テクノロジー×アートの現在地を体感してーー『マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート』内覧レポート

森美術館『マシン・ラブ』展レポート

韓国の“コロナ禍”から誕生 国際的に高評価を得る映像作品

 キム・アヨンは、映像作品《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》(2022)をゲーム、立体へと展開させた展示空間を構成した。《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》は、アルス・エレクトロニカ賞のニューアニメーション・アート部門で、韓国人として初となる最高賞「ゴールデン・ニカ賞」に輝いた作品だ。

Delivery Dancer's Sphere – trailer | IFFR 2023

 コロナ禍において特に注目を浴びたフードデリバリーの配達員をモチーフにした本作は、そんな配達員と、彼ら・彼女らに最適なルートを示すアルゴリズムに注目し、迷宮のような都市の中で次第に「不可視化」されていく姿を、SF的にまとめ上げた。カットごとに実写映像と3DCG映像を織り交ぜ、独特な世界観を構築した映像作品となっている。本編はWEB上では体験できないため、ぜひ会場で観賞してほしい。

 また《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》を実際にプレイできるゲームや、登場人物を模した立体造形、さらに巨大なwebtoon(韓国の縦読み漫画)風イラストなど、作品の世界観をマルチメディア的に展示。さらにこのマルチメディア的な展開自体が作品の内容とも響き合う構成になっている。

インディー・ゲームを美術館で体験する

 『マシン・ラブ』展では、インディーゲーム作品を実際にプレイできる「インディーゲーム・センター」も登場。本展のアドバイザーを務めるメディアアーティストの谷口暁彦氏が「私と他者」をテーマにセレクトした作品をプレイできる。

 展示エリアには、『プラグ・アンド・プレイ』、『One Last Game』、『ハグゲーム』、『FOUND』といった作品がラインアップ。いずれのタイトルも短い時間で、自分と他者とのつながり、人間同士の出会いといったテーマを感じられるゲームだ。パソコンのブラウザやスマートフォン用のアプリから気軽にプレイできるタイトルばかりなので、気になった方はぜひプレイしてみてほしい。

PLUG & PLAY - Game

 谷口氏は今回のセレクトに際して「短い時間で掴むことのできる作品」を選んだという。「アーティストはゲームという文化を搾取的に用いている懸念もあり、『プレイできる』ということを実践的に試したかった」と語った。

「デジタル作品」を鑑賞するために足を運ぶ意味とは?

 記事内では紹介しきれなかったが、本展では合計12人の作家が展示を行っており、どれもある程度時間をかけながら観たい作品ばかりだ。

アドリアン・ビシャル・ロハス《想像力の終焉》シリーズ

 本展で展示される作品は、映像やゲームなど、デジタルという性質上自宅のパソコンやスマートフォンから閲覧できるものも多く、わざわざ美術館へ足を運び、入場料を支払って観に行く意義が薄いと感じる方もいるかもしれない。

 だが「美術館で見せるとはどういうことか。具体的な場を持つ美術館として、どのような意味、価値があるのかを問いかける」と片岡氏が語ったように、自宅からスマホで観賞するのと、コストをかけて設えられた「場」に足を運んで観賞するのとでは、物理的にも精神的にも全く異なる体験になるはずだ。ぜひ会場に足を運んでみてほしい。

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