『黒猫のウィズ』12周年コンサートにみる“圧倒的ストーリーテリング” 川崎に鳴り響いた「レジェンドオーケストラの音色」

スマートフォン向けアプリ『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ(以下、黒ウィズ)』は3月8日、神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホールにて12周年記念コンサートを行った。3月5日にはゲームのリリースから12周年を迎え、コロプラ社の代表作としてファンに愛され続けている。
2022年10月23日、場所を同じくして『黒ウィズ』リリース10周年を前にオーケストラコンサートが行われた。このときに指揮者とアレンジャーでタッグを組んだのは志村健一氏と穴沢弘慶氏。約2年半の時を経て、再び両者が川崎の地に降り立った。コンサートマスターには国内外で百戦錬磨の物集女純子氏、コーラスコンサートマスターには新国立劇場合唱団のメンバーである榛葉薫人氏が名を連ね、パイプオルガン奏者をアニメの劇伴やイベント音楽の録音・演奏を手掛ける井上紗和子氏が務めた。さらに和楽器セクションにはファミ箏が起用され、まさしく盤石の布陣がコンサートを彩った。

開演前から「エニグマデバイスなどの電子機器は音が鳴らないよう、電源をお切りください」などと場内にアナウンスが流れ、我々魔法使いを楽しませてくれる。公演開始直前には志村氏と穴沢氏がイベントストーリー『聖サタニック女学院』のキャラクター・マチューをイメージした被り物を身に着け、来場者への感謝を伝えた。なお、なぜマチューだったのかはのちに判明する。

1曲目は本作のメインテーマ「魔法使いと黒猫のウィズ」。2000曲に迫ろうかという黒ウィズ楽曲の中でもやはり別格の存在感と歴史を持っており、上へ上へと昇ってゆく音の響きを、ミューザ川崎シンフォニーホールはたおやかに表現する。ゲーム起動後にいつも聴く旋律は、辣腕の奏者によってその魅力を存分に引き出されていた。
今回の公演では演奏の内容がセクションごとに分かれており、歴代の周年記念イベントの楽曲がそれぞれ複数まとまって披露された。『幻魔特区スザク』からは「Guardian of Guardian」「HOWLING IMPACT」「STRANGELOVE CLUSTER」の3曲が一気にオーディエンスを高度文明が息づくポストアポカリプスへと誘った。
舞台が舞台であるだけに、原曲はサイバーなニュアンスの打ち込み系のニュアンスをはらんでいる。オリジナルと一味違うアレンジで楽しめるのがオーケストラコンサートの醍醐味だが、「Guardian of Guardian」は特に際立っていたように感じる。井上氏が奏でるパイプオルガンの音色は退廃的な近未来をより荘厳な雰囲気に彩っていた。一見するとSci-Fiな世界観にはミスマッチの「楽器の王様」は、さながら旧文明のアーティファクトのようなたたずまいだった。
続いて、『FairyChord』から「Relation (Ballad ver.)」をはじめとする6曲が演奏された。そのうち4曲はもともとヴォーカルトラックであり、コンサートのパンフレットでも「今回は歌唱曲をインストゥルメンタルに編曲」と言及されている。
「Relation」は原曲からしてバイオリンが印象的な2000年代のエモロックを彷彿させる内容だが、バラード仕様になるとより一層ストリングスが明瞭に聴こえる。とりわけ物集女氏のバイオリンは走りに走っており、歌詞の「高く響け響け響け 未来を切り開く音色」の部分はもはや楽器が歌をうたっていた。
同シリーズの最新主題歌「Calling My Chord」はさながら2人のヒロイン(鶴音リレイとルミスフィレス)の推進力がそのまま表現されているようだった。

続いては『Birth Of New Order』のセクション。同シリーズからは「ミラ・ディエティティス」「ギガント・マキア」「New Order (Acoustic Version)」の3曲が披露されている。
冒頭で榛葉氏の名を挙げた通り、本公演では混声のコーラス隊も起用されている。個人的に彼ら/彼女らの存在感を最も強く認識したのが、「New Order (Acoustic Version)」。原曲は女性ヴォーカルによる歌唱のため、物語の主人公であるイスカ・ニルヴァの観点から歌われた曲のようにも思われた。
それがこのとき、男声パートも入ることによって多面的な味わいももたらしていたように感じる。「New Order」の歌詞に“交わらない運命なら”から“交わらない運命でも”へ、明らかに心象風景が変わるポイントがある。物語としての『Birth Of New Order』は、イスカともう一人の主人公であるリュオン・テラムの決断によって完結へ向かったが、その両サイドの視座を混声合唱はもたらしていたのではないか。
志村氏はレジェンドウィザード(間欠的に行われる対人トーナメントで上位1%)であるため、恐らくこちらの想像以上にギミックとコンテクストを公演の内容に仕込んでいるはずだ。

『想刻ノ魔道士 ~幻の大地 アルタリア~』からは、表題曲「想刻ノ魔道士」を含む3曲。2023年3月に開幕したメインシナリオ新章の楽曲なだけあって、コンサートで披露されるのも今回が初めてだ。
メインクエスト「第3章」は、新たな主人公たちを軸とした同シリーズと、従来通りに「君」とウィズを主人公とした「THE LEGENDS of WIZ」シリーズが入り交じる形で展開されていく。新主人公たちをイメージした楽曲からはフレッシュなイメージを受け、今回の公演でもキラキラした爽快感があった。
二部構成のコンサートのうち、第1部のラストを飾ったのは『黄昏メアレス』。このゲーム屈指の人気イベントストーリーから、最多となる7曲が演奏された。オリジナルの段階でシンフォニック・ロック的なニュアンスの楽曲が多く、「残響dearless」などはオーケストラで奏でられるのを常に待っているかのような迫力と響きがあった。
しかし特筆すべきはその構成。「黄昏に吼ゆ」から「消えないぬくもり」へのメドレーである。夢の怪物〈ロストメア〉たちへの敬意と愛、シリーズを通してプレイしていないと確実に思いつかない圧倒的理解度。レジェンドウィザードの“レジェンド”たる知識量を垣間見た瞬間だった。
こういうときにレベルメアのようなキャラクターの存在を思い出せるのも、ゲーム音楽コンサートの醍醐味だと強く思う。

第2部は『ARES THE VANGUARD』から再開。『FairyChord』に並ぶ6曲が披露され、「英雄大戦」をはじめとする同シリーズの主要楽曲が我々をヒーローの世界へと誘った。“オーケストラに演奏されるのを常に待っている”のは、同シリーズの音楽にも言えるだろう。

この日演奏された「英雄大戦」はオルガンの独奏と混声合唱の相乗効果により、まさしく“神々の戦い”のような厳かな雰囲気に昇華。「BRAND NEW DAY」のようにオリジナルではローファイかつチルアウトな感触の楽曲ですらも、このときは壮大なハーモニーを持っていた。
『ARES THE VANGUARD』のセクションは「HERO IS HERE!!!」で区切りとなったが、この曲は「英雄大戦」と主旋律を同じくしている。そういったストーリーテリングも、やはり巧みだ。

バイオリンが輝いたという点では、『響命クロスディライブ』の楽曲も外せない。ここで披露された3曲は、全体的に90年代のレイヴカルチャーを思わせるビッグビート的アイデアを持っているが、オーケストラで表現されることによってより洗練された質感に仕上がっていた。
表題曲「響命クロスディライブ」では、またもやストリングスがホールを近未来へと導く。聴き馴染みのある美麗なフレーズは、高い天井を目指して飛翔していった。物集女氏の独奏は、オーケストラ全体をけん引するパワーがあった。
続いて、『Diablo Historia』。「Jail of Jewel」をはじめ、「天啓の少女」と「Diablo Emblem」も演奏された。
「Jail of Jewel」は原曲の段階ではメタル調の激しさを持っているが、オーケストラアレンジでもその点は変わらず。ブラストビートの激情をパーカッションを筆頭とするほかの楽器が担っており、オリジナル版が備えている躍動感がほとんどそのまま再現されていた。

そろそろクライマックスが迫るなか、『SOUL BANKER』からは「バトルバンカー」など5曲が披露されている。屈指の人気イベントである同シリーズは、楽曲にも印象的なものが多い。表題曲「SOUL BANKER」はアップテンポな曲ではないが、楽器の一音一音が際立っており、内側からこみ上げてくるような興奮がある。
「Lokesha」ではハープの音色が響き渡り、「ヴァイシュラヴァナ、開門」ではピアノとバイオリンのデュオが実現。ここにもやはり、ストーリーテラーとしてのクオリティを感じる。同シリーズの登場人物は、往々にして二面性(多面性といったほうが正しいだろうか)を持ち合わせている。それを表現する意図があったのかどうかは定かではないが、各々の葛藤や苦悩が見えた気がした。
あるいは、ヴィレス・ニュナンとラシュリィ・ミスクのアンビバレンスな関係を異なる楽器のデュオで再現したかったのかもしれない。

本編の最後を締めくくったのは、『ASHURA:VERMILION EDGE』の4曲。2024年3月に公開された同シリーズは、今回披露された楽曲のイベントの中では最も新しい。ファミ箏の奏者もここで登場し、セクションを通じて大きな存在感を放っていた
「阿修羅のまにまに」はクライマックスにふさわしい祭りの活気があった。そしてオリジナルでは96猫が歌唱を務める「修羅朱/SLASH」は、コーラス隊の活躍もあってまさに大団円といった趣である。『FairyChord』のセクションでも触れたが、今回の公演はヴォーカルトラックをいかにしてオーケストラに落とし込むかが、ひとつ大きなテーマだったように感じる。
アレンジャーの穴沢氏が心血を注いだポイントのひとつなのは間違いないだろう。アーティストとしての遊び心と矜持が垣間見えた。

やや長くなってしまったが、本稿の初めに触れたマチューの被り物の件について語るときだ。アンコールの1曲目に披露された「恋してアイアンヘルム」は、マチューも登場する『聖サタニック女学院2 ~アルトーパークの惨劇~』のイメージソングだ。プロフェッショナルな混声合唱によって格調高い雰囲気に変貌。それでもかわいさがラグジュアリーの鎧を貫き、キュートな歌詞が会場の空気を和ませた。
そして本公演のラストを飾ったのは「黒ウィズグランドフィナーレ」。12年も続くゲームゆえに、どのイベントのどの楽曲をどう演奏するのかにも相当な知識と胆力を要する。コンダクターであるだけでなくコネクターとして楽曲たちを結び付けていた志村氏、実力ぞろいのオーケストラは、さながら本当に魔法のようだった。
13年目も大いに楽しもう。またいつかどこかで再会できますように。

<セットリスト>
- 第1部 -
1. 魔法使いと黒猫のウィズ
2. Guardian of Guardian
3. HOWLING IMPACT
4. STRANGELOVE CLUSTER
5. Relation(Ballad ver.)
6. NightSider
7. Crane's Yell
8. BreakNight
9. Melodious Chord
10. Calling My Chord
11. ミラ・ディエティティス
12. ギガント・マキア
13. New Order (Acoustic Version)
14. 想刻ノ幻書庫
15. 想刻ノ魔道士
16. 想いで刻む真名
17. DECISION
18. MIMICKING BATTLE
19. 残響dearless
20. 黄昏mareless ~MUGITUS LEONINUS~
21. 黄昏に吼ゆ
22. 消えないぬくもり
23. FUL FILL
-第2部-
1. 英雄大戦
2. GOD NUMBERS
3. BRAND NEW DAY
4. Lord of the Dragons
5. PANDORA
6. HERO IS HERE!!!
7. HAND to HAND!
8. Ark's Liberator
9. 響命クロスディライブ
10. Jail of Jewel
11. 天啓の少女
12. Diablo Emblem
13. SOUL BANKER
14. Be On Duty
15. Lokesha
16. バトルバンカー
17. ヴァイシュラヴァナ、開門
18. 鬼哭冥歌
19. 阿修羅のまにまに
20. 六道の辻で
21. 修羅朱/SLASH
-アンコール-
1. 恋してアイアンヘルム
2. 黒ウィズグランドフィナーレ
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