安野貴博×バーチャル美少女ねむが考える、メタバースとAIが変える世界のカタチ

ねむが語る、メタバースの基本のキ

メタバースはデータの宝庫 デジタルと人間がつながる世界の実現も

ねむ:安野さんが東京都のDXアドバイザーに就任した際、ブロードリスニングの話をしてましたよね。具体的にどういうことをやるんですか?

安野:まずブロードリスニングの説明ですが、1人の声を多数に届けるブロードキャストの反対で、いろんな人のいろんな声を、1人の頭の中に入れることをいいます。実はこれって政治・公共的なものと相性がいいんですよ。政治は多様な人の多様な意見を聞くことが大事な役割の1つですからね。この技術をうまく使って、都民の皆さんの声を集めることができればすごく有意義なので、提案させていただきました。

ねむ:実は私もまったく同じ悩みを抱えています。メタバースの世界では、現実世界ではできないようなことが行われていて、人類にとって価値があると思うんですが、コミュニティが細分化されているので、全体として住人が何をしているか詳しく分からないんですよ。メタバース版のブロードリスニングができたらいいな。

安野:実はメタバースとはかなり相性がいいと思っています。メタバース内では人間の行動や音声のデータが取れているので、うまく解析し続けてくれる仕組みをつくれば、全自動で今何が熱いのか、文字情報以外の盛り上がりも可視化できるはずです。

ねむ:めちゃくちゃいいですね。今のデジタル技術がデジタル化できていない人間の情緒的な部分、表情や顔の動きなんかも全部データ化されているので、これを言葉にする技術があれば、初めてデジタルと人間がつながる世界を作ることができますね。

メタバースは、人間が作ってきた社会のあり方を書き変えてしまうかもしれない

安野:ねむさんは2つの人格を切り分けて活動されていますが、リアルの知り合いの方とメタバース上で交流することもあるんですか?

ねむ:私は完全に分断していて、ねむとしての知り合いとはリアルで会わないようにしています。リアルな知人に知られている状態と、そうでない状態ではできることの幅が変わると思うんです。私の活動目的は、アバターの力が人格にどう影響を及ぼして、これからどうなっていくのかを自分の体で人体実験をすることで、私の精神にどんな影響を与えて、何が起こるかが興味のポイントなんです。そのためにはなんの制約もなくフルパワーでねむとして活動できた方が絶対におもしろいので、切り離しています。

安野:バーチャル美少女ねむと、現実の身体、完全に切り分けている2つの人格は、相互に影響し合っていますか?

ねむ:私の場合は切り分けていることによってむしろそれぞれの人格の役割がはっきりする側面があって、現実では逆にねむのようなかわいらしい動きをしなくなりました。“魂のデザイン”というか、人格と脳を切り分けた方がいいのか、そうではないのかも試行錯誤の段階で、いろんな形があると思います。魂のデザイン、つまり人間をデザインすることは、最終的に社会をデザインすることにつながっていくと思います。人間をどうデザインし、社会をどう変化させていくかという視点で、これからのメタバース研究を進めていきたいです。

 極端な例ですが、私の調査データの中でもおもしろいのが、恋愛に関するデータです。「メタバース上で恋をするときに相手の中の人の性別は重要ですか」という質問に、約70%の人が「あまり重要ではない」と答えているんですよ。メタバース上では、本人がこうありたいとする性別の姿に見えているので、現実の性別とは関係ない愛のあり方が生まれるんです。また「恋愛するときに相手に惹かれるきっかけは?」という質問に、現実世界では「相手の見た目」と答える人が多いですが、メタバースだと「相手の性格」と答える人が圧倒的に多いんです。

(参考:ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila, 2023)

 少し雑なまとめになってしまいますが、物理現実世界では恋愛感情は異性に対して抱く人が多数派とされている現状がありますが、メタバース空間では、相手の性別に関係なく恋愛するということがもっと起き得るかもしれない。なおかつ現実では本能的に見た目の影響を受けやすいですが、その本能のロックを外せるかもしれないことを、このデータは示唆していると思っています。そうなれば、有史以来400万年、人間が作ってきたこの社会のあり方を書き変えてしまうことさえも可能かもしれません。

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