも最たる見どころ。戦況に応じた兵装切り替えによるダイナミックな立ち回りと、敵を翻弄する一撃を繰り出せるのは、『SEEDバトルデスティニー』随一の魅力と言える。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 また、ストーリーも描き方こそダイジェスト式ながら、原作2作分を収録しているうえ、選択に応じてミッションが分岐する仕掛けもあって、ボリュームが大きい。ミッションの内容も原作2作の印象的なシーンをピックアップしており、それらの場面に名もなき兵士として降り立ち、著名なキャラクターたちと戦えるのはファンにはたまらない。

 かなり駆け足な紹介になったが、全体的には過去の「ガンダムバトル」シリーズの定番を押さえつつ、「SEED」シリーズ特有の設定を落とし込んだシステムによって独自の戦略性と、原作追体験の要素を持った良作に仕上げられている。

 ただ、PS Vita以外のゲーム機には発売されなかったほか、そのダウンロード版も2025年現在は販売が終了しており、新規購入のハードルは大幅に上がっている。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 また、オリジナル版は気がかりな課題も抱えていた。代表的なのが操作性、快適性の2点。前者はカメラ操作が上下リバースに非対応、後者は敵に狙いを定めてくれるロックオン機能が不可解な判定(近くよりも遠くの敵をロックするなど)を繰り返す部分があった。

 リマスター版はその点の改善が公式で発表されているので、特に劇場版を機に「SEED」シリーズに入門したファンには、今回のリマスター版が最良の選択肢になる。そして、PS Vita版およびPS Vita本体の現状を踏まえれば、劇場版のヒットとは別にリマスター版を出す意義も高い。

 これらの要素からも、リマスター版の発売は戦略的判断の公算が高い。遊ぶのが困難になったガンダム原作ゲームを復刻していくため、といった考えはおそらくないものと思われる。

実はすでに40年近い歴史を持つガンダム原作ゲーム。しかし、その多くが過去に埋もれているという実態

 とは言え、今回の『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版発売が、さらなるガンダム原作ゲームのリマスター版発売を求める声を高めるひとつのきっかけにはなるだろう。むしろ、2月14日の発表時点で、その声は増えているかもしれない。

 念のため、本記事で言及するガンダム原作のゲームとは、主に家庭用ゲーム機向けに展開されたタイトルを指している。実はガンダム原作のゲームは40年近い歴史を誇る長寿タイトルになっているのだが、冒頭でも触れたように復刻、リメイク、リマスターの発売例は少ない。そのようなタイトルが発売されること自体がレアケースも同然になってしまっている。

『SDガンダム バトルアライアンス』(※画像はSteamストアページより)

 たとえば『SEEDバトルデスティニー』以外の「ガンダムバトル」シリーズは、2025年現在、新作の『SDガンダム バトルアライアンス』以外が現行の環境では遊べなくなっている。「SEED」シリーズも参戦しているシリーズ作である『ガンダムアサルトサヴァイブ』もオリジナルのPSP版しかなく、ダウンロード版も2025年現在は販売されていない。

『新機動戦記ガンダムW ENDLESS DUEL』(スーパーファミコン)

 2024年11月、リアルサウンド テックで取り上げた対戦格闘ゲームの『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』『新機動戦記ガンダムW ENDLESS DUEL』『ガンダム・ザ・バトルマスター』も、当然のようにオリジナル版しか存在しない。遊ぶためには、それぞれのタイトルが発売されたゲーム機の調達が必要不可欠だ。

格ゲー版『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の意外な完成度と、開発した“腕利き”会社の過去といま

ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された、対戦格闘ゲーム『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』がリリースから20周年…

 逆に現行の環境で遊べる過去のガンダム原作ゲームには何があるのか? 2025年現在、Nintendo Switch向けに配信されている『スーパーガチャポンワールド SDガンダムX』がそのひとつになる。1992年にスーパーファミコン向けに発売されたタイトルで、2018年発売の『SDガンダム GGENERATION GENESIS for Nintendo Switch』の早期購入特典として提供されたものが後に一般向けに展開されたものだ。

NSW『SDガンダム ジージェネレーション ジェネシス for Nintendo Switch』第1弾PV ショート版

 それ以外だと、ほとんどないに等しい。時代を少しさかのぼれば、ファミコンディスクシステム向けに発売された『SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ』がニンテンドー3DSとWiiでバーチャルコンソール版として配信されたが、これも2025年現在は双方のゲーム機でネットワークサービスが終わったため、新規に購入できない状況だ。

SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ プレイ映像

 あらためて実態を調査してみると、本当に片手で数えられる程度しかないことに驚かされる。もっとも、復刻がなかなか進んでいかない事情も理解できる。ひとくちにガンダム原作ゲームと言っても、制作には原作のバンダイナムコエンターテインメントも含めたさまざまな会社や関係者が関わっている。ゆえに版権周りであったり、元のゲームデータの存在有無など、乗り越える必要のある課題や検証事項がほかのゲームに比べて高いのだろう。

 いわゆる3Dタイプのガンダム原作ゲームの中でも高い人気を誇る『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』に至っては、『モンスターハンター』『ストリートファイター』などで知られるカプコンも絡んでいるだけに、容易ならざる事情があるのが素人目からも考えられる。また、時機が適切か否かも判断材料としては大きいだろう。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 しかし、いちプレイヤーの立場から見れば、ずっと過去のままにしておくのもいかがなものかという思いだ。特に前述した対戦格闘ゲームの3作は完成度が高く、ゲームシステム面での意欲的な取り組みと駆け引きの熱さなど、独自の魅力を兼ね備えている。

 「ガンダムバトル」シリーズについても、名もなき兵士になって原作のミッションを追体験できたり、好みのカスタマイズによる機体で暴れまわる楽しさなどの魅力がある。同時に、それぞれのシリーズ作だけの持ち味もある。機体にしたって『SEEDバトルデスティニー』では絶対に操縦できないタイプがどれほどあることか。

 しかも、もうすでに40年近くの歴史が積み立てられている。そろそろ、いまの時代に適したゲームタイトルを出していくことに限らず、歴史を追体験できる機会を設けてもいい頃合いなのではないだろうか。

 『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版発売は、そのような声がさらに高まっていく可能性を秘めている。それもあって、ここを機にこれまでの流れに多少の変化を起こしてみるのも一興ではないかと思う。

『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版発売をただ一度きりの出来事にしないためにも

 もし、新作とは別に復刻にも積極的になっていく流れが発生したとしたら、どんなタイトルの復刻が望まれるか。それについては、前述において名を出したタイトルはまず、強く望まれる可能性が高いだろう。

 筆者個人としては、そこに少しマニアックなタイトルも混ぜてほしい思いがある。ひとつに『SDガンダム ガシャポンウォーズ』。2005年にニンテンドーゲームキューブ向けに発売され、2010年にWii向けに移植もされたアクション&シミュレーションゲームだ。

『SDガンダム ガシャポンウォーズ』(ニンテンドーゲームキューブ)

 このゲーム、実は『機動戦士ガンダムSEED』と『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』をフィーチャーしている部分があり、密かに「SEED」シリーズが盛り上がりを見せている現状にも適した1本でもある。また、2025年でオリジナルのニンテンドーゲームキューブ版は発売20周年、Wii版は15周年を迎えるという時機の良さを限定的に持ち合わせている。

 ただし、開発に任天堂も絡んでいるタイトルでもあるため(※Wii版には絡んでいない)、現行環境への復刻を狙うとすれば供給範囲が狭まってしまう可能性が高い。とは言え、取っつきやすさとテンポを重視した任天堂の『ファミコンウォーズ』シリーズの精神を宿したゲームシステム、豊富なゲームモードなど見どころの多い作品(しかも本編には『ファミコンウォーズ』モチーフのマップまで収録されている)。もし叶うならば「SEED」シリーズの人気が再燃しているチャンスを狙って復刻を願いたい。

『SDガンダム スカッドハンマーズ』(Wii)

 もうひとつが『SDガンダム スカッドハンマーズ』。2006年にWii本体と同時発売されたアクションゲームだ。その名の通りハンマーにフォーカスしたアクションゲームで、Wiiリモコンを存分に振りまくる直感的かつ豪快な操作スタイルと、意外に戦略性の高い作りが魅力になっている。また、ストーリーのベースは初代『機動戦士ガンダム』なのだが、全編ギャグまみれでツッコミどころの多い内容になっているのも大きな特徴だ(特にテム・レイのご乱心っぷりが必見) 見どころだ。

 これも操作性の関係で一定のハードルは存在するものの、見どころの多い良作になっている。これはベースが初代『機動戦士ガンダム』に理論上は(?)絞られているため、時機という点ではタイミングを図るのが難しい作品だ(『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』と歩調を合わせることも論理的にできなくはないが……)。ただ、もし願うならばどこかで復刻か、オリジナル版の強化を図ったリメイクかリマスターを見てみたい。

 ほかにもいくつかタイトルの候補はあるが割愛する。いずれにせよ、過去のガンダム原作ゲームのリマスター、復刻の流れが生まれるか否かは『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版の動向と、それに伴うユーザーからの声次第だろう。

【機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY REMASTERED】イザーク・ジュールによるバトデス戦闘訓練トレーラー「俺が遊び方を教えてやる、ありがたく思え!」

 ゆえに筆者個人もだが、今回の『SEEDバトルデスティニー』リマスター版の発売を一度きりの特別な出来事として終わらせないでと声をあげさせていただく。とりわけ販売のバンダイナムコエンターテインメントには、過去作のリマスターや復刻を要望するユーザーの声などをあらためて調査し、現代の環境で遊べる施策を組んでいってほしいと願う。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』TV Series Promotion Reel

 近年は「SEED」シリーズに限らず、『新機動戦記ガンダムW』『機動武闘伝Gガンダム』といったほかの過去作品のアニバーサリー企画も活発化している。たしかにいまは「SEED」シリーズと直近の新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』が優先事項かもしれない。

 しかし、すべての作品の復刻は難しくても、そういった過去作品を原作とした根強い人気を誇るタイトルを選んで復刻していくのも、施策としては有効なはずだ。

 ガンダム原作ゲームは常に現代を見据えた作品を出すことに注力してきた。しかし、そろそろ過去、歴史をさかのぼる提案をしてみるのも一興ではないだろうか。

『機動戦士ガンダムSEED BATTLE DESTINY』(PlayStation Vita)

 ともあれ、『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版が、ガンダム原作ゲームの復刻への扉を開くきっかけとなることを期待したい。これまでのガンダム原作ゲームの歴史を現代の環境でも楽しめるようになれば、新たなファン層の開拓にもつながるだろう。40年近くに及ぶ歴史を活かす取り組みが、『SEEDバトルデスティニー』のリマスター版を機に活発になっていくことを願ってやまない。

15年遅れの超“いまさら”プレイを通して気づいた、『安藤ケンサク』の史料的価値と不遇の良作たるワケ

4月29日、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」向けゲームソフト『安藤ケンサク』の発売から15年が経った。Googleと任天堂がタッ…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる